見出し画像

組織キャンプ2.0 ― 新時代に求められる「ピープルマネジメント」

キャンプと聞くと、多くの人が思い浮かべるのは、焚火を囲んで過ごす夜や、テントでの楽しいひとときかもしれない。しかし、組織キャンプにはそれ以上の可能性がある。特に現代、企業や社会が直面している課題を解決するプラットフォームとして、組織キャンプは進化することを期待されている。

組織キャンプと呼ばれるキャンプでは、キャンプのねらいや目標を達成するために、キャンプの責任者や指導スタッフの役割分担と機能を明確にしてキャンプを運営、展開していくのが特徴です。

(公社)日本キャンプ協会 https://camping.or.jp/learn-camping/camp

ただし、進化するには課題を整理し、新しい視点を取り入れる必要がありそうだ。今回提案するのは、「ピープルマネジメントディレクター(PMD)」という役職だ。この役割が組織キャンプの質を高め、社会や企業の課題解決にもつながると考えている。

本稿では、まず日本における組織キャンプの歴史と現状をかるく振り返り、次にその課題を整理し、この新たな役職がもたらす未来について探究してみたい。


歴史の中に見る組織キャンプの可能性

1. 青少年教育の原点:日本におけるキャンプのはじまり

日本の組織キャンプが始まったのは、1910年代。記録に残る初のキャンプは1920年に大阪YMCAが六甲山麓で行った天幕生活といわれている。また、ボーイスカウト運動が日本に伝わったのも同時期で、1922年には「少年団日本連盟」として世界スカウト運動に正式加盟した。これらは青少年が自然の中で自己を鍛え、他者と協力する力を学ぶ場として、現在まで続いている。

これらの活動は、たとえば、次のような目的を掲げてきた:

  • リーダーシップ育成: 自然という制約の中で、意思決定力や責任感を磨く。

  • 協調性の向上: チームで活動する中で、仲間との連携や課題解決の力を養う。

  • 人格形成: 自然とのふれあいを通じて、感受性や倫理観を深める。

これらの要素を通じ、組織キャンプは単なる娯楽ではなく、社会教育の一環として確固たる地位を築いてきたといえる。


2. 現代に広がる組織キャンプの多様性

現在の組織キャンプは、時代のニーズに合わせてその形を進化させている。いくつかの具体例を挙げよう。

  1. 青少年教育
    自然体験を通じてリーダーシップや非認知スキルを育むプログラムが中心だ。文部科学省の調査では、自然体験が豊富な子どもほど「生きる力」が高まり、学業やスポーツへの積極性が向上することが示されている。

  2. 企業研修
    アウトドア環境を活用した課題解決型プログラムが企業研修として注目されている。非日常の体験を通じて、チームビルディングやリーダーシップ育成を行う手法は、多くの企業で採用されている(下記のリンク参照)。

  3. 地域・文化体験
    地域住民との交流や環境保護活動を組み込んだキャンプが増加している。地域資源を活用することで、参加者に地域文化や自然とのつながりを感じさせ、孤立感を抱える人々をつなぐ役割も果たしている。


組織キャンプの課題と現行のマネジメント体制

現行のマネジメント体制と役職

日本キャンプ協会では、組織キャンプを運営するために以下の役職を設けている:

  • キャンプディレクター: 組織全体を統括し、目標設定や安全管理を担う。企業でいうところの、組織マネジメントの仕事が当てはまりそうだ。

  • プログラムディレクター: 各プログラムの企画・運営を担当し、現場の活動を主導。企業的には、事業マネジメントとピープルマネジメントを担当するミドルマネージャー、といえる。

  • マネジメントディレクター: リソース(予算、人員、物資)の管理を行い、運営効率を最適化。企業的には、事業マネジメントの仕事。

これらの役職は、それぞれ専門性を持ちながらも連携することでキャンプ運営を支えている。しかし、ピープルマネジメント(人材や人間関係の管理)を専門とする役職は存在せず、この領域はたいていプログラムディレクターが兼務している。

主な課題

組織キャンプは可能性に満ちているが、分断が進んだ今の時代的にいくつかの課題も浮き彫りになっていると感じている。個人的な課題感として、たとえば:

1. ピープルマネジメントの不足
スタッフや参加者が安心して活動できる「人と人」の環境づくりが十分ではない場合がある。「心理的安全性」の欠如は、キャンプ体験そのものの質を低下させるリスクがある。

2. 役職の負担過多
現在、プログラムディレクターが運営とピープルマネジメントを兼務している場合が多い。その結果、どちらの役割にも十分なリソースを割けない状況が生じている。

3. 環境教育と人間関係のギャップ
環境教育を成功させるには、まず「人と人との関係性」をケアし、協力的な場を作る必要がある。「人と自然の関係」を学ぶ前に、「人間関係の土台」が不可欠だ。心理的安全性が欠けた環境では、参加者が主体的に行動することは難しい。


後半部:ピープルマネジメントディレクター

後半部の内容
ピープルマネジメントディレクター(PMD)の具体的な役割
・組織キャンプにおける役職間の連携
・PMDがもたらす社会と企業へのインパクト
後編では、組織キャンプが進化する鍵を探り、その未来像を描いていく。

ピープルマネジメントディレクターとは?

役職の必要性と具体的な役割

ピープルマネジメントディレクター(PMD)は、組織キャンプにおける「人間関係のデザイン」を専門とする役職だ。参加者やスタッフの心理的安全性を確保し、活動の中で生まれる学びや成長を最大化するために重要な役割を担う。具体的には、たとえば、以下のような機能を果たす。

  1. 心理的安全性を守る環境づくり
    PMDの最優先事項は、参加者やスタッフが安心して活動できる環境を整えることだ。心理的安全性がある場では、誰もが自由に意見を言い、新しい挑戦に踏み出しやすくなる。この環境が、キャンプの学びやチームの一体感を深める鍵となる。

  2. チームビルディングの促進
    組織キャンプの活動は、個々がバラバラではなく、1つのチームとして連携することで成り立つ。PMDは、スタッフ間や参加者間の信頼関係を構築し、互いに協力し合う文化を育む役割を果たす。

  3. 振り返り文化の醸成
    キャンプ中、そして終了後の振り返りは、活動中の経験を体系的に整理し、次の成長につなげる大切なプロセスだ。PMDはこの振り返りセッションをデザインし、参加者が自分自身の学びを深く実感できる場を提供する。


他の役職との連携

PMDは、キャンプ運営における中心的な役職と連携することで、その機能を最大化する。

  • キャンプディレクター: キャンプ全体の方針を共有し、心理的安全性を中心にした運営を支援する。

  • プログラムディレクター: プログラム運営における人間関係のケアをサポートし、活動の質を向上させる。

  • マネジメントディレクター: スタッフの労働環境を整え、チーム全体の運営効率を向上させる。

これらの連携が、キャンプの運営をスムーズにし、各役職の負担を軽減することにつながる。


PMDがもたらす変化

1. 組織キャンプの質的向上

PMDの導入により、組織キャンプは、たとえば以下のように変化するんじゃないか:

  • 参加者の成長促進: 心理的安全性が確保された場での活動は、参加者がより深い学びと成長を得るための基盤となる。

  • スタッフの働きやすさ向上: 業務の負担が適切に分散され、スタッフが自分の役割に集中できる環境が整う。

  • 持続的なコミュニティ形成: キャンプが一過性の体験にとどまらず、参加者同士のつながりが続く場となる可能性が広がる。

2. 社会課題への対応

PMDは、現代社会が抱える以下のような課題に対しても効果的にアプローチできる:

  • 孤立感の軽減: 世代や文化を超えた交流を促進するキャンプの場は、孤立感を抱える人々に新しいつながりを提供する。

  • 多様性の受容: 異なる背景や価値観を持つ人々が自然の中で協力し合うことで、多様性への理解が深まる。

  • 環境問題への意識喚起: 自然の中での仲間との共同体験を通じて、参加者が環境意識を向上し配慮行動をする契機となやすくなる。

3. 企業課題へのアプローチ

企業の人材育成やチームビルディングにもPMDは大きな貢献を果たす:

  • エンゲージメント向上: 心理的安全性が確保されたキャンプは、従業員同士の信頼を深め、職場でのエンゲージメントを高める場となる。

  • ピープルマネジメント育成: 体験型プログラムを通じて、マネージャーとしてのスキルを実践的に学ぶことができる。

  • チームの結束強化: リモートワークやDxが進んだ職場で希薄化した人間関係を再構築し、チームとしての連携を強化する。


キャンプは社会を変える力を秘めている

組織キャンプは、青少年教育、地域活動、企業研修の枠を超え、社会や企業が抱える課題に応えるプラットフォームへと進化している。その中で、ピープルマネジメントディレクターという役職は、キャンプの可能性をさらに広げる存在となり得る。

心理的安全性を確保し、多様な人々を受け入れる場を提供すること。そして、持続可能な社会を目指し、環境とのつながりを深める場をつくること。このような取り組みが、キャンプという活動に新たな価値を与える。

アウトドアの中で生まれる学びは、社会を変える力を秘めている。その力を信じ、新しいキャンプの未来を共に創り出していきたい。


いいなと思ったら応援しよう!