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音楽アプリ。尋ねてもいないのにしつこくリコメンド

多くの音楽アプリには、ユーザーの試聴履歴を元に自動でプレイリストを作る機能が搭載されています。

気が利くなと思うこともあれば、余計だなと思うこともありませんか。

例えば、たまたま90年代のヒット作を聞いたとします。そのタイミングで90年代のプレイリストを作ってくるようなアプリは、「これも聞きたいでしょ?」と尋ねてもいないのにしつこくリコメンドしてくる人と同じだと思うんですよね。

皆さんはどう思いますか。


役割

音楽アプリの自動プレイリスト機能は、ユーザーの試聴履歴を分析し、好みに合わせた曲をレコメンドする役割を担っています。この機能は、ユーザー体験を向上させ、新しい音楽との出会いを促進することを目的としています。

ユーザビリティの観点から見ると、この機能はヤコブ・ニールセンのユーザビリティ10原則[1]の「柔軟性と効率性(Flexibility and Efficiency of Use)」に関連しています。経験豊富なユーザーにとっては効率的な機能である一方、初心者にとっても使いやすいインターフェースを提供する必要があります。

課題

しかし、この機能が常に歓迎されるわけではありません。ユーザーの一時的な興味や気分を、長期的な好みと誤認識してしまう場合があるのです。これは、心理学でいう「確証バイアス(Confirmation Bias)[2]」の一種と言えるかもしれません。システムが限られたデータから、ユーザーの好みを過度に一般化してしまうのです。

さらに、人間工学的な観点から見ると、この問題は「過剰適合(Over-fitting)[3]」とも言えるでしょう。システムがユーザーの行動パターンに過度に適応しすぎて、かえって使いづらさを生み出してしまうのです。

リスク

このような不適切なレコメンデーションは、ユーザー体験を著しく損なう可能性があります。ユーザーがアプリに対して「しつこい」「押し付けがましい」という印象を持ってしまうと、アプリの使用頻度が下がったり、最悪の場合、ユーザーが離れてしまったりする恐れがあります。

これは、心理学でいう「リアクタンス(Reactance)[4]」という現象にも関連しています。自由や選択肢が制限されていると感じると、人は反発心を覚えるのです。音楽の選択という個人的な領域に、アプリが過度に介入することで、このリアクタンスが引き起こされる可能性があります。

解決案

この問題を解決するためには、以下のようなアプローチが考えられます。

  1. コンテキスト認識の向上
    ユーザーの一時的な興味と長期的な好みを区別できるよう、アルゴリズムを改善します。例えば、繰り返し、かつ自発的に90年代の音楽を聴いている人は、日常的に90年代の音楽を好んでいると推察できます。これは、認知心理学でいう「行動パターン分析(Behavioral Pattern Analysis)[5]」の応用と言えるでしょう。単発的な行動ではなく、継続的な行動パターンを観察することで、より正確なユーザープロファイルを構築できます。

  2. ユーザーコントロールの強化
    ユーザーが簡単にレコメンデーションをカスタマイズできる機能を追加します。「自動レコメンドをOFF」といったオプションがあれば、ユーザーの自由度が高まります。これは、ヤコブ・ニールセンのユーザビリティ10原則[1]の「ユーザーコントロールと自由度(User Control and Freedom)」にも合致します。
    このアプローチは、人間工学的に見ても理にかなっています。「知覚制御理論(Perceptual Control Theory)[6]」によると、人間は自分の環境をコントロールできると感じることで、ストレスが軽減され、満足度が上がると言われています。音楽選択という個人的な領域でこの原則を適用することで、ユーザー体験が大きく向上する可能性があります。

  3. 透明性の確保
    上記の解決案を踏まえたうえで、なぜその曲がレコメンドされたのか、その理由を明確に示します。「最近90年代の曲を頻繁に聴いているので、こんな曲はいかがですか?」というような説明があれば、ユーザーの理解が深まります。 これは、心理学でいう「情報の開示効果(Information Disclosure Effect)[7]」を活用しています。情報を開示することで、ユーザーの信頼を獲得し、システムとの関係性を強化することができます。

  4. 学習する仕組み
    ユーザーのフィードバックを積極的に取り入れ、レコメンデーションの精度を向上させます。「この提案は役に立ちましたか?」といった簡単な質問を通じて、システムが常に進化していくようにします。 この方法は、機械学習の分野で「オンライン学習(Online Learning)[8]」と呼ばれる手法に近いです。リアルタイムでユーザーからのフィードバックを取り入れ、モデルを継続的に更新していくことで、常に最新のユーザー嗜好に対応できるシステムを構築できます。

まとめ

音楽アプリの自動プレイリスト機能は、ユーザー体験を向上させる可能性を秘めています。しかし、ユーザーのニーズに寄り添いつつ、適度な距離感を保つことが重要です。

実装の際には、プライバシーへの配慮も欠かせません。ユーザーの行動分析は慎重に行い、透明性を保ちながら、快適な音楽体験を提供することが求められます。

理想的なUXとは、「気の利いた友人」のような存在かもしれません。90年代の懐かしい曲を一緒に楽しみ、新しいジャンルの扉を静かに開いてくれる。そんな心地よい音楽の旅の伴侶を目指すことで、ユーザーに寄り添った機能が実現できるでしょう。

出典:
[1] Nielsen Norman Group. (n.d.). 10 Usability Heuristics for User Interface Design. https://www.nngroup.com/articles/ten-usability-heuristics/
[2] What Is Confirmation Bias? https://www.verywellmind.com/what-is-a-confirmation-bias-2795024
[3] Overfitting. https://en.wikipedia.org/wiki/Overfitting
[4] Reactance. https://en.wikipedia.org/wiki/Reactance_(psychology)
[5] BPA - Behavior Pattern Analysis based on the Research of B F Skinner. https://www.researchgate.net/publication/317181075_BPA_-_Behavior_Pattern_Analysis_based_on_the_Research_of_B_F_Skinner

[6] Perceptual control theory.  https://en.wikipedia.org/wiki/Perceptual_control_theory
[7] Information disclosure and the feedback effect in capital markets. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1042957320300516
[8] Online machine learning. https://en.wikipedia.org/wiki/Online_machine_learning


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