【児童文学評論】 No.321 2024/11/30

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オランダの子どもの本こぼれ話(10) 
                     野坂悦子
 
オランダの11月に欠かせない行事があります。それは、聖ニコラス(Sinterklaas=シンタクラース)の到来です。スペインから船に乗り、お供を引き連れてやってくるのは、毎年11月11日以降の最初の土曜日。今年は11月16日にオランダに現れ、季節の風物詩として報道されました。到着したのは、ユトレヒト自治州のひとつ、ファイフへーレンランデンにあるフィアーネンという町。そこから今、オランダ各地を回っています。
https://sinterklaasintocht.101tips.nl/sinterklaasintocht.php
 
聖ニコラスの風習は、3-4世紀にトルコのデムレ、かつてのギリシアの町ミュラ(ミラとも)という町にいた司祭、聖ニコラスの民間伝承が起源です。この聖人は子ども、未婚の女性、船乗りの守護者あり、命日は12月6日。その日か前日の12月5日に、ヨーロッパの一部で、子どもにプレゼントが贈られるようになりました。今もオランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、フランスなどで習慣が続いています。また聖ニコラスはアメリカに渡った後、サンタクロースの原型のひとつにもなっています。ワシントン・アーヴィングの物語や、クレメント・クラーク・ムーアによる詩「クリスマスの前の晩」の中に登場するのは、19世初頭のことです。
https://dutchesstourism.com/spotlights/experience-the-magic-of-sinterklaas
https://www.pauline.or.jp/chripedia/mame_SantaClaus.php
 
赤いケープと頭巾を身にまとう司祭姿の聖ニコラスは、かならずお供を連れて来るのですが、オランダではズワルト・ピート(Zwarte Piet、直訳は「黒いピート」)と呼ばれるお供たちが、奴隷制の名残りではないかと指摘され、2010年代にはズワルト・ピートの伝統を守るべきかどうか、大論争が起こりました。
https://www.nu.nl/dvn/4115029/hoofdpunten-discussie-zwarte-piet.html?referrer=https%3A%2F%2Fwww.bing.com%2F 
 
古くからオランダでは、12月5日の夜に、聖ニコラスが白馬に乗って、家々の屋根の上を訪れるといわれていました。ズワルト・ピートの顔が黒いのは、煙突を通ってプレゼントを届けるからだ、という説もありましたが、大論争の末、現在では単に「ピート」と呼ばれ、黒い肌ではない姿に落ち着いています。
 
ピート論争はさておき、オランダの子どもたちは皆、聖ニコラス祭を待ち遠しく思っています。今年11月に出た『レオがのこしたこと』(マルティネ・レテリー作、野坂悦子訳、静山社)
https://www.sayzansha.com/book/b654409.htmlに登場する、
レオも同じです。ナチスドイツに占領されたオランダで、6歳のレオは、ある日突然、家にやってきた警察に連れ去られ、パパやママとオランダ国内のヴェステルボルク収容所へ入れられます。収容所に学校はあっても形ばかり。まわりの人たちが「移送」によって、別の収容所へ次々と送られていき、自分たちもいつ送られるかわからない不安の中、8歳になったレオの前に、聖ニコラスが来てくれたのです!(「聖ニコラスの手」の章) 
 
作者のレテリーさんに、「聖ニコラス祭をそちらではどんなふうに楽しんでいますか?」と質問したところ、思いがけず、こんな詳しい返事が届きました。
「聖ニコラスが到着してから12月5日までの間、子どもたちは何度か靴を置くことが許されます。寝る前にストーブや暖炉のそばに靴を置き、聖ニコラスの歌を歌い、馬に何か素敵なものを贈ります。ニンジンでもいいし、水の入ったボウルでもいい。すると寝ているあいだに、聖ニコラスが馬を伴って屋根の上に現れるんです。ピートが煙突を通って降りてきて、その靴に、お菓子など何か小さないいものを入れてくれます。子どもたちは聖ニコラスへのお願いを書いた手紙を、靴に入れることもありまよ」
「そして12月5日には、家庭でもにぎやかに聖ニコラス祭のパーティーが開かれます。そのあと午後か夕方に、聖ニコラスが家に訪ねてくるのです。ドアを大きな音で叩く音がして、突然ドアの前にプレゼントの入った大きな袋が置かれます。聖ニコラスは時間があれば、自分でやってきますし、家族の輪の中に座り、プレゼントを配ることもあるんです」
 
収容所を訪れた聖ニコラス……それは子どもにとっても大人にとっても不条理な現実を一瞬忘れ、日常に戻るひとときでした。同時に私は、収容所の中でも、子どもたちのためにできることはないかと考えた大人たちの努力を思います。ガザやウクライナ、戦争による破壊の中でも、或いは大災害のあとの仮暮らしの中でも、子どもたちの日常を保とうと、今も無数の小さな努力が世界中で続けられているはずです。そのことを考えると、私ものんびりしてちゃいかんと思うのです。
 
いっぽうで、ホロコーストを経験したユダヤ人がなぜ、パレスチナの人々を「人間動物」と呼び、あれほど苛酷なことを行っているのか?そう問いかける声が、『レオがのこしたこと』を訳している間、頭の中でずっと響いていました。しかし、そう考える自分こそが、イスラエルの人々を「ユダヤ人」と、ひとくくりに考える偏見に囚われているのではないか? あるとき、そう答える声が聞こえてきました。
 
国家と個人は異なります。国の在り方に抵抗する市民の声は、弾圧され、外にはなかなか届かなくとも、かならずそこにあることを私は知っています。そんな様々な考えを、この本の訳者あとがきですべては書ききれませんでしたが、「……差別と偏見がなにを生み、国や組織にしたがった人たちが何をしたかを、私たちに考えさせます」という一文に込めました。
 
最後に、レテリーさんの説明にもある聖ニコラスの歌、「シンタクラース・カプンチェSinterklaas Kapoentje」をお楽しみください。(ただし、かなり以前にアップされた動画なので、ズワルト・ピートは黒い人のままです……)
https://www.youtube.com/watch?v=9QyllfgRX_A
 
★お知らせ★
「世界KAMISHIBAIの日 in Tokyo」
日時:12月7日(土)、13:30-17:00(開場13:00)
会場:童心社KAMISHIBAI HALL
主催:紙芝居文化の会
様々な言語をまじえて、紙芝居を楽しみます。
予約不要、お出入り自由の気楽な会です。お子さんも大歓迎! 紙芝居を通して平和を願い、世界の人と友情を深めます。
オンライン参加も可能です(事前申込要)。
https://www.kamishibai-ikaja.com/activities/World-Kamishibai-Day.html

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スペイン語圏の子どもの本から(68)(宇野和美)

『はしれ! カボチャ―ポルトガルのむかしばなし』(エバ・メフト文 アンドレ・レトリア絵 宇野和美訳 小学館 2008)
 この絵本、原書の文章はスペインの作家が書き、スペインの出版社から刊行されているのに今までとりあげなかったのは、「ポルトガルのむかしばなし」ゆえ。ですが、つい先頃、この絵を描いたポルトガルのイラストレーター、アンドレ・レトリアさんが来日し、そのお話に深く感銘を受けたので、とりあげることにしました。
『はしれ! カボチャ』は、まごむすめの結婚式に招待されたおばあさんが、おめかしをして出かけていくというお話です。その途中でオオカミとクマとライオンに会って「おまえを食ってやる」といわれたおばあさんは、自分はやせっぽちだから、今食べるより、結婚式から帰るときに食べるほうがいいよといって難をのがれます。けれども、結婚式が終わったとき、おばあさんは困ってしまいます。すると、まごむすめが大きなカボチャをとってきて、その中におばあさんを入れてころがすのです。カボチャはころがっていって……?
 3度の繰り返しがある、昔話らしい明快なストーリーの魅力を倍増させているのはレトリアの絵です。なんと、おばあさんは網タイツに赤いハイヒールといういでたち。くっきりとした絵はどこか楽しく、遠目がききます。私の友人の保育士さんは、毎年敬老の日の頃、園児のおじいちゃん、おばあちゃんが保育園に来る機会にこの絵本を読むそうです。そうすると、子どもたちと一緒におばあちゃんたちも大喜びするとのこと。
 大きなカボチャがころがるところの原文は「走れ、走れ」という意味ですが、重たいカボチャがころがるようすをオノマトペで表したくて、翻訳の際に工夫しました。コロコロじゃないし、ゴロゴロでもなくて、と思い、「ゴロロン、ゴロロン、カボチャよはしれ。はしれよカボチャ、ゴロロンローン」としました。子どもたちと読むと、最後は「ゴロロンローン」の大合唱になるそうです。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09726351

 レトリアさんは、パト・ロジコという出版社を2010年に自ら立ち上げ、今やポルトガルの絵本の世界ではなくてはならない存在となっています。出版社を立ち上げる以前、依頼で絵を描いていたころは、イラストレーターの地位が低く、子ども向けだからと幼稚な絵を求められ、安価で大量に描かされて絵が荒れた、「クリエイティビティの自由」を求めて出版社を始めた、今は会社がクリエーターのよきプラットフォームになっていると話していました。
『はしれ!カボチャ』はパト・ロジコ以前の作品なので、ご本人にとっては不本意なところもあったのだろうかという疑問が頭をよぎりましたが、たずねる勇気がありませんでした。
 邦訳されているレトリアさんの作品にはほかにも、お父さんのジャーナリストで詩人のジョゼ・ジョルジェ・レトリアが文を書いた『もしぼくが本だったら』(宇野和美訳 アノニマ・スタジオ 2018)、『戦争は、』(木下眞穂訳 岩波書店 2024)があります。この2作はパト・ロジコの代表作となっています。
https://www.anonima-studio.com/books/picture_book/if_i_were_a_book/
https://www.iwanami.co.jp/book/b643142.html

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イベントのお知らせ
1、JBBY50周年記念オンラインイベント「アート大喜利」&「オンラインリレートーク」
2024年12月15日(日)15〜17時
場所:オンライン
出演:石川えりこ、きむらゆういち、渋谷純子、田島征三、舘野鴻、田中清代、垂石眞子、とよたかずひこ、中辻悦子、降矢なな、堀川理万子
特別出演:シドニー・スミス
司会:土居安子、広松由希子
JBBY50周年記念行事の最後を飾るオンラインイベントです。
Part 1:パットひらめき、サッとえがく「アート大喜利」、Part 2:つながる、ときめく「オンラインリレートーク」、Part 3:絵本作家にインタビューの3部構成。終了後48時間の見逃し配信つきですので、その時間にご都合のつかない方もどうぞ。
詳細とお申込み↓
https://jbby50thehonsakka.peatix.com

2、「アフリカを読む、知る、楽しむ子どもの本」展(入場無料)と講演会。
2024年12月6日(金)12~20時、7日(土)11~17時
場所:神保町ブックハウスカフェ2階「ひふみ」
ケニアの2つの図書館を支援し、子どもの本を通してアフリカのことを知ってもらおうと活動している「アフリカ子どもの本プロジェクト」の設立20年記念イベントです。アフリカを描いた児童書120点あまりを手に取ってみられます。インスタライブ、2つの講演はオンラインで全国各地からもご参加いただけます。
◎講演会「ケニアの村に図書館をつくる」(対面+オンライン)
12月6日(金)18時30分~20時 講師:福本友美子
◎講演会「どうしてアフリカ? どうして図書館?〜プロジェクトを続けながら考えたこと」(対面+オンライン)
12月7日(土)15時~16時半 講師:さくまゆみこ+稲角暢(ケニア在住会員)
ケニアとzoomでつなぎ、生中継でドリームライブラリーのご紹介も予定。
詳細とお申込み↓
https://x.gd/O6Zca
(宇野和美)

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◆ぼちぼち便り◆ *作品の結末まで書いています。(土居安子)

11月の読書会は、『かわいい子ランキング』 ブリジット・ヤング/作 三辺律子/訳 北澤平祐/装画  ほるぷ読み物シリーズ セカイへの窓  ほるぷ出版  2022年8月 The Prettiest 2020)を取り上げました。

14歳のイヴは引っ込み思案で詩を読んだり書いたりするのが大好きです。そして、歌がうまくて、学校のミュージカルのオーディションで主役を勝ち取る積極派のネッサが唯一の友だちです。そんなイヴが学年内で「かわいい子ランキング」1位という情報が授業中にスマホをかけめぐります。イヴは目立ちたくないので、消えてしまいたいと思います。一方、メイクも完璧にして自分の美しさをアピールし、勉強もスポーツもがんばっていつも自分は1位だと思っていた人気者のソフィーは、自分がこのランキングの2位だと知って怒り、「あのランキングを作ったやつをつきとめなきゃ。そして、思い知らせてやる。思い切りバカにしてやる。そして、新しいランキングを作らせる。必ずあたしが1番になるように。」と決意します。そこで、これまで接点がなく、お互い眼中になかったイヴとネッサペアと、ソフィーは、犯人さがしのためにつながります。その過程が、イヴとネッサとソフィーの3人の視点で書かれています。3人がランキングを作ったと思う人物は、お金持ちで女子に人気があり、ミュージカルでのネッサの恋人役を演じ、ソフィーにキスを迫って断ったブロディですが、本当の犯人は別にいたのでした。

参加者の多くが「イマドキ」という感想を述べました。それは、スマホでランキングが拡散されたり、そのあと、イヴの元へ誰からかわからない中傷のメッセージが届いたりする様子や、ネットでの会話で友情が深まる様子や、最後にイヴがネットを通して詩をみんなに伝えるという行為が、スマホがなければあり得ない物語だと思ったからでした。そういう意味でSNSの恐ろしさを感じたという人や、今の中学生がおもしろく読めると思ったという人もいました。ネット社会の功罪を感じる。 戦争や政治もネットが大きくかかわっている。ネットの中傷の恐ろしさは、面と向かって言われれば、言い返すこともできるが誰から来たのかもわからず、言い返せない。そのことが影響してか、最近みんなすぐに思ったことを言わなかったり、率直な意見を表明したりすることが減っているように思う、などの意見が出ました。

個性的な登場人物についての感想も多く出されました。イヴについては、彼女の性格は、家族がユダヤ教を信じており、そのことを人に言うと浮くかもと心配していることからも来るのではないかと思った。ママがイヴの名前は「世界で最初の女性っていうだけじゃなくて、最初の反抗者から取ったのよ」と言うところが印象に残った。イヴは音楽室でイヴたちの会話を盗み聞きしていて、自分たちを応援してくれるウィンストンに「顔をさらさないですむ」と言ってグリーン・ホーネットのマスクをもらう。マスクのことは注があったらよかったと思う。調べると、アメリカで人気の映画や実写版のテレビに登場する犯罪と戦う謎のヒーローで、目の部分のマスクだとある。見た目を気にしないアイディアとしておもしろかった。日本のマスクと重なるように思った。イヴの兄は高校生で、自分の中学のときの女子への態度を反省したり、父の偏見に対して率直な意見を言ったりしている。イヴの兄やウィンストンのように、女子だけでなく、男子にも理解者がいる点はバランスがとれていると思った、などです。

ソフィーについては、自分は一番だと思っており、ランキングが発表されたときは、むきだしの感情をあらわにしていたが、実は母を支え、妹の面倒をみてがんばっている様子がわかり、好感をもった。いたいたしい感じがした。ずっと「すばらしい自分」を演じていた。得意なメイクがミュージカルでいかされてよかった。ソフィーの両親がけんかをしたとき、「あんたの絶頂は高校で終わったのよ!」「おまえもな」と言い合ったという言葉が心に響いた、などの発言がありました。

ネッサについては、ネッサのパパが「自分を愛すること。ほかの人を愛すること。親切にすること。それから、自分が強いということを忘れないこと。」「『父よ、彼らをおゆるしください。彼らはなにをしているのか、わからずにいるのです』」(注:聖書のルカによる福音書23:34)が心に残った。魅力的な人物で、自分を信じて堂々としているところが印象的だと思った、などが語られました。

そして、イヴ、ソフィー、ネッサの3人の友情については、会話がおもしろかった。バラバラだった3人が犯人捜しのために同じ方向を向いて仲良くなった。音楽室でウィンストンが盗み聞きをしていた場面がおもしろかった。仮装パーティーの準備のときに、ソフィーがネッサのメイクをしている場面が楽しそうだと思った。3人とも、文化的背景も、家庭的な背景も異なるが、家族に愛されているという点では共通しており、それが各自の強さになったのではないかと思った。3人がブロディを犯人と決めつけるところが、正義漢と危うさが同居していてうまいと思った。そして、最後に3人だけではなく、男女の友だちがソフィーの家に集まって新年のカウントダウンをするところでほのぼのとした気持ちになった、という感想がありました。

この作品は、アメリカ合衆国が舞台になっていますが、日本との違いを感じる人も多くいました。まずは、メイクです。日本でも最近は増えてきているというものの、ソフィーほどメイクする中学生はあまりいないと思われる。ここまでメイクをする必要があるのか。見た目へのこだわり方が日本以上に極端に感じた。一方、作中でイヴは、エミリー・ディキンソンについて、ソフィーはキャサリン・ヘップバーンについて調べる課題をしている。このような中学生が取り組んでいるテーマにそっての調べ学習は、意義深い。また、ランキングがスマホで発表されたとたん、校長によって保護者と生徒が集められる。そして、保護者が自分の意見を積極的に言う。校長の対応も、保護者の対応も日本とは異なる、などが語られました。

この作品を自分の子ども時代と比べながら読んだ人も多くいました。中学のことを思い出した。私にとって順位と言えば成績だった。とはいえ、男子が女子を外見で評価することを当然と思っている態度は感じられた。同窓会のときにも「誰々がかわいかった」というコメントをよく聞く。また、今なら「見かけでの順位はばからしい」とわかっているが、自分が中学生のときも、見かけを本気で気にしていた。中学のときはこんなこと考えたこともなかった。女子中学だったので、美醜や成績より、個性的な人物に人気があった。男子がランキングをつけていて、私には関係ないと思っていた、などです。

そして、この作品のテーマであり、人間の普遍的な課題ともいえる「外見」と「順位付け」についても話し合われました。「外見」については、幼稚園でも「かわいい」ということばは多用される。外見が気になることはあっても、子どもたちには見かけだけで人を判断すべきではないということは伝えたい、などの発言があり、「順位付け」については、作中で50人ものリストを作ったということに驚いた。一人の男子が作ったことがスマホにあげられたことで問題になった。ランキングの当事者(ランキングに入らなかった人も含めて)にとって、ランクを付けられるということがどういうことで、どう感じるのか、つらさなどが丁寧に書かれていてわかる。そして、恐ろしさが伝わる。わかっているけど比べてしまう。一位になってうれしい人もうれしくないひとも人それぞれスポーツならはっきりするが、芸術の順位って決められるのか。順位をつけることの難しさを感じた、などが語られました。

この作品の訳者は三辺律子さん。三辺さんらしいフェミニズム系の本だと思った。表紙を見てもっと軽く読める本かと思っていたらイメージと違った。男子にもぜひ、読んでほしい。男子も読みたくなるような表紙だったらもっとよかったのではないか、などの意見もありました。ルッキズムが問題になる今、外見やランクやネット社会について考えさせてくれる作品だと改めて思いました。(土居 安子)

<財団からのお知らせ>
●講演と対談「幼年文学のはじまりと現在」
 12月8日(日) 13:00~16:00 大阪府立中央図書館 多目的室 参加費1000円
講師:石井睦美さん(作家・翻訳家)、宮川健郎理事長
 http://www.iiclo.or.jp/03_event/02_lecture/index.html#061208
● オンライン講座「2023年に出版された子どもの本から」 ※終了間近
配信期間:配信中~12月16日(月) 視聴料:1000円 講師:土居安子(当財団理事・総括専門員)
https://2023kodomonohon.peatix.com/
● Instagram https://www.instagram.com/iiclo_official/ new!
● 寄付金を募集しています
https://syncable.biz/associate/19800701/
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*以下、ひこです。

【絵本】
『ちいさい船』(熊谷誠:画 熊谷聡子:文 UEMON BOOKS)
 巨椋池の水害の備えとして昔はどの家にもあった船。誠の実家もまたそうで、解体の時屋根裏から一艘の船が出てきたのでした。家と船。それに想を発して描かれた一群の絵を聡子が物語として編み上げた絵本です。鉛筆とアクリル絵の具で描かれた船は、暮らしの歴史を直接語るでもなく、しかし間違いなくそれを背景にして、そこにあります。想像が入り込む余地があります。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784911193013

『ゆきのおくりもの』(リンデ・ファース:作 西村由美:訳 岩波書店)
 きっと寒いんだろうけど、北欧のクリスマスイヴ。ソフィーは父親が仕事で独りぼっち。ビルの乱立する町へと出て行きます。外は雪。と、トナカイがやってきてソフィーを森へ連れて行ってくれます。周りと比べて少し元気のないもみの木(ソフィー自身の写し絵ですね)を見つけた彼女は良いことを思いつきます。
 クリスマスの温もりが溢れますよ。
 いい絵だ。
https://www.iwanami.co.jp/book/b652396.html

『新装版 輪切り図鑑クロスセクション』(スティーヴンビースティー:画 リチャード・プラット:文 北森俊行:訳 岩波書店)
 92年作品の新装版。ああ、こんな表現もあるんだと、驚きうれしくなりました。この隅々までこだわった絵の素晴らしさ。
 他も出るのかしら?
https://www.iwanami.co.jp/book/b652395.html

『ぼくらにできないことはない』(エーヴァ・りンドストロム:作 よこのなな:訳 岩波書店)
 兄弟は、母親と犬のキングと一緒にこの惑星にやってきた。おとなりさんは、芝生の焦げを見て、焚き火でこんなにするなんてというけれど違う。これは宇宙船が降りた跡。新しい学校へ行く途中のカフェで父親を見たような気がするけど……。
 不安の中にある兄弟は自分たちだけの世界を作り上げて自分たちを守っていますが、後ろ向きではなく、振り返らずに前を向いて歩こうとする姿が、読む物にも勇気を与えてくれます。
https://www.iwanami.co.jp/book/b650781.html

『もう ねむる じかん』(エイミー・ヘスト:ぶん レナータ・リウスカ:え いわじょうよしひこ:やく 岩崎書店)
 寝る時間になってベッドに入っても、パパがやってこない。心配になった子ウサギはパパの寝室に行くけれど、パパはぐっすり眠っていて……。父子のやさしい時間が訪れます。
https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b10087935.html

『うろおぼえ一家のおみせや』(出口かずみ 理論社)
 4作目。うろおぼえ一家が、どうしてかたくさんご飯を炊いてしまい、どうしてかおにぎり屋さんを始めてしまい、でもこの一家に商売が出来るとも思えず、やっぱりなんですが……。
https://www.rironsha.com/book/20646

『せっかちなハチドリ』(安東みきえ:文 降矢なな:絵 ぶんけい)
 のんびりなマイマイが、せっかちなハチドリを心配して、ついて回ります。ハチドリにすればちょっと迷惑。でも、困ってしまったとき、友だちがいてくれてうれしい。
https://common.bunkei.co.jp/books/4531.html

『おかえりなさい、スノーマン』(マイケル・フォアマン:作 三辺律子:訳 あすなろ書房)
 フォアマン、ブリッグズと友だちだったんだ。知らなかった。『スノーマン』に捧げる作品です。ラストがとってもいいです。
http://www.asunaroshobo.co.jp/home/search/info.php?isbn=9784751532256

『ミーコ』(長谷川義史 講談社)
 長谷川自身の思い出でしょうか。初めて飼ったかわいい子ネコ。けれど体が弱くて、自慢のネコにはなりませんが、それでも大好きです。しかし、やがて別れが……。とても柔らかな絵です。長谷川の思いが詰まった、新境地。
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000389111

『せかいにひとつ あなたのうた』(ニコラ・デイビス:文 マーク・マーティン:絵 西野博之:訳 子ども未来社)
 あなたのうたは、あなたにしかうたえない。決して誰にも邪魔はさせない。疎外もされない。あなたのうたを、あなたがうたうことを奪ってはいけない。子どもの権利を高らかに歌い上げた絵本です。
http://comirai.shop12.makeshop.jp/view/item/000000000365

『わたしのくつしたはどこ?』(フロレンシア・エレラ:文 ベルナルディータ・オヘダ:絵 あみのまきこ:訳 岩崎書店)
 視覚障がい者の立場に立った絵本です。犬のアデルは、出かけるとき、お気に入りの赤い靴下が見当たらないと思います。ページの右側は大きな丸い穴が空いていて、それを捲ると、赤い靴下はあります。アデルには丸い範囲しか見えていないのです。パージが進むごとに丸い穴はどんどん小さくなって行って、アデルは見えなくなって行きます。視覚障がい者ではない人にとって、自分には見えていても、アデルには見えないことがあるという提示の仕方はよく分かって良いですね。
https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b10086692.html

『ドングリたべた?』(松橋利光:写真 木元侑菜:文 新日本出版)
 松橋+木元の奄美シリーズ新刊です。シイの実(ドングリ)を食料にする生き物たちをご紹介。みんなおいしそうに食べているなあ。
https://www.shinnihon-net.co.jp/child/product/9784406068215

『はらぺこのライオン』(ルーシー・ルース・カミングズ:作 石津ちひと:訳 徳間書店)
 二段オチのお話です。はらぺこのライオンと色んな動物がいます。ところがページを繰るごとに動物が減っていきます。怖い。ついに全部居なくなって……。食べられたの? 大丈夫? さあ、どうでしょうか。可笑し怖い絵本。
https://www.tokuma.jp/book/b654052.html

『かえでがおか農場のねこ マックス』(アリス&マーティン・プロベンセン:さく 中井はるの:やく ほるぷ出版)
 プロベンセン夫妻の遺したダミーからの絵本化です。ふたりが実際に飼っていた猫、マックスが主人公です。おそらく現実にあったエピソードを連ねていますので、ドラマチックな展開はありませんが、いかにも猫のやりそうなことばかりで、ニヤニヤしてしまいます。このホンワカ度が、この絵本の買いです。
https://www.holp-pub.co.jp/book/b651544.html

『ジュリアンとウエディング』(ジェシカ・ラブ:作 横山和江:訳 サウザンブックス社)
 ジュリアンはおばあさんと一緒に、結婚式に参加です。女性同士のカップルなんですが、それを強調するでもなく、絵本は普通のこととして描いていきます。パーティーに退屈したジュリアンは女友だちのマリソルと抜け出して、服を取っ替えて遊びます。この辺りもそうなのですが、作品全体に漂っている自由さが心地良いです。
http://thousandsofbooks.jp/project/julianwedding/

『かいじゅうのすむしま』(谷口智則 アリス館)
 島民たちはかいじゅうを恐れています。それを知ってかかいじゅうは、大雨の日は島に傘を差し掛け、日照りの時は水をかけしますが島民はかいじゅうがしてくれているのだとは気付きもしません。やがて、ミサイルが飛んできて……。希望と再生の物語。デビュー20周年おめでとうございます。
https://www.alicekan.com/books/9284/

『いかあげ たこあげ』(高畠じゅん子:作 高畠純:絵 偕成社)
 たこは、誰があげても、凧揚げは凧揚げと主張し、いかは、いやいかがあげたら、いか揚げだと言い、いや、いかだはたこが乗ってもいかだだろうとたこが言い、いや、それはたこだだといかが無理やり言い……。どこまでいくのでしょうか?
https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784032327205

『おきるのだあれ?』(新井洋行 くもん出版)
 アイディア絶好調の新井による新作絵本。絵本の裏から表まで二つの穴が貫いていて、そこからニットの指が覗いています。裏から指を入れて、これを動かすわけです。ページを繰るごとに動物の子どもが変わります。やってみましたが、楽しく遊べます。新井さんの発想は自由だなあ。
https://shop.kumonshuppan.com/view/item/000000003612?category_page_id=ct472_1

【児童文学】
『しじんのゆうびんやさん』(斉藤倫:作 偕成社)
 小さな街の郵便屋さんは2人。配達のトリノスと受付のガイトー。ふとしたことでガイトーはトリノスに頼まれて見知らぬ老人に手紙を書くことに。でもそれは詩にしかならないのでした。やがて手紙の依頼が次々と……。
 心が散歩に出かけたくなるような詩手紙たち。
https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784036432608

【その他】
『タイプ別診断でわかる1 失敗しない整理整とん』(中村佳子:監修 ポプラ社)
 散らかっているのを片づけるのではなく、元の状態に戻すという視点がいいですね。たった一つの正解はなくて、人それそれぞれなのも。読んでいて、反省すること多し。本棚の整理は、無理だなあ。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/6052001.html

『あなたの権利を知って使おう 子どもの権利ガイド』(アムネスティ・インターナショナル他:著 上田勢子:訳 子どもの未来社)『そうなんだ! 子どもの権利』(手丸かのこ:まんが 渡辺大輔:監修 子どもの未来社)
 子どもの権利についての本2冊が発売されました。前者は、子どもの権利を知って、それを行使しようということで、様々な事例を挙げています。そう。使わなければね。後者はマンガで分かりやすく子どもの権利条約について具体的に説明しています。前者は中高生に、後者は小学生に読んで欲しい。
http://comirai.shop12.makeshop.jp/view/item/000000000358

『おなじところ ちがうところ』(新井洋行:作 嶽まいこ:絵 くもん出版)
 友だちと、家族と、知り合いと、色々同じところもあるけど、違うところもある。そう、違って当たり前。違いを受け入れて初めて本当の交流が始まります。この絵本は、たくさんの具体的事例を挙げているので、子どもにも分かりやすいです。
https://shop.kumonshuppan.com/view/item/000000003600

『あなたが学校でしあわせに生きるために』(平尾潔 子どもの未来社)
 校則、いじめ、不登校など、学校にまつわることを、子どもの権利に即して考えればどうなのかを弁護士視点で具体的に書かれていますので、もやもやした気持ちがすっきりする一冊です。
http://comirai.shop12.makeshop.jp/view/item/000000000364

『親の離婚・再婚 こども法律ガイド』(佐藤香代他:著 まえだたつひこ:絵 子どもの未来社)
 親の離婚・再婚とはどんなことかを、法律に基づいて子どもに解説しています。こういうガイドがあると、当事者の1人である子どもは心の準備ができますね。
https://www.bookcellar.jp/product/detail/1861584

【絵本カフェ】
『うえをみて!』(チョン・ジンホ:作 斎藤真理子:訳 ハッピー・オウル社)
 障碍者の介護に入っていた頃、車いすを押して街中を歩いているとき彼は、介護者に頭上から話されるのが一番嫌だと言っていました。視点の高低による抑圧感があったのだと思います。
 この絵本のスジは、交通事故で歩けなくなり、家のベランダから下の通りをいつも眺めて時間を過ごしています。ここでのスジの視線は上から下へですが、通り過ぎる人が誰もスジに気づかないという意味で、スジは孤独を感じています。
 絵本の縦長の画面は一貫して頭上から描かれていて、右側にはベランダから道路を眺めているスジ、左側が人の行き交う道路です。
アリのように小さな人々の頭が、スジのことなど知らずに通り過ぎていきます。晴れの日も雨の日も。「うえをみて」欲しいのに、誰もが素通り。毎日、毎日。毎日、毎日。多くの人が行き交うだけに却って、スジは寂しい。気軽に外出が出来なくなっているスジのいらだちが静かに伝わってきます。
 でも、ある日、立ち止まって見上げる人がいました。スジはどんなにうれしかったことでしょう。しかもその人は、上からじゃあ自分の頭しか見えないだろうからと、地面に横たわってくれます。その人は、スジの視線がどうなっているかがわかっているのです。すると他の人も次々と加わり、横たわってスジにわかるように色んなポースをとるのです。なんともそれがおかしいし、読んでいるわたしも嬉しいです。
 もちろん、そんなことは現実には起こらないのでしょうけれど、そうしてスジを笑顔にしようする人々の心は温かいし、たぶん自分でもその行為を面白がっているのだと思います。だって、芝生の上とは違って、普段はしないことだから、絶対に楽しいもの。
https://happyowlsha.com/ohanashi/9784902528732/

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