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どこまでも続く青い空

 どの道終点がないとわかっている迷路なら標識をみて立ち止まらなくてもよい。壁が綿菓子のような雲でできているなら、分解された雲を引きずりながら突き抜けていってもよい。
 青空の道はいくら迷っても終わりが見えない、すれ違う迷子たちと挨拶をかわすだけの場所。
 地上からみた空はあんなに自由に見えたのに、いざ来てみると何もない。ただ青いだけだ。点在する展望台からみえる地上の景色だけがきれいだ、望遠鏡にうつらない範囲はきっと今日も燃えているのだろうと頭のどこかでわかっていながら、わたしたちはそれを「なかったこと」にする。

「こんにちは。そろそろ昼休憩の時間ですけど、今日はどこでランチを?」
「わかりません。一度行ったきりの場所って、結局店名も道も覚えていないじゃないですか」

 それはそうかもしれませんが、それでも私はふわとろのオムライスを食べに行くんです。迷路の住人はそう言って笑みをかえしながら消えた。あのひとは昨日食べたものをきちんと覚えているタイプなんだろう。
 わたしはここに来てから、壁を引きちぎって雲ばかり食べている気がする。味はしないが腹はふくれる。綿菓子みたいだと思っていたのは見た目だけだった。
 足元にひろがった、かつて青空だったものが迷路の床になってわたしを嗤っている。この場所をこんなふうに踏み固めたのは、わたしたち一人一人の罪かもしれなかった。

 空の青さは誰かの流した血と涙が青かったからだ。
 みんな傷口を隠しているから、その誰かが誰なのか知らない。
 わたしの手足に巻かれた包帯のことも誰も知らない。
 ただ、みんな出口を探しているのだろうと思った。青空の迷路を楽しむふりをしながら、瞳から空がこぼれ出ている。

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