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タクシーのお給料、その難しさを考える
タクシーの賃金って、実は結構複雑です。歩合の要素があるため個々人の営業収入によって変動があるのはご存知の通りですが、その一方で拘束時間に応じたお給料は当然ながら、正規の時間労働している以上は全員にしっかり発生します。これは正社員という形で雇用契約を結んでいる以上当然のことです。ポイントは、「正規の時間労働している」という部分。その時間の中での収益性は関係なくこのお給料は発生する。バイトの時給のような概念ですね。バックやウォークインの中で遊んでいても、レジを打っていても同じ1時間おいくらの時給が発生する。それと同じで、タクシーの場合も好きな街をのんびり回送で流していても1時間だし、渋谷・六本木でガシガシ営業回数をこなしていても同じ1時間です。
通常、タクシーの場合は「お客様を乗せて営業収入を上げればあげるほど」給料は増しますからみんなしっかりと走り込むのですが、「自分は給料は最低限で良い」という人がここに登場するとどうでしょう。当然、好きな街をのんびり回送で走って時間消化を狙うことになりますよね。それでも最低賃金に少し色がついたくらいはもらえるので、「それで良い」という人にとってはこれ以上ない就労環境がここに爆誕してしまうわけです。それに対してタクシー会社は「足切り」というノルマで一応は対抗します。これは1日あたりこのぐらいの数字をやってこないと賃率を下げる、のようなルールですが当然ながら下げることができるのは歩合性賃金部分の賃金計算割合(賃率)やプラスオンして付与する成果給の部分のみです。拘束時間部分に対しては、これは最低賃金というルールがある以上、最低賃金ギリギリのところで基本給を作っている会社はそれ以上下げることができませんから、「自分は最低賃金だけで十分」という人に対して考えを変えてもらうような材料にはならないわけです。
こういった「自分はこれぐらいで」という人たちの何が問題なのかは、先ほども少し登場した「賃率」という部分にかかってきます。この賃率はつまり、乗務員さんが頑張って稼いできた営業収入のうちどのぐらいがお給料になっているのか、という割合で都内のタクシー会社は賞与のあるなしも関係なくならすと、おおよそ60%前後かと思います。
以下は労働時間8時間、Aさんは25000円の売り上げ、Bさんは10000円の売り上げ。その場合の賃率計算です。どちらも時間の要件はしっかり満たしているとして、最低賃金はわかりやすく1000円、賃率は60パーセントということにします。
Aさんのお給料・・・15000円
Bさんのお給料・・・6000円、ということにしたいところですが8000円(8時間稼働している最低賃金)になります。(最賃割れ、などと表現します)
手当付与分などをすっ飛ばしたとてもシンプルな例ですが、Bさんのこの場合の賃率は80%という大変なことになってしまいます。はっきり言ってタクシー会社はこれでは赤字運行です。この乗務員さんBさんについては出勤しないで休んでいてくれた方が得です。燃料代をはじめとした車にかかる経費を考えると、そのまま寝てしまう車を稼働させる意味がない(寝かせていた方が得まである)ことになってしまうわけです。
歩合の概念が持ち込まれているタクシーの業務の場合、ただその時間を労働に充てることのみを持っての同一労働同一賃金が成立しないのは仕方がないのですが、ある意味怠けて仕事をしない方が、少なくとも賃率という部分においては一所懸命に営業に勤めている人よりも多くなってしまう、という非常に奇妙な(でも仕組み上当然に発生する)事態になってします。なのでタクシー会社としてはこういった賃率の逆転現象が発生してしまう乗務員が何名ぐらいいるのかも考慮に入れた上でバランスの良い数字を導き出さなければいけないし、逆転現象の渦中にいる乗務員を一人でも多く、本来あるべき姿、あるべき働き方に復してもらうよう改善のお願いを続けなければいけないのです。
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タクシーの賃金は完全なる場外作業ということもあり少し独特な構造をしています。今回はそのごく一部ですが少し、タクシー会社がうんうんと唸っているような部分をご紹介してみました。これに対する処方箋ははっきり言って「ない」と私は思います。雇用がそこにある以上、営業成績不振であることのみを持って辞めさせるようなことはそうそうできません。繰り返し繰り返し改善をお願いして、それでもどうやってもお願いを聞いてもらえない場合に配置の転換などを行うのがギリギリのところだと思います。労働者がそれだけ手厚く保護されている、ということでこれ自体は私は大いに結構であると思いますが、最低賃金も含めたこういった手厚さがタクシーの給料の構造をより一層悩ましいものにしてしまっている、という今日はそういうお話でした。
結局、最賃割れに陥っているような乗務員さんをいかにして減らしていくのか、という論点に話の軸を移すぐらいしかできないこの問題、何か処方箋をお持ちの方、おられましたらぜひご教示くださいませ。
それでは、本日もお疲れ様でした。