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夜明け前


午前5時30分。
まだ陽も昇らない朝。
混沌とした池袋の街も、この時間だけは、まだ眠りについている。
動き始めている電車。空で嘶く鴉。遠くに響く緊急車両のサイレン。
普段聴こえない音が耳に伝わる。

コートのポケットに両手を突っこみ、横切る凍てついた風を頬に受けながら、ひとけのないサンシャイン大通りを歩く。映画館、風俗店、パチンコ店、ゲームセンター。街のデザインを無視したネオンの灯りも、通り行く人の聴覚を阻害する騒音も、この時ばかりはひそやかに身を休めている。
靴音をやけに響かせ、顧客先に向かって歩いた。

午前11時。
仕事が終わり、駅に向かって、大通りを来た方向の逆に歩く。
人の波、耳につんざく騒音。街はすっかり目覚め、なんら変わりない日常の生活を送っている。
少し離れたアンティークな珈琲店。遅めのモーニング珈琲と早めのランチをたのんだ。

1時間ほどして、さらに店内が混み始めてきた。
席を立ち、店を出た。
珍しく曇天だ。これからどこに向かおうかと、ポケットに手を突っ込み、肩をすくめ考えながら歩き始めた。


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