青に薔薇
高気圧が関東上空を覆い、何色たりともその色を他に譲ることのないほど、空は真っ青に染め渡っていた。空はなぜ青いのか、と同時に、青以外あり得ないとも思う。
終点の駅を降り、改札を抜け、しばらくエスカレーターのつづら折りが続く。最後のエスカレーターを降りると、高台の公園が視界に広がる。アメリカ山公園と名付いた立体都市公園を抜け、右手に外人墓地を見ながら道を歩き、5分ほど歩くと、港の見える丘公園に着く。
この時期、色とりどりの薔薇が満開だ。
空の青をキャンバスに、深紅、オレンジ、黄、白、ピンクが描かれている。加えて、絵だけでは感じ取れない、甘みのある優雅な香りが風に乗って身体に纏ってくる。
人々はしきりにシャッターを押し、その美しさを、またその美しさと共に、カメラに収めている。
私は、ただの一枚も写真を撮ることなく、自分の五感の中に直接収めながら歩いた。
これだけの色と香り、レンズ越しではもったいない。そう思いながら公園を一周し、出口に向かった。
行列の出来たカフェが数軒並ぶ道を代官坂に向かって歩いた。急な下り坂の途中に、あまりに美味しそうな匂いがするパン屋につられて、ついさっき五感に収めたばかりの美しさと香りはどこへやら、店内に入り、かなり買い込んで、元町へと坂を下りきった。