社長の嬉しそうな笑みを見た (短編小説)
社長の嬉しそうな笑みを見た (短編小説)
今日は自社と契約している物流センターとの定例会議だった。
物流センターと言っても規模はそこまで大きくなくて、1人の社員さんとパートの方が数名いらっしゃる程度の物流センターだ。
そこにうちの会社と他にも2〜3社が入っていて、倉庫としてや出荷業務に利用していた。
うちの会社だって社長をはじめ5〜6人のスタッフがいるだけの小さな会社だ。
ファッションの衣料品をお店に納品する卸売をしている。
僕はそんな会社の物流担当だったので定例会議に出席していた。
定例会議には物流センターの社長と担当の社員さんが来ていた。
定例会議と言っても定期的な顔合わせ程度で特別な話はない。
数ヶ月以内に起こったミスのおさらいや改善策を話し合ったりするが、大抵は僕と担当の社員さんである程度決着がついている話。
これをお互いの社長を交えて再度確認するだけだった。
「御社のスタッフさんは真面目に仕事されていますね。」
物流センターの社長さんがひと段落した会議の後に突然座り直しながら話を始めた。
“ 御社のスタッフさん ” とは僕のことだ。
自分の話になり、どんな展開になるのかソワソワしていた。
「そうですか? 隙があればサボろうとする連中ですよ?」
うちの社長は社員に厳しい。
僕たちのことを1人前とはなかなか認めてくれない人だった。
僕は物流担当であったため物流センターにはよく顔を出していた。
他のスタッフにも手伝ってもらい、商品が入荷して来た際は検品などを総出で行ったりしていたので割と物流センターで社長さんと会うこともあった。
毎回挨拶する程度で、そこまで接点はない。
「いや、御社のスタッフさんは本当に真面目ですよ!うちの物流センターには他に契約している会社さんもありますが、1番御社のスタッフさんが真面目です。」
と物流センターの社長さんが再度僕たちスタッフを褒めた。
「他の会社の人たちは物流センターで仕事をしたら、帰りに寄り道をするんです。カフェかどこかによって時間を潰してから帰るのかな?
なのでウチのスタッフへ『もし会社から僕たち宛に電話があったらコンビニかどこかに少し出ていると伝えといて』なんてお願いしてカフェに消えていく。」
「でも御社のスタッフさんは違うよね。仕事が終わったら会社に『今から帰ります』と連絡を入れて真っ直ぐに会社に戻る。そんな光景を見ていて真面目だなと思いました。」
と、物流センターの社長が説明をした。
僕は真っ直ぐ会社に戻ることが当たり前だと思っていたので、そんなことで褒めらたことがちょっと意外だった。
他の会社の人たちみたいにカフェに寄って時間を潰したいけれど、小さい会社で仕事量も多くそんな余裕なんてなかったのが正直なところだ。
「そんなの当たり前ですよ。仕事ができない奴がカフェなんて行ってたらダメですからね。」
ウチの社長が相変わらずブレずに厳しかった。
ただ、フとウチの社長の顔を見ると笑みを浮かべて嬉しそうだった。
心なしかちょっと胸を張った気持ちになっているようにも感じた。
普段の何気ない習慣が、良い方向へ転んだ日だった。
「正直に生きよう。」そう一層強く思える出来事だった。
完
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