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  • 花語り

    ある大衆酒場で紡がれる、桃と菫の語り。不条理や生きづらさを、2人で乗り越えていく。3人目の貴方は、どう考える?

最近の記事

鏡よ、鏡。

レバーを左に回す。次に、上に上げる。音でわかる冷たさ。指の先に触れるだけで、身震いを起しそうだ。冷たさから暖かさに切り替わるのを待つ時間が、もどかしい。指に暖が走る。器を作り、温水を貯める。目を瞑って、顔いっぱいに当てる。この瞬間が一日を始める予鈴である。いつも通りのルーティンを済まし、鏡を見る。自分の顔に落胆する。右頬の中央部に、鼻の横に、唇の端に、ニキビがある。ただの赤いニキビなら百歩引いて良いが、膿のある黄色ニキビが一つある。これは、厄介だ。痛い、顔に謎の違和感がある。

    • 秘色の垂涎

      不鮮明に。だけど僕は、君にうっとりした。 燦然と照り付ける太陽。水平線がぼやけて見える。目の前すらも嫌な光が彷徨う。なぜだろうか、暑さを感じない。 「ケント、海に入ろう。」 どの光にも負けない眩い笑顔に手を引かれる。返事もしないまま、水の流れのように。 青磁のような水に下半身が浸る。ゆらゆらと蠢く波が、僕の足を攫おうとしている。なぜだろうか、涼しさを感じない。 「ケント、やー!」 綺麗な水の粒が飛んでくる。反射する光が彼女を囃し立てる。仕返しもしないまま、見惚れる。

      • 額縁の隅のセキチク。

        心の中にいる邪悪な感情。その感情は、いつもあの人によって反応する。何気ない言葉使い、何気ない行動、全て癪に障る。私ではない誰かが見たら、何も思わないだろう。私だけが思う、あの人への嫌な存在感、嫌な感情、嫌な視線。これが好きとは全く違う意味であるのに、何故か好きと同じように私の額縁に入ってくる。しかし、いつも隅で嫌なオーラを纏っている。 いつもの大衆酒場。やっぱり、親友との酒は喉をよく通る。酔っていないうちは、互いの近況や趣味の話に花を咲かせる。笑いが絶えない、気持ちのいい居

        • 無常なる万物

          新しい芽の木々と地に張り付く死んだ花弁。 涼しい海風と素足にこびりつく気持ち悪い砂浜。 永年の眠りにつく太った生物と黒ずんだ山々。 神々しく現れる太陽と別れるを告げる花々。 満開の桜のもとで高鳴る人間。 灼熱の砂浜のもとではしゃぐ人間。 銀杏の並木道のもとで落ち着く人間。 大きなモミの木のもとで愛する人間。 変わりゆくものは、全て美しい。 変わらないものなどない。 無常なものにしつこく感動する人間が 私は、愛おしい。

        鏡よ、鏡。

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        • 花語り
          4本

        記事

          芥子の実。

          芥子の実は、何処の家を探してもないらしい。 頭に響く音がした。充電器が抜かれた感覚に近い。飽きているのに変えようとも思わない天井を睨みつけた。この布団の温もりは、いつも私をダメにする。もう一回、寝ようと試みたがスマホの画面に嫌な気配を感じた。スマホのトップ画面には、実家の兎が寝ている写真を使っている。いつ見ても、会いたいと思わせてくれる。この感覚が、帰省を早めるいい薬だ。 『いつもの居酒屋で待ってるね!』と菫からLINEが来た。このLINEを見ても、罪悪感を抱かなかった。

          芥子の実。

          所有観。

          『あっ桃じゃん!久しぶり!』 『久しぶり!中学以来だね』 『桃は、彼氏できた?』 『ううん。できてないよ。』 不覚にも心がズキンと来た。しかし、うんざりもした。 成人式。久しぶりに会う面々。別に会いたかったわけじゃない。成人式にすら、日を追うごとに足が重くなっていた。ただ、仲の良い友達に行こうって言われたからついて来ただけ。 『ねぇー、菫。聞いて!』 『うん、何?』 いつもの大衆酒場。やっぱり、親友とのお酒はよく喉を通る。瞼が重くなってくると、なぜか心の中に思う特定の人間

          所有観。

          言葉が好きだ。

          自分の好きな言葉で表現したい。自分という人間を。持っている世界を。心の在り方を。そして、色々なものに触れたい。価値観、人生観、死生観、そんな観に触れたい。人の数だけあるその観に。触れている時が一番気持ちいい。 だから私も語りたい。

          言葉が好きだ。