映画感想:Cloud クラウド
皆さんは転売って悪だと思いますか?
正義か悪の二元論でいえば悪だとは思いますが
転売行為を取り締まれる法律はないですし(ライブチケットなんかに対するチケット不正転売禁止法ってのはありますが)
仕入れた物品に対して、需要に応じた価格設定をして販売する、なんてありとあらゆるところで行われている行為なので、転売=悪、と簡単にスパッと言い切るのは少しズレているんじゃないかと思っています。
ただし、ポケカやガンプラみてえな、子どもの需要を食いつぶす転売は許さねえからな!!!
そんな転売について、チラと出てくる映画です。
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まだ上映中の最新作なので未鑑賞の方は、自己責任で読み進めてね。
日本の巨匠、黒沢清の最新作です。
つっても黒沢清作品にはそこまで明るくなく、履修しているのは「CURE」「回路」「クリーピー」ぐらいのもんです。
つい最近は短編映画「Chime」が話題になっていたのもあり、気になって観てみました。
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ざっくりと感想
変な映画やの!!
前半の不穏なホラーな雰囲気から一転、後半は一昔前の銃撃戦。高低差がありすぎて、なかなか気持ちがついていけずおいてけぼりを喰らう!!
登場人物はみな言葉数が少なく、行動の意図がわかりづらい!!
作中でも言われてるよ「目的は何なんだ!」って、ほんまそれやで何を目的に行動しているんだよ全く。
菅田将暉の存在感と演技力、どんな風貌であってもなんやかんや「絵」になる俳優パワーがなかったら終始退屈になってた可能性は十二分にある。でもこの作品の主演は菅田将暉であることが間違いないので無問題(モウマンタイ)なんですけど…
銃撃戦に物語がシフトするまでは、「転売」というちょっとした悪(私は冒頭で記した様に転売をちょっとした悪程度に捉えています)をことさら強調して物語を進めていきますが
あまりにも主人公・吉井が「転売」を舐めている…
いや俺は転売ヤーではないんだけどさ…
だって需要がどれぐらいあるとか類似した商品がいくらぐらいの価格で取引されているとかの調査も一切しなければ、商品の写真はしっかりと良さげなカメラで撮影する癖に、ペイントで編集してダッセェフォントで文字入れして…そんなことするんやったらアイフォーーーンで写真撮ってアプリで加工して出品せぇ!!!あとなんやねん古めかしいオークションサイト使って…メル〇リ使えよメ〇カリ、〇ルカリ使ったらポイントも貯まるから。あと転売用のアカウント複数用意しとけよ、なんで悪評ついたアカウントをそのままずっとつこてんねん、なんのこだわりやねん。しかもそのアカウントで販売してるもんを買う消費者!アホの佃煮か!!
っつってもこの抜けてるところがある不完全なところが、吉井という人間をあらわしてるといえるでしょう。
いえ、Cloudに出てくる人物はみな空虚!がらんどうな印象を受けましたわ。
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タイトルのCloud とは??
こっから私なりの考察を落としていくんですが、タイトルのCloudが何を意味しているかを記します。
作中でも台詞で示唆されたり、映像で印象的に描かれた「雲」としてもCloudだったり、SNSやオークションサイトのようなクラウドサービスとしてのCloudだったり、を表してるんだろうけど
じゃあ「雲」は何を示すのか、ですよ。
実体を持たず、フワフワと宙に浮かぶ雲は
まるで、作中の登場人物たちのようだ、と私は思いました。
吉井なんてそうじゃないですか。
楽に稼ぎたいからと転売はするけれど、まともな調べ物はせずに一か八かの杜撰な商売しかせず。そのくせ、所帯は持ちたいなんて矛盾する幸せを望んだり。すんげーぼんやりした印象を受けるんですよ。
佐野もそう。
なぜそこまでして吉井に入れ込むのか。
秋子もそう。
なぜそこまで金に執着するのか。
みんなぼんやりしてるんですよ。でもこのぼんやりした感じ。確固たる目的がない、実体がない行動原理のままに動いている感じ。でもこれがリアルな感じもしませんか。それは本当に確たる物がない人もいるだろうし、本来は伝えるべき目的を表現できなくて、他人からは理解を得ることができない人もいると思います。
でもそんな人ばっかりじゃない?ぶっちゃけ?
自分はそうじゃないって言えますか、雲になってませんか?
ちゃんと目的をもって行動できていますか。
キチンと意思表示できていますか。
ぼんやりと生きて大した目的を持たずただ漠然と幸せになりたくて、でも他人の幸せや利益には人一倍敏感な厄介な損得勘定は持ち合わせてて、足の引っ張り合いが目的化して生きてませんか。
そんなの、よくないよっ…
っていうメッセージを、私は勝手に受け取りました!
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音と光の表現が良かったね。
前半のホラー感を加速させたのは圧倒的に音の力でしたね。
バスのワンシーン、本当になんてこと無い場面なのにあんなにも恐怖を感じたのは、違和感を感じた瞬間に訪れる静寂、バチンと頬をはたかれるような表現でした。さすがホラーようけ撮ってはる!
ほんでラストシーン、車の中の吉井にかかる影よ。
うっすらと光が反射する瞳と影のコントラストで、まるで人ならざる者になったように見えました。それこそ、悪魔のように。
荒唐無稽に感じる物語の中で
要所、要所で監督の技術が垣間見えるのも面白ポイントでした。
オススメです。