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鋭い眼差し

 みんながあの子は優しいという。わたしもあの子を優しいと思う。実際それらはほとんど真実だったのだとあの子以外の誰もが言う、けれども嘘の欠片は瞳の奥で燃えさかる炎だ、灯火とよぶには熱すぎるあの日の炎は優しさなんかじゃなかった。

 あの子にはいつも雨が降る。
 土砂降りのなかで捨てられた子犬のような顔をしている、それでも負けないのは燻る炎がいつまで経っても消せないからだろう。
 あの子の瞳が優しさしかうつさないようになってしまったら、その時ひとつの世界の終わりが来るのだとうっすら怯えている。あの子にすべてを背負わせることは酷だろうとうっすら思いながら、わたしたちはどこまでも心中する気で旗を降る。
 善意に折られた願いが魔物になれば、望む望まないにかかわらず、それらは猛然としてあの子に牙を剥くだろう。優しさとはそういうもので、わたしたちの祈りは怪物と表裏である。これをあの子に差し向けてはならない。

 瞳が赤いのはきっと泣いていたからでしょう。
 強がりだと知っているから、黙して手紙を読む。
 優しいあの子が泣きやめば、いずれ雨もあがる。

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