明日食べ感想②〜氷解〜
明日食べ感想②〜氷解〜
②は、主に職業差別に関する内容ではありつつも①よりは余談的な考察です。
(感想・考察の本筋は前記事の「明日食べ感想①〜君について〜」をご覧ください)
概要やあらすじが気になる方は、以下の公式サイトを見てみてください。
舞台「明日、君を食べるよ」2023
<公式サイト>
https://fact8075.wixsite.com/ashitabe-stage
<出演>
本西彩希帆
岩立沙穂
遥りさ
上之薗理奈
渡辺優空
森山栄治
岡内美喜子
他
スタッフ
<脚本・演出>
なるせゆうせい
<プロデューサー>
甘利佳他
これから書く名前の由来なんかは特に、劇中に描かれているわけじゃないので、私の主観の色が強い考察になっています。
むしろ「私の考えすぎで、妄想だったらいいのに」と思いながら書いたところもあります。
真実は残酷…なのかも。
それでは、いざ。
ミゾレの怒り
「お父さんは殺し屋だ!」
そう泣き叫ぶサナギに対して、
ミゾレは燃えるような激しい怒りを見せる。
このシーンは自分を守るために必死に働く父を
傷つける発言をしたサナギに怒っている場面だけど、
これは社会に抱く怒りを表したものなんじゃないかと思った。
ミゾレを憤らせるのは、
食を享受しているにもかかわらず
屠殺場で働く人に対して誹謗中傷をする人。
食物を掴むのと同じその手で石を投げ、
食物を咀嚼するのと同じその口で罵詈雑言を吐く。
そんな人たちへの怒りなのではないか。
サナギは目の前にいるから
言い返したり突き飛ばしたりもできるけど、
実際に攻撃してくるのは不特定多数で、
ほとんどの場合は匿名だろう。
何も伝えられなくて、
泣き寝入りするしかなくて。
悲しんできた人たちがたくさんいたんだと思うと、胸が痛くなった。
僕の夢はパイロット
サナギが「パイロットが夢」と言ったり
父がパイロットだと嘘をつくのは、
パイロットに対して「空を“自由に”飛べる」
というイメージを持っていることが由来なんじゃないかと考えた。
ほかにも連想できそうなことがあるかな?と思い調べてみたら、
パイロットになるためには何千万という
目が回りそうなぐらい多額な費用がかかるらしい。
自分も、子どもの頃に塾や習い事をしなかったり
大学は進むにしても国公立を目指したりしたのは
裕福とはいえない家庭だったからだし…。
(高校・大学は出させてもらってるし、不満は一切なく感謝してる。
大人って、親って、すごい!!)
学校や実務実習で莫大な費用が必要となるパイロットを夢に掲げたのは、
という事実を突きつける役割があったのかなと思った。
名前に込められた意味
家族4人の名前の由来ってなんだろう?
ということを考えてみました。
これはヒントがあるわけではないし、
かなり自分の想像力での考察になるので、
独り言のように書きます。
舞台が発表されて登場人物の紹介を目にしたとき、変わった名前だなあと思った。
よくある名前を付けなかったってことは、何か意味があるのかもしれない。
物語の中心になるサナギとその家族3人に与えられた名前について、読み解いてみる。
【サナギ】
サナギと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、虫の蛹(さなぎ)だと思う。
蛹は昆虫が幼虫から成虫になるまでの間の状態で、何も食べずにジッと殻にこもる。
劇中のサナギの様子を見ていると、心を閉ざしていたり、「食べない」と頑なになったり、意固地になったりするところもあったから、それを比喩してこの名前にしたのかな?と思った。
もう少しポジティブな可能性を考えると、「これから大人になる」「未来がある」とか。
そういえば、蝶(ちょう)もだけど蛾(が)も蛹の過程があるんだっけか?
ふいに疑問に思って調べて、ある説明文を見て、ハッとした。
蝶と蛾って、明確な線引きないんだって。
分類の仕方は諸説あるけど、例外も多いんだって。
人間が、蝶なのか蛾なのかを決めてるんだって。
周りの人間が「君は蝶だ」と言えば、サナギは美しい蝶になる。
もしも、「君は蛾だ」と言ったのならば……
殻を破ったサナギが浴びるものが、誹謗中傷ではなく光であってほしい。
人間の(私の)傲慢さに後ろめたさを感じつつ、そう願わずにはいられなかった。
(ああでも、「蝶は美しくて、蛾は醜い」という一般的なイメージも、人間によるものだね)
【ミゾレ】
「みぞれ」で検索してみると、気象現象の「霙」が上位検索結果に出てくる。
また、その霙に見立てて大根おろしやかき氷が「みぞれ」と呼ばれることもある。
それぐらいしか見当たらなかったから、由来になった可能性があるのは気象現象のほうの「霙」かな?
霙(みぞれ)は氷片が解けきらずに、雪と雨が混じって降ってくる現象だ。
氷が解ける。「氷解」。
「氷解」とは、疑念や疑問がきれいサッパリなくなることを意味する言葉だ。
氷が解けると何も残らないことが例えになっている。
劇中、ミゾレがサナギに心情を吐露するシーンがある。
母・ヨツバへの想いや、父・タモツを嫌いになって家出をしたこと、そして大人ってすごい!と思ったこと。
それまで子どもらしく(見えるように)振る舞っていたミゾレが、悟ったような口調で話す。
ミゾレは“解ってしまった”のだ。
完全に「解る」って、これ以上考えないようになることだと思う。
疑念や疑問を抱いたとき、人はエネルギーを使って、知ろうとしたり変えようとしたりする。
でもそれが全くない状態なら、人は何も能動的に考える必要がなくなってしまう。
だけど。
霙(みぞれ)は氷片が“解けきらずに”、雪と雨が混じって降ってくる現象だ。
氷は解けきっていない。
疑念・疑問が全てなくなったわけじゃない。
『こんなのおかしいんじゃないか?』
『本当に、諦めるしかないんだろうか?』
『変えることができるんじゃないか?』
彼女の中に、“希望”はきっと残ってる。
その希望が潰えませんように。
世の中が変わっていって、
ミゾレの未来も明るいものに変わっていきますように。
私がこうして舞台をキッカケに“ミゾレたち”の存在を知って考えることも、その一歩なのかもしれない。
【タモツ】
この名前はそんなに変わった名前じゃないかも。
でもだいたい思い浮かべる漢字は一つ。
ということは、漢字に込めた意味があるのかもしれない。
『保』
一つは『保身』だ。
保身とは、自分を守ろうとすること。
昔タモツは、父親がバキュームカーの運転手であることを理由にいじめられている親友を助けなかった。
それどころか、一緒になって野次を飛ばした。
私はこれを聞いたとき一切笑えず、怒りさえ覚えた。
こんな父なら軽蔑するだろう。
しかし、そう憤るのは、私が同じ立場にいないからだとも思った。
「自分の父もみんなから咎められる仕事をしている」
「自分もいじめられるかもしれない」
そんな恐怖を生まれながらに背負うことが
決まっていたタモツはきっと、自分を守るだけで精一杯だったんだ。
もう一つは『保護』。
タモツは家族を守るために必死に働いている。
そして、まだ何も守る術を持たないミゾレのこともずっと守ってきた。
そしてこれからは新たに家族になったヨツバとサナギを加えた3人を守ろうと決意している。
不器用ながらも大切な人たちを必死で守るために生きている、父の姿があった。
【ヨツバ】
ヨツバ、四つ葉。四つ葉のクローバー。
想起するのは幸福の象徴だ。
サナギは劇中「親の勝手で子どもは振り回される」と嘆く。
都内から何もない田舎に引っ越したこともそうだけど、サナギにとってもっと大きな影響を与えたのは「父となる人が屠殺をする工場で働いていること」だ。
そしてヨツバは当然、タモツの職業を知ったうえで再婚している。
子どもが不幸になりうると分かってて再婚したことは親の身勝手のように思えて、それなのに幸せの象徴を名前に付けたのは皮肉めいた表現のように思った。
…けれど。
その『不幸』はヨツバのせいじゃない。
差別をして、職業を理由に攻撃する人間たちがいるから起こる悲劇だ。
攻撃される側が咎められていいわけが、ない。
戸惑いながらも共に生きようとする『4人』が誰ひとり散らずに、どうかどうか幸せに過ごしていってほしい。
そう思った。