積み木あそび
積み木をしようか、ちいちゃん。
はい、これが積み木。君とぼくだけの、なんだって作れるすばらしい魔法の煉瓦だよ。君とぼくの積み木はチーズみたいな、ちいちゃんの好きなやさしい黄色をしているね。おいしそうだね、けれど食べられない。舐めるとバターの味がするけど、けしておいしいからと言って食べてはいけない。ぜんぶ食べちゃったら、さすがになにも作れなくなってしまうから。
さあなにか作ろう。なにがいいかな。ちいちゃんの好きなお城がいいね、お城にしよう。柱をたてて、屋根をつけて、バルコニーを作って、ちいちゃんの部屋を作ろう。ここに窓をはめよう。窓際の黄色いチューリップもバターの味がするね、でも、そんなものよりもっとおいしいご飯をちいちゃん、君はたっくさん食べなくちゃいけないよ。だからコックも積み木で作ってあげる。バターの味がする黄色いコックさん、いつもにこにこ笑っている。得意料理はハンバーグなんだ。
ハンバーグは好き? 好きだよね、ぼくはちいちゃんのことなら何だって知ってる。
小鳥が好きなのも知ってる。だからバターの味がする積み木を縦にちいさく切り取ってほら、鳥籠ができた。小鳥はなんの味がいい? 飴玉の味? チョコレートの味? ケーキの味にしようか、それともぶどうの味がいいか。
オレンジはだめだ、それじゃあお歌をうたってくれなくなっちゃうよ。だってオレンジの味がする小鳥はね、バターのにおいがなによりも嫌いなんだ……――。
ちいちゃん。
なに読んでるの?
絵本?
だーめ。なにも知らないちいちゃんがぼくは好きなんだから、ほら、本なんか置いて。
字なんか覚えなくていいんだよ。ちいちゃんのつくった言葉を、ぼくにだけ教えて、ずっとずっとかわいく笑ってくれればいいんだ。バターの味も知らずにいればいいんだ。
バターってなあに、って?
ううん、知らなくていいことなんだ。さあ音楽を聴こう、ちいちゃん。
バターの味がする積み木でピアノを作ってあげる。ウエハースのようにもろい鍵盤は、ほらちいちゃん、もっと優しく触ってあげないと崩れてしまうよ。崩れてしまうよ。崩れてしまうよ。崩れてしまう。
城。ぼくたちの城、崩れてしまう。いつか崩れてしまう。どうして崩れてしまう。ねえねえねえちいちゃんちいちゃんちいちゃん。
聞いて。
ぼくたちの城はもうすぐママの掃除機に吸われて、壊れてしまう。
すっかりがらくたになった積み木はもうバターの味がする魔法の煉瓦じゃなくって、それでもちいちゃんの小さな手は、そのがらくたを握って、投げて、えへへと笑う。ぼくはそれを見ているのが、とても幸せだ。
ほら、バターのにおいがするよ。行こうかちいちゃん、ママがおやつのパンケーキを焼いてくれているんだ。
ぼくはちいちゃんの手を握った。掌の中にちいさなぬくもりがあって、少しバターの焦げるにおいがした。黄色くぼやけた視界のすみで、ころがった積み木がぷすり、煙をあげた。