今夜から、日課としていた素振りが、竹刀から金属製のバットへと入れ替わった。 今は便利な世の中で、スマホを少し弄れば、野球が上手いと自負している者が、素振りを…
初めて見る景色は、思っていたより何倍も広かった。 ここで十八人の選手が戦う。一人が皆のために。勝利という、同じ目標に向かって助け合う。なんと熱いものか。 自…
「ここか」 小さな村なので、親しくない者の家も、数人の村人から聞けば知ることができた。 簡単な作りの木製扉をノックすると、自分が来るのを待ちわびていたのだろう…
「ねえねえ、君はここをどう思う?」 飯を口に入れようとしたタイミングで、隣から声を掛けられた。誰かと思えば、自分と同い年のリュウヤだった。同い年ではあるが親し…
あれを、集団下校の中で見つけた。 俺はそれを、『クロ』と呼んだ。こんなにも幼い『クロ』を、俺は久し振りに見かけた。 俺はすぐに、ゆっくりと『クロ』の跡をつけ…
日賀月成
2021年4月4日 22:10
今夜から、日課としていた素振りが、竹刀から金属製のバットへと入れ替わった。 今は便利な世の中で、スマホを少し弄れば、野球が上手いと自負している者が、素振りをしている動画を見ることができる。おまけに解説付きで、素人である俺にも理解し易いものだった。 俺はそれに倣いながら、素振りを三十回ほど繰り返す。一回一回素振りをする内に、数秒前の自分よりも上達しているように感じた。最近の剣道の練習では感じる
2021年2月18日 18:17
初めて見る景色は、思っていたより何倍も広かった。 ここで十八人の選手が戦う。一人が皆のために。勝利という、同じ目標に向かって助け合う。なんと熱いものか。 自分は、本当に小さな世界の中で戦っていたのだと思い知る。孤独で寂しく、そして主に個々の実力だけが左右する厳しい戦い。 これからの未来を想像すると、目の前のグラウンドのように、俺の胸は広大な期待感でいっぱいになる。 初日の練習が終わり
2021年2月8日 16:37
「ここか」 小さな村なので、親しくない者の家も、数人の村人から聞けば知ることができた。 簡単な作りの木製扉をノックすると、自分が来るのを待ちわびていたのだろうか、すぐに扉が開かれた。「やっとお出ましだね! さあ中に入って、入って!」 キョウスケが一歩家の中に足を踏み入れるや否や、すぐに扉は閉められた。「そこへ座ってよ」 そう言うのと同時に、リュウヤは鍵を掛ける。この村に、あまり鍵を掛け
2021年2月3日 16:27
「ねえねえ、君はここをどう思う?」 飯を口に入れようとしたタイミングで、隣から声を掛けられた。誰かと思えば、自分と同い年のリュウヤだった。同い年ではあるが親しくはない奴だ。「ここ? 飯を食う場所だ」 キョウスケはそう答えると、飯を口一杯にほおばった。その姿を見ながらリュウヤは固まる。キョウスケの答えは、予想していなかったものだったようだ。「はっはっは! 違う違う! 『ここ』っていうのはこの
2021年2月2日 19:19
あれを、集団下校の中で見つけた。 俺はそれを、『クロ』と呼んだ。こんなにも幼い『クロ』を、俺は久し振りに見かけた。 俺はすぐに、ゆっくりと『クロ』の跡をつけた。『クロ』が一人になるのを待つためだ。一刻も早く接触を試みたいが、内容が内容だけに憚られる。 ただ今が、下校で良かった。これが登校の方だと一人になるのは待てない。ツイていた。 十分ほど追いかけただろうか、『クロ』は一人になった。