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エマニュエル・レヴィナスの思想で読み解くmiletの「Love when I cry」

エマニュエル・レヴィナスの思想で読み解くmiletの「Love when I cry」

miletの「Love when I cry」は、深い感情がこもった楽曲で、その歌詞には愛と痛み、葛藤が詰まっています。一見、感情の動きを描いた歌詞に見えますが、実は哲学的な視点から見ると、さらに深い意味が浮かび上がります。今回は、フランスの哲学者エマニュエル・レヴィナスの倫理的思想を使って、この歌詞を読み解いてみましょう。

エマニュエル・レヴィナスは、20世紀を代表する哲学者の一人で、現代哲学における「他者論」の中心的人物です。1906年にリトアニアで生まれたユダヤ人で、後にフランスに帰化しました。レヴィナスの「他者」概念は、現代の倫理学や社会思想に大きな影響を与えています。彼の提唱する「無限の責任」や「顔の倫理」は、現代社会における他者との関係性や責任の在り方を再考する上で重要な視点を提供しています。

〈他者〉が私のうちなる〈他者〉の観念をはみ出しながら現前する様態を、私た ちはまさしく顔と呼ぶ。

レヴィナス『全体性と無限』藤岡俊博訳、講談社学術文庫、2020年、72頁

「顔」とは、難解ですが、決して『私のもの』にはならない、他者の顔のことを意味しています。『私のもの』にはならない、というのは、他者である顔は「話す」ことによって、私自身のイメージを壊し続けるからだそうです。

他者の存在としての「あなた」

レヴィナスの哲学において「顔」は重要な概念です。顔は他者の存在そのものであり、私たちに倫理的な責任を呼び起こすものとされています。miletの「Love when I cry」の歌詞にも、「あなた」という他者が頻繁に登場し、主人公はその存在に深く影響を受けています。「あなたのいない街は止まらない merry go-round」というフレーズは、他者がいないことで主人公の世界が安定しないことを示しており、他者がいかに大きな影響力を持つかを感じさせます。

これはレヴィナスの思想に通じるもので、他者の存在が私たちに倫理的な問いを投げかけ、責任を感じさせる瞬間が描かれています。他者との関係は、私たちの存在に常に影響を与え、私たちに責任と行動を促すのです。

「Love when I cry」とレヴィナスの愛の倫理

歌詞に繰り返し登場する「Love when I cry」というフレーズは、愛と痛みが一体となっていることを表しています。レヴィナスの倫理において、愛は単なる感情ではなく、他者に対する無限の責任と結びついたものであるとされています。この歌詞では、泣きながらも愛するという痛みを伴った行為が描かれていますが、それでもなお愛することをやめない主人公の姿が強調されています。

レヴィナスが言う「無限の責任」に似た、他者に対して果てしなく続く愛の責任をこの歌詞から感じることができます。愛することは喜びだけではなく、他者の痛みや苦しみも受け入れることを意味しており、miletの歌詞もまさにそのテーマを反映しているのです。

自己喪失と他者への奉仕

レヴィナスの哲学では、他者に対する責任が過剰になりすぎると、自己を見失う危険があるとされています。この「Love when I cry」の歌詞では、「もう1人の私が離さない右手を」といったフレーズが出てきますが、これは他者に引き止められ、自由になれない自分を描写しています。主人公は、他者との関係において、自己を見失いそうになっているようです。

他者との関係において責任を感じすぎることが、自己のアイデンティティにまで影響を及ぼす瞬間が描かれており、これはまさにレヴィナスが警告している「自己喪失」の状況と重なります。

逃避と現実—倫理的責任からの一時的な逃れ

2, 3時間の short trip」「その場凌ぎの逃避」といった歌詞の一部は、現実から一時的に逃れたいという感情を表しています。しかし、レヴィナスの思想では、他者に対する責任から完全に逃れることはできません。逃避は一時的なものに過ぎず、最終的には責任と向き合わざるを得なくなります。この歌詞の主人公も、他者との関係における重い責任から逃れようとしながらも、再びその責任と向き合う瞬間が来るのです。

終わりなき責任としての愛

miletの「Love when I cry」は、他者に対する無限の責任と、それに伴う苦しみを描いた曲です。歌詞に表現されている愛と痛みは、レヴィナスが提唱した「無限の責任」と密接に関わっており、他者との関係が私たちにどのような影響を与えるかを強く示しています。

この歌詞は、単なる感情の表現を超えて、愛することや他者との関わりに伴う責任について深く考えさせるものです。レヴィナスの思想とともに「Love when I cry」を読み解くことで、私たちは愛と責任の本質を再認識し、他者との関係における自分自身の在り方について問い直すことができるでしょう。

音楽が持つ力は、時に私たちに深い哲学的な洞察を与えてくれます。miletの「Love when I cry」もまた、感情の動きと共に、私たちに大きな問いを投げかけているのです。次にこの曲を聴くときは、ぜひレヴィナスの哲学を心に留めながら、歌詞に潜んでいる深いメッセージを感じ取ってみてください。

参考:「他者」と共生する「私」とは誰か ― レヴィナスの思想を手がかりに(藤岡 俊博) #UTokyoOCW https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_2146/


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