#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.11
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最初から読んで頂ける方はマガジンにまとめていますのでNo.1からどうぞ。
#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.11
専門学校の卒業式の会場には、もうすでにたくさんの人が集まっていた。
普段学校で一緒に過ごした顔馴染みの学生たちが、みんな今日は華やかにドレスアップしていて別人のように見えた。
特に女性はドレスや着物、それにスーツ姿などバリエーションが豊富だった。
男性はスーツやジャケット姿など、普段よりちょっとパリッとした感じの着こなしをみんなしている。
僕も一応はジャケットを着ていたけれど、地味な方だった。
そこまで卒業式に執着心はない。
できれば早く終わって欲しいとも思っていた。
僕が到着した時にはすでに会場への入場が始まっており、僕もそそくさと会場に入った。
「おー!谷山!」
なんて同じクラスの友達に声をかけられ、5、6人のグループの輪に入った。
「間に合って良かった!」
僕は駅から早歩きで来たので少し汗をかいていた。
3月とはいえ、まだまだ外は少し肌寒くてヒートテックを着ていた。
汗をかいた背中や脇などヒートテックが肌にくっついて着心地が悪かった。
「それでは卒業式を行いますので、みなさん席についてください。」
どこから話しているのか分からないが、とりあえず会場の大きなスピーカーから声が聞こえた。
卒業生の席はすでに決まっており、端から五十音順だった。
ズラリと並んだパイプ椅子にそれぞれの名前が書いてあった。
座るとギシギシと鳴る無機質な音、決して柔らかさが十分でないクッション性などいつも座る度にパイプ椅子には不満を感じていた。
でも今日は特別な日なので気にならない。
思えば専門学校に通って2年間。たくさんの辛いことや大変なこともあったけれど、楽しくて充実した期間だったと思った。
“ ファッションデザイナーになりたい! “ という思いで入学し、服の作り方やデザインの基礎などを学んだ。
そんな自分だけの2年間の振り返りを、退屈に進む目の前の卒業式の情報を遮断するかのように記憶にふけっていた。
フと周りを見渡すと、卒業する学生の少なさに驚いた。
卒業生は僕たちデザイン学科だと100人もいない。80人程度だ。
確か入学式の時はデザイン学科だけでも200人ほどいたはず。
それが2年間でこんなにも減ってしまうのかと、改めて専門学校を辞めていく人の多さにビックリした。
「そうだ!僕たちは2年間ともに頑張った仲間なんだ。。」
なんてことを自分には珍しく団結感のあることを考えていた。
僕は専門学校生活の中で、クラスメイトとは一定の距離感を保ったいた。
みんな学校が終わるとカフェに行ったり居酒屋に行ったりしていたけれど、僕はほぼ真っ直ぐ自宅に帰ったいた。
理由は課題とバイトで忙しいから。ダラダラとクラスの人たちと学校の愚痴や進路の話などをする時間が無駄に感じていた。
そんな時間があるなら早く家に帰って課題を進めるか、常に寝不足だったため睡眠時間に当てたかった。
それにイギリス留学を決めてからはお金を貯めることだけを考えていたので、外食での出費は避けたい。
家に帰ると母親が作ってくれる夕食があるので、極力自宅でご飯を食べていた。
「もっとみんなと遊んでいたかったけどなぁ」
2年間を振り返ると、やっぱりクラスのみんなともっと語り尽くしたかったし、楽しい時間を共有したかった。
卒業式の日になって後悔の気持ちが溢れてきた。
でも自分がこれから新しい道に進むため、イギリス留学を実現するために犠牲にした時間。それなら決して惜しいとは思わなかった。
「谷山修二くん」
卒業生の名前を順番に呼ぶスタッフの遠藤さんの声が聞こえた。
「ハイっ!」
僕は大きく返事をして立ち上がった。
周りのクラスメイトも順番に呼ばれ、立ち上がっていく。
目の前の舞台上では代表者が卒業証書のようなものを受けとっていた。
その姿を見ていると卒業の実感が湧いてくる。
間もなくして卒業式が終わると、みんな会場の外に出て思い思いに写真を撮っている。
僕も写真に混ぜてもらったし、率先して撮る側にも回った。
時間は昼過ぎ。
みんなはランチへ行く話や時間は早いけれど、どこか飲みに行くような話をしている。
「今日もバイトあるから、先に帰るよ!みんな楽しんで!」
みんなの会話を気にする事なく、僕はみんなに先に帰ることを伝えた。
今日も変わらずバイトを入れていたし、来月4月に出発予定のイギリスに向けて少しでもたくさんの貯金をしておきたかった。
「そうなんだ!残念。また集まろう!」
「じゃーね!またね!」
クラスのみんなが見送ってくれて、僕は足早にさっき来た駅へと向かった。
帰りの電車は卒業式の嬉しさとイギリスビザを待つワクワクでいろいろな思いが頭に広がった。
窓から見える住宅地の風景は普段の通学の時と変わらないけれど、今日だけは何時間も見続けることができるような気がした。
続く
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この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。