【僧侶の視点】坊主丸儲けは真実なのか

はじめに

 さて、自己紹介を除けば初の記事。タイトルを見ての通りだ。実はこの言葉、お寺に関わる人間なら必ず一度は尋ねられてことはあるといっても過言ではないだろう。
 事実、私も学生時代に同級生から聞かれたことがある。その時の回答は「さぁ?」。当然だ。まるで寺の運営には関わっていなかったのだから。

 よくよく考えてみれば家族旅行に1年に一度連れて行ってくれた。大学の学費も全て出してくれた。いわゆる中流階級な暮らしはさせてもらっていた。

 しかしながら、歳を重ね、副住職としてさまざまな経験を積み、他のお寺とも交流していく中で、上記の問いかけに関してある程度の回答が固まったため、ここに記そうと思う。結論から示せば「丸儲け」だが「楽」ではないと記す。

寺院規模のケース分け

 ひとくちに坊主といっても規模がさまざまだ。まさか地区大会予選落ちの選手と全国大会の選手を一緒くたに評価するような批評家はいないだろう。
 というわけで区分分けは下の通り。あくまでこのnoteを書きやすくするための高嶺の一方的な分類だが、大体の寺の関係者は賛同してくれると思う。

  • 小規模寺院・・・住職、家族が副業をしないと寺院運営が厳しいケース。

  • 中規模寺院・・・寺院の収入のみで寺院運営、住職家族の暮らしが成り立つケース

  • 大規模寺院・・・有り余る寺院収入でそのた公益事業や収益事業にも手を出せるケース。あと外車乗ってる寺。(偏見)

 さて、この記事で書くのは主に中規模寺院の考察。なぜか、小規模寺院はそもそも丸儲けするほどの収入がない。大規模寺院はぶっちゃけ雲の上すぎて想像ができない。ごめんね。


中規模寺院について

 さて、ざっくりと中規模寺院のモデルケースを立てて寺院収入を見ていこう。
檀家が300件として
①年間の維持費を1件あたり1万円いただくとすると300万円
②ここに法事が月に3件あるとして1件あたり5万(実際は3万が多い)、月に一度葬式があるとして1件あたり15万(実際は5万のとこもあるし、なんなら無い月の方が多い)あわせるとこれも300万程度
③もろもろの行事での布施収入。300件のうち100件くらい来てくれるとして(実際は20件来たら嬉しいくらい)で5000円包んでいただけるとして50万円
④その他。駐車場やら住職の外部法話での法礼とかで50万円

 お分かりいただけただろうか。布施や維持費の額については宗派や地域による差も大きいがあくまでこれは真宗大谷派の一寺、しかもかなり想定を甘くしたモデルケースだ。これで寺院としての収入が700万円前後。
 ここからお寺の営繕費、法要をするにも花代や加勢のお寺への法礼もいるし、公共料金等の維持費もある。もろもろさっぴいた後で住職の給料としてはざっくり500万がいいとこである。

 え?500万円?多くない?と思った方もいるだろうが、宗教法人に雇われているとはいえ基本的に自営業だ。つまるところサラリーマンほどの控除がない。サラリーマン換算すればいいとこ年収400万円くらいだろうか。

 当然、生活費をお寺から一部負担しているところもあるだろう。ガソリン代とかね。でもそもそも布施収入として宗教法人自体の収入、つまり一般企業でいうところの年商が年間1000万円弱しかないのだ。住職四人家族を養うので精一杯という話だ。

 なお、上の例では将来的な改修費の積立は一切考慮していない。そして、我が真宗大谷派が行った国勢調査の宗派版である教勢調査というものがあるがほとんどのお寺がこの中規模寺院に属する。

結論

 ではなぜ「丸儲け」と言えるのか。それは上記の年商が非課税という宗教法人としての特権があるからだ。ただ上記のとおり法人税を取ろうものなら、たちまちほとんどのお寺は潰れてしまうだろうということはお分かりいただけると思う。
 しかしながら、住職個人としてはお寺から給料をもらう形になるので保険料や所得税等はそこから支払われる。あくまで「寺」としては「丸儲け」なのが現在の日本の税制だが、「丸儲け」にせねば多くのお寺が潰れるからそうせざるを得ないのが現状だ。

 だからこそ「楽」ではない。ただし「楽」をするためにお寺があるでは決して無い。生活が苦しくとも、人口動体的に将来的に先細りが確定していようとも、寺に生まれ、寺に育った以上、寺を守る覚悟こそがこれからの時代の寺の人間には必要なのだと私は思う。


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