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リマインドメール。しばらく知らせないけど戻ってきてね

語学学習アプリで学習をサボっていると、「見てないみたいだから、しばらくお知らせをやめるね」といったメールが届くことがあります。このメールを受け取ると、見放されそうな気持ちになり焦ります。最後通告のような内容なのに、「しばらく」と書いて関心をつなぎとめようとするなんて、人間味にあふれていますよね。

学習記録が消えるわけではないのに、すべてが失われるかもしれないと錯覚してしまうのは、サンクコスト効果です。離脱しそうなユーザーを引き止める手法として、これほど巧みで嫌味を感じないものは、めったにお目にかかりません。UXライターに敬意を込めて拍手を送りたいです。


役割

この語学学習アプリの通知システムの役割は、ユーザーのモチベーションを維持し、継続的な学習を促進することです。ユーザー体験の観点から、この機能は「エンゲージメント維持」と「行動変容の促進」という重要な役割を果たしています。

課題

通知がユーザーに送信される際、その内容やトーンが適切でないと、逆効果を招く可能性があります。冒頭に記した「見てないみたいだから、しばらくお知らせをやめるね」というメッセージは、サンクコスト効果(Sunk Cost Effect)を利用してユーザーを引き留める巧妙な手法ですが、誤解やストレスを引き起こすリスクも伴います。

これらの特徴は、ユーザビリティの原則である下記に合致しており、おおむね適切な設計といえます。

  • 現実世界との一致(Match Between the System and the Real World)

  • エラー防止(Error Prevention)。この場合、学習の中断防止に合致。

リスク

ユーザビリティの観点から、この種の通知には以下のリスクが考えられます。

  1. ユーザーの焦燥感
    通知がユーザーに見放される恐れを感じさせると、逆にストレスや焦燥感を引き起こし、学習意欲を低下させる可能性があります。

  2. ネガティブな感情の誘発
    一部のユーザーは、このような通知を圧力と感じ、ネガティブな感情を抱く可能性があります。これにより、アプリに対する全体的な満足度が低下するリスクがあります。

  3. 離脱の増加
    通知の内容が不適切であると、ユーザーがアプリを完全に離れる原因となることがあります。

これらの潜在的リスクは、「説得技術の倫理」に関連しています。テクノロジーを使って人々の行動を変える際の倫理的配慮が必要です。

出典: Toward an ethics of persuasive technology. Communications of the ACM, 42(5), 51-58. Berdichevsky, D., & Neuenschwander, E. (1999).

解決案

ユーザー体験を向上させるためには、通知の内容やトーンを適切に設計することが重要です。さらなる改善のためには以下の対策が有効です。

  1. ポジティブなメッセージ
    通知の内容をポジティブなものに変更し、ユーザーが学習を再開する動機付けを提供します。例えば、「お久しぶりです!また一緒に学習を始めましょう」というメッセージは、ユーザーに前向きな感情を抱かせます。

  2. 個別化された通知
    ユーザーの学習履歴や進捗に基づいて、個別化された通知を送信します。これにより、ユーザーは自分の進捗に合わせたサポートを感じやすくなります。

  3. 学習の継続をサポート
    通知内に、具体的な学習目標や次のステップを提示し、ユーザーが何をすべきかを明確に示します。これにより、ユーザーは次のアクションを取りやすくなります。

  4. 社会的要素の導入
    友人や他の学習者との緩やかな競争や協力を促す。

  5. マイルストーン設定
    小さな目標を設定し、達成感を頻繁に味わえるようにする

これらの解決案は、「自己決定理論」に基づいています。この理論は、人間の動機づけには自律性、有能感、関係性の3つの要素が重要だと主張しています。

出典: Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American psychologist, 55(1), 68. Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000).

まとめ

語学学習アプリの通知システムは、ユーザーエンゲージメントを維持する上で極めて重要な役割を果たしています。例えば、フィットネスアプリが運動の習慣化を促すように、語学学習アプリも学習の習慣化を巧みにサポートしています。

人間味のある表現と心理的なアプローチは、ユーザーとアプリの間に擬似的な社会的関係を構築します。これは、バーチャルペットのアプリがユーザーの愛着を育むのと似たメカニズムです。

サンクコスト効果の活用は、経済学の原理をUXデザインに応用した好例です。ユーザーが投資した時間と労力を意識させることで、継続的な学習を促しています。

しかし、このような心理的アプローチには倫理的な配慮も必要です。ユーザーの自律性を尊重しつつ、適度な動機づけを行うバランスが重要です。例えば、瞑想アプリが強制的ではなく、ユーザーのペースを尊重するように、語学学習アプリも柔軟性を持たせることが大切です。

UXライターの巧みな文章は、テクノロジーと心理学、そして人間性の深い理解の結果です。これは単なる機能的な通知ではなく、ユーザーとの対話を生み出す芸術とも言えるでしょう。このようなアプローチは、アプリの長期的な成功と、ユーザーの学習目標達成の両方に貢献する可能性が高いのです。


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