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銀杏色の長い髪
東京メトロ東西線の竹橋駅を降りる。
地上に出ると、深い砂利が敷き詰められた緑地の奥に、震災イチョウが一本、枯れてはいるが堂々と立っている。
日曜の竹橋は人も少なく、行き交う車の軽いエンジン音と、ランニングをする人の柔らかい靴音だけがする静寂さだ。
イチョウは、水分が多く、火災に強いことから、都内のいたるところに植樹されていて、東京都のシンボルマークにもなっている。
秋の季節の彩りは、暮れゆく年にふさわしく咲き誇る。
代官町通りを、公文書館から近衛師団司令部の前を過ぎ、千鳥ヶ淵に向けて歩く。
人のいない暖かな道を、羽織っていたダウンジャケットを脱ぎ、シャツ一枚で軽やかに歩く。
やがて千鳥ヶ淵の土手にあがり、濠に浮いた首都高を眼下に見ながら草むらに座った。
何もせず、ただ宙を眺めていると、外国人の同年代ぐらいの女性が声をかけてきた。
流暢な日本語で挨拶をし、天気がいいこと、景色がいいこと、日本が好きであること、など他愛のない世間話をした。
ただ、どうしても地震が苦手で、日本人のように慣れることはできないし、怖いものだと苦笑いした。
大丈夫ですよ。東京はイチョウが守ってくれますよ。
イチョウ?
it’s ginkgo
ああ、あれですね。秋はきれいですよね。私、大好きです。
じゃあ、地震もきっと大丈夫ですよ。
風が吹き、女性は長い金髪ブロンドの髪を束ねると、笑顔のまま、土手を降りていった。
輝いた髪は、まるでイチョウの葉のように、黄金色だった。
私は、半蔵門に向け、土手を進んだ。