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パワーウィンドウ。中央に配置されていて探してしまう

パワーウィンドウ(ウィンドウの開閉スイッチ)が中央に配置されているクルマがあります。私もこのタイプのクルマに乗っていますが、何年たっても窓側を探してしまうんですよね。

クルマの設計知識は乏しいですが、私が内装デザイナーなら、スイッチはドア側につけます。なぜなら、スイッチと連動して動く窓の近くに配置したほうが、直感的に操作できるからです。

しかし、クルマは美的外観が購買意欲に直結する製品の一つです。理詰めで作って良くなる保証がないとしたら、操作性を多少犠牲にしてでも感性に訴えるデザインがあってもいいのではないでしょうか。それも良いユーザー体験の一つになるのですから。

主治医のクルマは中央集約型

注)主治医はカーデザイナーではありません。UI/UXデザイナーから見た考察となります。

役割

パワーウィンドウスイッチは、車内の快適性と安全性に直結する重要なインターフェースです。このスイッチの役割は、ユーザーが簡単かつ迅速に窓の開閉を行えるようにすることです。人間中心設計の観点からは、このスイッチの配置は「ユーザーの期待」と「操作の自然さ」を満たす必要があります。

ユーザビリティの観点からは、ヤコブ・ニールセンの10原則の中の下記に関連します。

  • 一貫性と標準化(Consistency and Standards)

  • 柔軟性と効率性(Flexibility and Efficiency of Use)

スイッチの配置が一貫していれば、ユーザーは異なる車種でも迷わず操作できます。

課題

中央配置のパワーウィンドウスイッチは、直感的な操作を難しくする可能性があります。これは「空間的近接の原理」という認知心理学の概念に反しています。この原理によると、関連する情報や操作要素は物理的に近くに配置されるべきとされています。

また、長年の習慣で窓側にスイッチを探してしまうユーザーの行動は、「自動化された行動パターン(Automaticity)」と呼ばれる認知バイアスの一種です。これは、頻繁に行う動作が無意識のうちに自動化されることを指します。

出典: Automaticity—Why We Act Without Thinking by Kendra Cherry, MSEd.

リスク

中央配置のスイッチは以下のリスクを伴う可能性があります。

  1. 操作ミスの増加
    特に緊急時に窓を開ける必要がある場合、スイッチの位置を探す時間が安全性を脅かす可能性があります。

  2. ユーザーの不満
    直感に反する設計は、ユーザー満足度の低下につながる可能性があります。

  3. 認知負荷の増加
    慣れない配置は、運転中の注意力分散を引き起こす可能性があります。これは「認知的リソースの分散」という人間工学の概念に関連します。

解決案

  1. ドア側配置
    スイッチを窓の近くに配置することで、直感的な操作を可能にします。これは「自然なマッピング(Natural Mappings)」というドナルド・ノーマンの概念に沿っています。

  2. ハイブリッドアプローチ
    中央とドア側の両方にスイッチを配置し、ユーザーの好みに応じて選択できるようにします。コストの問題はありますが、ニールセンの「ユーザーのコントロールと自由度(User Control and Freedom)」の原則に合致します。

  3. 視覚的なガイド
    中央配置を維持しつつ、ドアパネルにスイッチの位置を示す視覚的なガイドを設置します。これはニールセンの「システム状態の可視化(Visibility of System Status)」の原則に沿うといえるものです。

  4. カスタマイズ可能な設計
    スイッチの機能割り当ての変更が可能な場合、あるいはデジタル化されている場合、ユーザーが好みの位置にスイッチの機能を割り当てられる設計を採用します。これはニールセンの「柔軟性と効率性(Flexibility and Efficiency of Use)」の原則に沿っています。

まとめ

パワーウィンドウスイッチの配置は、機能性と美的デザインのバランスを取る必要がある典型的な例です。直感的な操作性を重視するならドア側配置が理想的ですが、車の内装デザイン全体の調和も無視できません。

美しいデザインと使いやすさの両立は可能であり、それこそが優れたユーザー体験を生み出す鍵となります。私たちUI/UXデザイナーは「形態は機能に従う(Form Follows Function)」というデザインの基本原則を念頭に置きつつ、感性に訴える要素も取り入れ、機能性と美しさを兼ね備えたデザインをデジタルの世界で生み出すチャレンジをし続けています。

参考:形態は機能に従う by UX TIMES

カーデザイナーは私たちの先駆者でもあり、学ぶべきことが多い存在です。彼らは複雑な要件の中で、美しさと機能性を両立させる困難な挑戦を日々行っています。クルマを愛する1人として、美しくて機能的な車を生み出すデザイナーを深くリスペクトしています。

カーデザイナーたちはこれからも革新的な車を生み出し続けてくれると確信しています。彼らの創造力と技術力が、より良いユーザー体験と美しいデザインの融合を実現し、私たちに新たな驚きと感動をもたらしてくれることを願いながら。


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