夏祭り
西暦2000年、地下鉄の駅が開通するまで、麻布十番の町は陸の孤島だった。
行くためには、最寄駅の六本木駅から歩くか、バスに乗って行くか、主にその2通りしかなかった。
それゆえに、気軽に行ける場所ではなく、頑張って行かねばならない町だった。
そして町は、むしろ閑散としていて、静かな丁度良い人通りだった。
今の『街』という雰囲気ではなく、『下町』の雰囲気だった。
夏になると、地元の商店街による夏祭りが行われていた。
あくまで、地元の人の地元の人による地元の人のためのお祭りであって、外から来る人はあまり無く、商店による夜店が程よく並び、のんびり歩きながら過ごせる夜だった。
浴衣を着た小さな子どもたちが親に手を引かれ、わたあめやおもちゃを持って歩いていて、大人たちは、空いている道端に座り、ビールとつまみを食しながら、うちわ片手に談笑している、そんな長閑な光景が広がっていた。
初めて行った時、その雰囲気がとても気に入り、地元民でないにもかかわらず、毎年、六本木から歩いて参加した。
一変したのが、地下鉄の駅が出来てからだった。
まるで、浅草の初詣かのような人の波ができ、身動きがとれないほどの混雑。
いったいあのお祭りはどこにいったのか。
それ以来、二度と行っていない。
今年も8月末に麻布十番納涼まつりが行われる。
20年ぶりぐらいに、どんなになったのか、怖いもの見たさで、行ってみようかと思う。
今年の夏最後のイベントぐらい、よき思い出になって欲しいものだと願うが、たぶん、遠くから見て、人の多さに引き返すような気もする。
せめて、わたあめぐらい、買って帰ろう。