告白雨雲(毎週ショートショートnote参加作品)
二人きりが定員の世界の内側で、天気予報が外れた事に密かに感謝していた。きみのこえが反響して重い雨垂れは遠雷になった、わたしの脈拍は道沿いの運河へ流れる事を祈っていた。
「ねえ、傘の下で聴く声が、人の声の中で一番綺麗らしいよ」
きみのうつむく音が雨傘のなかで跳ね返って、こんな時に限って雨足は急に逃げる。天気予報が外れた事を感謝したから、きっと願いも反射したんだ、やがてしとしとという音すらなくなり、沈黙がわたしを刺しにくる。
あんなに黒かった雲の間から光がさせば、二人きりの河原はいたたまれない天国だ。きみが足を止め、空を見あげる。わたしも光の階段を見ていた。きみもそれを指さして笑った。
「見て。あの穴、ハート形」
「……そうかな。書き順を間違えたうさぎみたい」
「何それ」
きみはまた笑った。ハートというにはやっぱり無理がある気がしたけれど、私も笑っておいた。
天気予報はもう助けてくれないから、口を開く。
「あのね、――」
(410字)
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