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雨の音

傘を広げる。
駅からの帰り、人通りのある道を離れ、街灯すらまばらになった仄暗い巷路を歩いた。
傘にあたる、柔らかく丸い雨の音が、耳の側で聞こえ心地よい。
誰もいない場所で、この音を鮮明に聞くために、遠回りした。


いつも傘をさす時は、左の耳からしか聞こえなかった雨音。
右の耳に、細く長い髪が、冷たい中棒とともに微かに触れた。

 ここでいい。

そう言うと、木々から落ちた大粒の雫が傘を叩いた。

 ・・・。

何を言ったか聞き取れなかった。
赤い傘を手渡した。

 じゃ、元気で。

うなずいた瞳から、小粒の雫がひとつ、こぼれ落ちた。


雨の音を聞きながら、駅からだいぶ歩いた。
窓に明かりの灯った、それでも物音ひとつしない家々。
透明な生地の傘に、水滴で幾重にも重なって映る。
少しして、雨がほとんどあがった。
傘をたたみ、遠い雨の音に思いを馳せ、空を見上げた。
木々の雫が額にあたった。

もうすぐ雨の季節も終わる。




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