【ARI】🐍ちゃんズに見るピッチデザイン③　Ryan Thompson編

お世話になっております。
今週末の府中牝馬ステークスですが、以下の通り予想しました。

◎イズジョーノキセキ
○ストーリア、シンリョクカ
▲ルージュエヴァイユ
☆エリカヴィータ、ディヴィーナ、コスタボニータ

枠順にもよりますが、現状本命は◎イズジョーノキセキ。近走は不振ながら昨年度覇者の実力は未だ衰えずと予想。また、対抗には○ストーリア。軽斤量とはいえ凱旋門賞4着のスルーセブンシーズと0.2差は戦ってきた相手が違う。上がり勝負1800の強さは前走で証明済で期待大です。軽斤量という意味では昨年阪神JF2着の○シンリョクカも要マーク。その他府中巧者の▲ルージュエヴァイユ、2月同舞台で好走の☆コスタボニータ、復調の兆し見える☆エリカヴィータ、距離延長に対応できるか☆ディヴィーナというところ。

さて、表題の件ですが、今回はディビジョンシリーズでも現在進行形で活躍中。ボロボロのDbacksブルペンに彗星の如く現れたリリーフ陣のジョーカー・Ryan Thompson（ライアン・トンプソン）の投球について見ていこうと思います。

年度別成績と所感

Fangraphsより

以前はレイズのブルペンの一角を担うエリートリリーバーだったトンプソンですが、今季は開幕から不調に陥り、7月6日を最後にMLB登板はなし。8月16日にはレイズからDFAされてしまいました。

しかし、捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったもので、当時リリーフ陣がしっちゃかめっちゃかだったDbacksが獲得。その後AAAで謎の大改造を施されたのち、8月27日にMLB昇格→初登板初セーブを記録しました。

当時のトンプソンの防御率は17.2イニングで12K/7BB、防御率は6.11/FIP5.07。さすがにこんなとち狂った起用は最初で最後だろうと思いきや、その後もハイレバレッジなシチュエーションで起用され続けたトンプソンはその期待に応え続けます。

終わってみればDbacksで登板した13試合で失点はわずか1。13イニングで9K/1BB、FIP3.33と投球内容も充実しており、まさに魔改造が成功した投手と言えるでしょう。

とはいえ短期間でそれほど投げるボールが大きく変わるとは思えず、実際に何かが大きく変わったと言うよりはピッチセレクトがもたらした好転と見る方が自然でしょうがどうでしょうか。どのような変化があったのか、詳しく見ていきましょう。

配球や球質の変化

Thompsonの変化について考えるためには、年度間の変化と今シーズン中の変化の二軸で見る必要があります。まず、年度間の変化です。Baseball Savantより各種指標を示します。

ついにやってしまいました、表の加工を。データ引っこ抜いてRで加工したりイラレを使い始めたらこの企画が終わるというのに

注目すべきはシンカーとスライダー……かと思いきやフォーシームです。割合としては少ないながらも高めに投げ込むことで多くの空振りを奪い、キャリアイヤーの2021年には100球あたり4.9点分の利得をもたらしていたトンプソンのフォーシームですが、それ以降は度重なる故障もあって徐々に球速や回転数が低下。今年に入ってからは全盛期と比較して1.５mph、150rpm前後数値が低下してしまいました。

ここまで威力が低下してしまうと当然思うように空振りを奪えず、今季のトンプソンはほとんどフォーシームを投げるのをやめてしまっています。

また、もう一つ注目すべきはエクステンション（Ext.）の項目。もともと6.9フィート前後を維持しており、非常に球持ちのよい投手だったトンプソンですが、この値も2021年を境に大幅に低下。これも時期からしておそらく故障の影響だとは思いますが、いずれにせよエクステンションという分野では全く他の投手に差をつけられなくなってしまいました。

その結果、2023年のトンプソンはストレートの割合を大きく減らし、シンカーとスライダーの2ピッチになっています。

次に月別の投球を見てみましょう。

画像はBaseball Savantより

上記は今年のThompsonの配球の変化です。9月（Dbacks時代）にシンカー使用割合が異常なほど跳ね上がっていることが確認できます。

また、もう一つ注目したいのはエクステンションです。

シーズン当初は大幅に低下していたエクステンションが、全盛期並みの6.8フィートまで戻っていることがわかります。

最後に変化球の性質について。

ほぼ対照的な方向に変化するスライダー（黄色）とシンカー（ツーシーム）のほぼ2ピッチ、稀にストレート（赤）を投げるというスタイル。

ちなみにこのスタイルは今季からのもので、昨季までのトンプソンはシンカーの縦変化がより大きく、スライダーの縦変化はもう少し小さかったようです。ここまで対照的な変化にしたのは今季からの取り組みということになります。

さて、このあたりに復活の理由が隠されていそうな予感はしますが……。

結果とか考察のようなもの

トンプソンの投球内容が大幅に良化したのはもうすでに述べた通りです。ただ、前述の通りトンプソンの変化には「年度間の変化」と「シーズン中の変化」の二軸がありますので、できるだけ丁寧に整理していこうと思います。

エクステンションの改善

おそらくトンプソンを復活させた主因の一つにして、Dbacksが成し遂げたであろうトンプソン復活プロジェクトの成果はここにあると思います。

今季序盤は6.5フィート前後とキャリア最低レベルを彷徨っていたトンプソンのエクステンションは、9月に入って6.8インチまで改善。

エクステンションについては以下のような分析があるとおり体感の球速を上げるため、速球の威力に大きく影響を与えるようですが、実際トンプソンのシンカーのwOBAは大幅に改善しました。4月、5月は.350前後をウロウロしていましたが、9月だけ見ると.241まで落ち込んでいます。また、一桁％に落ち込んでいたWhiff%もどうにか二桁％に戻りました。

When 92 Is Actually 95: Bailey Falter’s Extension Adds Meaningful Velocity

ほかのスタッツは大きく変わっていないことからしても、エクステンションの変化は大きく影響していそうな予感がします。

威力が改善した結果、制球しやすくゾーンに多く投げる傾向にあるシンカーでカウントを稼げるようになったのが復活の要因ではないかと見ます。

スライダーと改良とそれに絡んだ色々と

Baseball Savantより

近年のトンプソンはフォーシームの威力低下からか、シンカーとスライダーのツーピッチになりつつあること、今季はさらにその傾向が強まったことは触れました。

そして、その要因には上記のとおりActive Spin%（回転効率）が大幅低下したこともあるような気がします。

まず、トンプソンは今季を迎えるにあたり、スライダーの横変化量を大きく変化させました。サイドスローというアームアングルを活かそうとしたのかもしれません。

ただ、それに伴ってか全く別の影響なのかは不明ですが、フォーシームの回転効率は大幅に低下してしまいました。

サイドスローは回転効率を100％に近づければよいというわけではないはずですが、79→69％まで落ちてしまうと威力低下は避けられなそう。シンカーとスライダーが威力を発揮するようになったこともあり、威力が低下したフォーシームは完全に封印されてしまった……というところかもしれません。

感想

トンプソンもうちょい単純かと思ったらめっちゃ入り組んでて難しかったです。間違ってたりもうちょい上手く説明できる人やってみてください。