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「置き場」第6号感想
短歌連作サークル「置き場」さんを読んで、勝手に感想書いてきます。
※素人感想なので的外れや駄文、読み間違いろいろあるかと思われます。ご了承ください。
※※偉そうになっちゃってたらごめんなさい。いや、ほんとごめんなさい。
本編はこちら↓
タイトル 作者
感想欄
以下より始まります。
家にいた くろだたけし
記念、記録、誤操作といきなり続く単語のリズムが心地良い。自虐というほどではないけど自分を少し卑下というか、ネガティブ方向に見て気づくことのできる自分以外のキレイさ。
月は雲間に 涸れ井戸
都内の地名って書くだけでなんで哀愁漂うんだろう。「魑魅魍魎」「怪老」などの時代感じさせる言葉の直後に「フリーワイファイ」と現代。このユーモア見習いたい。最後は美しく、だね。
「風の色」 青村豆十郎
「手提げ鞄で気分が見える」という発想にまずヤられる。着地カッコいい。横のひらがなはルビの意味に加えて、なんていうか掛け軸的な美しさもある。ひらがなフェチにはたまらない。特に好きなのは恋する画工。
残業 塩川栞
自販機とかセミロングとか想像しやすい具体例が短歌にちゃんと収まってるのすごい。決して綺麗なだけじゃない残業の現場で蚊についても触れる、その選ばないスタイルが綺麗。最後のアイスのやつ好き。
一億年の眠り 玉眞千歳
和洋折衷の竜宮城が舞台というのがもう素敵。この連作、小説で読みたくなる。言葉も軽やかで、海亀の日常や草野球するアンモナイトの描写が楽しい。着飾ってない竜宮城っていいなと思っていると「研修生」という言葉にドキッとする。あ、そういうこと? 考察が捗る。
どこでも水源地 須藤さくら
「きみがいたから朝」って文章すごい。そこにやられる。登場する2人が一緒に過ごした色々を隙間から覗いている感覚。「気休めみたいな水」「〜と教えてくれた人のサンダル」名詞に流れる物語が素敵で、2リットルの麦茶を待つっていうことは例年通りに過ごす夏を、この2人はいつも待っているのかな。
サマカットブルース 湯島はじめ
自由。確かにこれはブルースかも。ブルースとは何かと訊かれたら答えられないけど。「〜好きだ なくても」で着地してるのに違和感がない、いや違和感があるからこそ心に残るのか。巧みさに嫉妬する。好きなのは「店員だった架空の記憶」と、最後の。青い道につける形容詞に「つんと」なんて自分には絶対書けない。
エビ 奈瑠太
エビに深くのめりこむと、ここではないどこかに連れてもらえるのを教えてくれる。その生物のデザインの奇妙さ。ポテンシャルの高さを言語化できる凄み。「自己都合それってまあまあ侵略でした」の、侵略という言葉の頭に「まあまあ」とつけるアンバランスさ好き、これが詩ってやつなんだね。突如出てくるリプリーが嬉しい。まるで僕らはエイリアン。
イ重力 柳川晃平
タイトルがオシャレ。現代のようだけど少し違う街並みを案内されてる気分。たぶん、どちらでもいいのかも。ステキ。
重奏 石村まい
キリギリスをひらがなで書くのセンス。それぞれの短歌が重ねられてひとつの楽曲のようにまとまる不思議。タイトルの意味これかな。「別の名で歯を研ぐ」なにその発想、天才。
剥製 珠海ユラ
「盗品じみた酸素」「夏とはぐれたかった」「パプリカの虚」出てくる言葉たちが結晶みたいみたいに鮮やかで。錆びついたり焦がれたり恋したがったりと、何かが何かに変わる途中の様子をこの短歌は書いてるのかも。最後「会えなくていい」が「会えなくてもいい」じゃないのが好き。
四人 森屋たもん
「全員のうどんを無断で弟が頼んだ」に思わず吹く。カート・ヴォネガットが自伝で「人生はユーモアだ」と書いてたけどまさにそれを体言してる感じ。タイトルは家族ってことかな、なんだかんだ仲良さそうで、村上春樹氏が「本当に仲の良い家族はハットトリックくらいの確率で存在する」と書いてたのも思い出した。この連作はハットトリックの予感がしてほっこりする。妹さまの今後を勝手ながら祈りたくなる。
四季のうた 唾蜜堂
タイトルでMINMIを連想した、たぶんそれとは関係ないけど。
炎天 まさけ
まさに炎天下の夏を表現してくれてるうえに、「〜今夏最強弱冷房だ」にはちらっとシニカルさが見え隠れする。意味もなく借りるのが江國香織さんというのも良い。そういえばすごく痩せられてしまっていたけど大丈夫かな。恋なら鎮火なんかしなくていいよと、つい言いたくなる力をもつ文章。
遣る父の手 麻倉ゆえ
納棺時に漂うあの何とも言えない不思議な空気を伝えてくれてる。悲しみだけでは足りないからこそ、こういう文章は心にくるのかな。「ドライアイスに守られた父」と書けるこのかたの優しさに想いを馳せる。
ライカⅡ 西鎮
Ⅱってとこがなんか好き。夏の短編集を読んだかのような読後感。爽やかだけでは終わらない何かを感じる。カーヴミラーを「遺影」、湯に浸かった(←たぶん)半身を「船」にしてみせる文章力に舌を巻く。矯正の見積もりを待つやつも好き。
充電しなきゃ 可視
携帯の充電というものすごく細かな日常を粒立ててる秀作。「必要な白目ですあなたは」っていう敬意の表し方に惹かれる。
C(15) 布野割歩
いきなり小さい見出しで始まる、何これすごい。この最初の文章が背景かのように常に頭の隅にありながら続きを読むことになる。お見事ですと偉そうで恐縮ながらも拍手したくなる。その構成も、「途方もなく途方に暮れた〜」と反復させる書き方も躊躇いを感じないところが素敵。「サムライマックのかっこわるさをもっと大事に〜」という着眼点。拍手。
侃侃諤諤 君村類
ぱっと見て気付くカタカナの冒頭群に、作者さんの表現方法に芯があるのを感じる。でも押し付けがましい印象は受けないし、どの短歌も優しくてほろ苦い。「キウイフルーツふたつに割って善人の色をしているほうから食べる」これ大好き、最高です。
Boring suburb 村上航
英語表記のタイトルを短歌でやる人が存在することは知ってたけど、違和感なくやってのけるこの感じ。ミランダ・ジュライ感あって途端に惹き込まれる。ここに登場する「自分」と「あなた」の物語は、2人だけの秘密でここに書かれてるのは外側だけなのかな。それもまた良い。
アネクメーネ ぼしゅん
こういう着眼点を持つ人の目を一度は借りてみたいと思う。着眼点の鋭さに留まらず「確かな0」として生まれる霜とか書かれると、地に足のついた巧みさがすごい。アネクメーネってそういう意味なんだ。SF? 何か壮大な映画の傍らで紡がれる小さなお話を目にさせてもらえたような。ありがとうと言いたくなる。目を借りると、返す前に汚してしまいそうだからやめておく。
表裏 岡本真帆
「上手く歌える才能がきみにはあってきみも知らない」ドキっとした。この歌に「表裏」というタイトルの本質が込められているような、いないような。
「類語から類語へ渡る飛び石」ってとこも好き。
君が潜る 水面
最初に「舞鶴」という実在する地名が出ることで、読むこちらも身が引き締まる。この連作もひとつの小説のようで、その内容そのものではなく中身をくり抜いた外側の部分を、VIP席にて魅せてもらってるようで。
何か素敵な出会いがあって、でも成就までには至らなかったのかな。願望系で終わる最後が切ない。
橋は渡らない 有村桔梗
タイトルが否定系でつい身構えてしまったこちらの心を、すぐに溶きほどしてくれる優しい連作。古めかしい文体も違和感なく寄り添ってくれる。「きみ」と「わたし」がいると書いた直後に「社会とはすこしさみしい世界のことだ」とある。でもそこにすんなりと腑が落ちる。その文章力、そのパワーがすごい。
最後に「人魚」という、どこか遠い世界のものを出すところ、にくいね素敵だね。
小さな家 篠原仮眠
盗みやすい宝箱、ってなんかいいね。好き。
Childhood ep.6 なかた浜
もしかしたらこれは続きモノなのかな。ひとつひとつの描写が読み手をワクワクさせてくれる。
長く短い 今井マイ
剥き出しの感情を見させられた感覚。鋭さがあって、でもどこか弱々しくもあって。うーん、今作の読後感を伝えられる文章力がないことがつらい。そっか、長く短いんだね。
ビールは迷惑だったとしても 金森人浩
「ねえ秩序」だって。いつから秩序や混沌と会話できないなんて思い込んでしまったのだろう、浅はかな自分。最後のビールの歌好き。
日灼け 牧角うら
ノウゼンカズラが咲いていて、部屋にある仏壇からはお線香の匂いがして、いつかの夏に皆でした花火の記憶がいつまでもそこにあって、そんな自分じゃない誰かの夏の記憶を贈られたような文章。
「不器用なあにきのずっと不器用なゆび」この表現大好き。
カーネーション、ゆり、ゆり、ローズ そらとクローバー
タイトルの付け方おしゃれ。
「世界には正解があると知る わたしも」ということは、他にもそれを知っている誰かがいるのか。想像力が捗る。
夜行性無機物 春野昼寝
途中から文体変わる? 平穏で静かな世界がいつからか殺伐としたものになってるそのヒリヒリ感。それとも最初からそれはあったのに自分が気づけなかっただけかも。最後の「俺」をPとした時の「解なしのQ」には痺れた。月が二つあることを教えてもらったときのあの感覚。
× 10000 永井駿
夏の日常が流れている中を黒服スーツの男がひそかに闊歩するような、そんな印象を抱かされる文章。その黒服だって「服を選んだ人」のうちのひとりなのも確か。
「夏という箱は〜」「感じって感じって〜」ちくりと痛いところを突かれた気分になった。そんな自覚もさせてくれた。
飽き秋 無欲
「夏が終わる前から〜」夏と秋の関係性を、手のひらの熱で溶けるアイスで表現せしめる巧みさ、読点の置き方も心地良い。
丸太小屋 武田ひか
たどり着かないなめろうの秘密、って時点でもうやられる。折れた手の骨と蝉の鳴き声という景色にも凄みがある。かと思えば「阿波踊りへのムーヴ」なんてハイカラな言葉も使って寄り添ってくれたりもする。良いなあ。
廻遊経路 キマユ
帰省か小旅行か、そのどちらもなのか。シンプルな夏ならではの言葉たちに力強さを感じる。右ストレートでぶっ飛ばす、みたいな。そんな中で通知が来る「業務連絡」と「シカゴ・カブスの試合結果」。この非情なまでのリアリズムがヒリヒリしてて好き。
日常を謳歌したい 石川順一
鯉やヤゴ、百日紅などの自然に思いを馳せる中で出てくる「プロキシ」という現代。幻想的な夏のひと場面に出てくるには似つかわしくないその言葉に人間味が溢れ出ているようで。
「ブナシメジケチャップ」というのは勉強不足でわからなかったけど、あえて調べずにそのままでいることにする。何かわからなくてもその素敵さが感じ取れる作者さんの文章力のおかげ。
やすみの森 杜崎アオ
最初の歌から惹き込まれてしまった、わすれる係がいるという発想。「白のうむ白また白へ〜」という白の三連単にやられる。最後の「個室」という言葉からはなぜかネットカフェの個室を思い浮かべてしまった。そうやって自分の過去の思い出が引っ張られるパワー。勝手ながら参りました。
感想は以上になります。
最後に
みんな、素敵でした。
おわり