【児童文学評論】 No.100  2006.04.25


あとがき大全(57)金原瑞人

 前回、『アイアンマン』『星を数えて』『盗まれた電撃』のあとがきを掲載して、今月、さて、どうしようかなと思ったら、「あとがき」がない!
 本が出ていないことはないのだ。
 まず、3月に『英米ホラーの系譜』(ポプラ社:「ホラー・セレクション」第9巻)が出ている……のだが、これは監修と翻訳の両方。
 ポプラ社の「ホラー・セレクション」、ジェネラル・エディターは赤木かん子。そのうちの第9巻目をぼくが担当した、ということ。
 この『英米ホラーの系譜』(古典編)をまかされたとき、英米の恐怖小説、それも短編をいくつか集めるとしたら、なにがいいかなと考えるのが、まずなにより楽しかった。
 その結果、次の作品にしぼってみた。

・壜の悪魔、スティーヴンソン
The bottle imp (1893) by Robert Louis Stevenson
(大谷真弓)
・告げ口心臓 ポー
The Tell-Tale Heart by Edgar Allan Poe
(金原瑞人)
・アウルクリークの事件 ビアス
An Occurrence at Owl Creek Bridge by Ambrose Bierce
(野沢佳織)
・闇の海の声 ホジスン
The Voice in the Night by William Hope Hodgson
(秋川久美子)
・ポドロ島 ハートリー
Podolo by L. P. Hartley
(三辺律子)

 ところが、最後の「ポドロ島」、ちょっと勘違いをしていて、まだ版権が切れてなかった。というわけで、これは旧訳のまま、ほかの巻(「わが家の食卓にようこそ」)に回してもらうことにして、さて、何にしようかなと、考えた結果、ディケンズの「信号手」にした。
 というわけで、この品揃え、けっして損はさせない。
 そもそも、すべて新訳だ。この内容、この翻訳、自画自賛ながら、素晴らしいとしかいいようがない。
 やっぱり、翻訳は新しいほうがいい。また、訳者五人それぞれの訳文の違いをくらべてみるのも楽しいと思う。ただ、金原の訳がいちばんつまんないとかは、いわないでほしい。このところ、いつもにもまして傷つきやすいので。
 そういえば、このなかに入れたかったけど入れられなかったホラーの短編は、それこそ山ほどある。「英米ホラーの古典」だから、新しいものは入れられないし、古いものでも、使えないものがあるし。たとえば、ジェイコブズの「猿の手」とかは絶対に入れたいけど、これは同ポプラ社の「リトルセレクション」(赤木かん子監修)のうちの一冊に入っているのだ。それも金原訳で。
 じつは、今年の4月から、法政大学の社会学部でやっている演習(ゼミ)の内容が変わった。これまで「創作」だったのが、「翻訳」に変わったのだ。それと同時に、一般授業で「創作」を教えることになった。これは、受講生が多いとまずいので、年間、原稿用紙で200枚以上書くことという条件をつけた……にもかかわらず、50名弱の学生が登録してしまったらしい。ということは、一年間で1万枚の原稿を読まなくてはならない。
 来年は、考えなくちゃ。
 それはともかく、その一般授業の「創作」で、「猿の手」をコピーして持っていき、あれこれ30分ほどしゃべって、なんでもいいから好きなことを書かせた。エッセイでもいいし、ショートショートでもいいし、感想でもいいし……という具合だ。
 で、提出してもらったものを読んで、驚いてしまった。
 いやあ、おもしろい!
 そのうち、HPで紹介するかもしれないので、アンテナを張って待っていてほしい。
 若い連中って、やっぱり、おもしろい。
 ともあれ、ポプラ社の『英米ホラーの系譜』、最初に、原稿用紙で20枚以上の金原の解説がついている……ので、あとがきはない。のだ。
 あ、そうそう、その解説で、「トランシルヴェニア」を「ペンシルヴェニア」と間違えて書いちゃった。すいません。

 さて、次に『シルバーチャイルド』。
 ご存じ、「レイチェル」シリーズのクリフ・マクニッシュの最新作だ。三部作。このあと『シルバーシティ』『シルバーワールド』と続く。
 「レイチェル」シリーズの第三巻をさらに発展させたような作品で、子どもたちが、宇宙からやってくる脅威に立ち向かうために戦うというファンタジー。ただ、「ナルニア」「指輪」「ハリー・ポッター」という、いままでのファンタジーとはまったくちがう。
 どちらかといえば、石森章太郎の『幻魔大戦』や、楳図かずおの『漂流教室』といったテイストの作品と、『レイチェルと魔導師の誓い』を混ぜ合わせて、スケールを10倍くらいにした感じ。
 こちらは、なぜあとがきがないかというと、第三巻目の終わりに、ひとつだけつける、ということになったからだ。
 そんなわけで、こちらのほうのあとがきはそのうち。
 というわけで、今回、あとがきはありません。

*****
*以下、ひこです。

【絵本】
『ハンダのびっくりプレゼント』(アイリーン・ブラウン:作 福本友美子:訳 光村教育図書 1400円 1994/2006.04.25)
 ハンダは友達にあげる果物を7つかごにのせます。そのかごを頭にのせて、友達の家に。その途中に、かごの中の果物は次から次へと、それぞれの果物を好きな動物たちが取ってしまい、ついに空っぽに。それを知らないハンダです・・・・。
 気付かないハンダに声をかけたくなり、でも、どこかで、動物たちの一緒にいたずらっぽく笑いたくなり。最後はもちろん幸せな結末ですから、そこまでの小さなドラマを充分楽しめます。いいです。(hico)

『さんびきめのかいじゅう』(デビット・マッキー:作 なかがわちひろ:訳 光村教育図書 1400円 2006.02)
 あかいかいじゅうとおあいかいじゅうが暮らす島にきいろいかいじゅうがやってくる。最初は受け入れたくなかった2匹ですが、労働力として利用出来るとわかると、きいろいかいじゅうに、面倒な仕事を押しつけます。そして気付けば・・・。
 きいろいかいじゅうを何と見るかを様々に考えることができます。また、『あおくんときいろちゃん』との違いもね。
 かいじゅうたちの表情、良いです。(hico)

『ながい よるの おつきさま』(シンシア・ラインライト:作 マーク・シーゲル:絵 渡辺葉:訳 講談社 1600円 2004/2006.01)
 夜、静か、とても静か。月。毎月名前を付けられた月の詩。
 静けさの中に、生き物たちの声や営みがかすかに、遠くに聞こえてきそうな画たち。
 贅沢な絵本です。絵本の力を見せつけてくれます。(hico)

『ねどこ どこかな?』(ジュディ・ヒンドレイ:作 トール・フリーマン:絵 谷川俊太郎&覚和歌子:訳 小学館 1300円 2006/2006.02)
 良い眠りは良い寝床で。
 様々な生き物(含む人間)の気持ちの良い寝床と気持ちよさそうな眠りが、なんとも穏やかや画と、心地よい言葉のリズムで描かれていきます。
 眠りたくない子どもは、画の楽しさと音の活き活きさで、ますます目がさえたりするかもしれませんが、それも吉です。(hico)

『おにいちゃんには はちみつケーキ』(ジル・ローベル:ぶん セバスチャン・ブラウン:え なかがわちひろ:やく 主婦の友社 1300円 2005/2006.05.10)
 下の子ができて、動揺している子どもパターンの絵本。これは永遠のテーマなんでしょうね。少子化が進むとこういう状況は少なくなってしまうのでしょうけれど。
 兄になったコンタくんの、疎外感と不安感、悔しさが良く出ています。はちみつケーキを食べて納得するとこなんか、リアルです。(hico)

『わくわく、おたんじょうびだよ!』『あっ、わすれちゃった!』(ブリギッテ・ベニッガー:ぶん シュテファニー・ローエ:え 二宮由紀子:やく BL出版 1200円 2005/2006.03.15)
 フカフカ表紙がとても嬉しい、「こねずみミコ」シリーズです。
 このシリーズは、ミコが大好きな人形ミミキとの一人遊びを中心に描いていて、そこがおもしろいです。と書くとクリストファーとくまのプーを思い出しますが、プーさん世界では、背後の語り手(父親)が強く意識されるのに対して、ここではミコの視点に寄り添い度が高いです。従って、クリストファーの物語が「成長」を軸にする(くまのプーが成長しないことでクリストファーのそれが露わになる)としたら、ミコの物語は日々の心の揺れが中心となります。言い換えれば、ライナスの毛布的なお気に入りのミミキを配することで、語り手をより背後に追いやる。
 どちらもとても愛おしいストーリーになってます。(hico)

『わたしたち 手で話します』(フランツ・ヨーゼフ・ファイニク:作 フェレーナ・バルハウス:絵 ささきたづこ:訳 あかね書房 1400円 2005/2006.01)
 しっかりと現実を見据えた上で、「障害者」と「健常者」(といった呼称の是非は議論の余地がありますが、私は使っておきます)相互のコミュニケーションをきちんと描くシリーズ3作目。今作は聴覚障害と手話ですから、テーマがもろコミュニケーションとなります。
 ホントに、いい、シリーズだな~。(hico)

『ほんとにほんと』(ケス・グレイ:文 ニッケ・シャラット:絵 よしがみきょうた:訳 小峰書店 1300円 2002/2006.01)
 『ちゃんとたべなさい』のデイジーちゃんが再び登場です。あ、三度か。
 今夜は、ママがおでかけなので子守のアンジェラがやってきます。
 ママはもちろん、良い子にしていてと言うわけですし、だからと言ってママの思う良い子になんてなれるわけないし。
 アンジェラがいて良い子にしなければならないのは拘束ですが、一方、ママがいない間は良い子をしなくてもいい「自由」だとも言えます。この辺りのドキドキ・ハッピィ感が実に上手く描かれています。
 アンジェラも、デイジーが少しウソを付いているのは知っていますが、それを許容しているし、たぶんママだって、デイジーが良い子をしていなかったのを知っています。そこが気持ちいいですよ。(hico)

『海賊事典 「知」のビジュアル百科』(リチャード・プラット:著 朝比奈一郎:訳 あすなろ書房 2000円 1995/2006.04)
 ただでさえおもしろいこの百科シリーズなのに、今回は素材も「海賊」で、面白すぎます。海賊といえば、冒険小説でイメージができてしまっていますが、この本できちんと学習・修正しておくと、フィクションの海賊もよりリアルになるはず。(hico)

『描かれた自然』(ウェンディ&ジャック・リチャードソン:編 若桑みどり:日本語版監修 森泉文美:訳 小峰書店 2500円 1989/2006.01)
 すばらしいコンセプトの「名画の世界」シリーズ8冊目。
 今回は古今東西、様々な自然が描かれた画を20作紹介しています。時代と文化によって、自然を見る目の違い、どう見えているのかなど、ワクワクしながら考えることが出来ます。
 このシリーズ、あと何冊あるのだろう? もっと、もっと! なのです。(hico)

『ホームランを打ったことのない君に』(長谷川集平 理論社 1200円 2006.01)
 集平の新作絵本。
 ホームランをねらって打てなかった少年。そうではなくそれぞれの野球があるんだよ。でわら留野ではなく、でもやっぱりホームランを打ちたい!まで、視線を伸ばしているのは、さすが。
 元々、語る作家ですが、今回も語っています。それが押しつけがましくないのは、登場人物達の、どこか遠くを見るような表情ゆえ。(hico)

『Last Trapper 最後の狩人』(ニコラ・ヴァニエ:文 フィリップ・ミニョン:絵 河野万里子:訳 小峰書店 1500円 2004/2006.01)
 夏の上映される映画の原作・絵本版です。だからといって、ついでの仕事ではありません。これだけで、作品として成立しています。
 カナディアン・ロッキーで狩をして生きている夫婦の物語。妻はネイティブです。
 その暮らしがしだいに難しくなっていく日々を描いています。
 帯に「癒しからスローへ」とあり、「へ」ですから、彼らの暮らしぶりを、現代社会の行き詰まりの向こうに見たいという思いがあります。それが「Last」でもある辺りに、現代の先が読めない時代がほのめいてきます。(hico)

『さかさのこもりくん』(あきやまただし 教育画劇 1000円 2006.04)
 こうもりのこどものこもりくんは、いつも逆さですから、言葉も逆さま。おもしろくないは楽しいだし、キライは好きだし。くまくんと遊ぶことになったのですが・・・。
 この一ひねり、子どもは大好きですよ。分かりやすくて面白いから。(hico)

『やあ!出会えたね ふん虫』(今森光彦 アリス館 1400円 2006.04.10)
 今森の虫さん写真絵本シリーズ最新作。前にも書きましたが、このシリーズ、まず、表紙がいいのですよ。シンプルで洗練されているから、子どもにとって「大人っぽい」わけ。
 内容は、今森のフン虫大好き度がバシバシ伝わってきて、観察のおもしろさがすんなり心に入ってきます。(hico)

『つたわるきもち』(ふくだすぐる:ぶんとえ パッピー・オウル社 1200円 2005.12)
 くまさんが大好きなねずみくんは、「チュ」を一杯あげます。その一杯が、ずーっと続いて、最後はくまさんが「チュ」で一杯。
 いやいや、このシンプルなメッセージは伝わりますよ。(hico)

『ずらーり マメ ならべてみると・・・』(深石隆司:写真 高岡昌江:ぶん アリス館 1500円 2006.04)
 「ずらーり」シリーズ最新作。「ずらーり」がいいんですよ、やっぱり。今回は豆がずらーり。
 これは要するに、一つのカテゴリーをばーっと見せてしまうわけですが、そのインパクトは、「豆」とは何かといった、日頃は立てない種類の問いを生みます。つまり、「世界」(今回は「豆」を素材として)というレベルで物を考える経験です。この経験はとても大事だと思う。(hico)

『絵本・水族館 たんけん編 みんなほねなし?』『絵本・水族館 たんけん編 しんかい ぎょっ!』(ともながたろう:え なかのひろみ&まつざわせいじ:ぶん アリス館 1400円 2006.04)
 この「絵本・すいぞくかん」シリーズも「世界」を見せる試みの一つです。引き続いて書きますと、こうした試みが良いのは、子ども達に「世界」の広さや大きさを伝えると共に、それを「私」の視点を離れて見つめる発想を生むことです。こうした絵本で「豆」を「さかな」を好きになったり興味を持ったりしなくてもいいいのです(もちろん持って欲しい)。それらを通して「世界」を感じることができれば。(hico)

『さとうねずみのケーキ』(ジーン・ジオン:ぶん マーガレット・ブロイ・グレアム:え わたなべしげお:やく アリス館 1400円 1964/2006.01)
 『どろんこハリー』トリオによる、物語絵本です。
 見習いコックのトムは下働きなので、ケーキの腕を見せることができません。
 コック長が引退したので、王様は次のコック長を、ケーキの腕で決めることに。さて、トムは?
 非常にシンプルな設定で物語に誘い込みます。そこからの展開も、こうあれば楽しいという王道で、さすが。
 画の古さは否めませんが、それもまた今の子どもには新しいかもしれません。(hico)

『とりちゃん』(長谷川知子 文研出版 1200円 2006.03)
 どこを繰っても、長谷川知子の世界が拡がっています。
 遊ぶなら友達とがいいのだけど、らんぼうなとりちゃんに、みんなちょと辟易。ひなちゃんのこと大好きなのに・・・。さて、どうする?
 煮詰まった二人の関係に、長谷川は、ちょっとした仕掛けを持ち込みます。
 小さな物語ですが、主人公には大きな問題。そんな作品をこれからも描き続けて欲しい。(hico)

『へんてこりんなおるすばん』(角野栄子:作 かわかみたかこ:絵 1000円 2006.03)
 ランちゃんの一人で初めてのお留守番を描いています。へんてこりんとあるように、さまざまな不思議が起こるのですが、それはランちゃんの不安の反映ですから、へんてこりんでもなく、彼女の心をストレートに描いているとも言えます。
 初めてのお留守番をしている子どもの心の中で、起こっているかもしれないドラマ。それを子どもの側から、作者は上手くドキドキドラマとして見せています。(hico)

『しってるねん』(いちかわけいこ:文 長谷川義史:絵 アリス館 1200円 2006.03)
 すれ違ったおばさん。どこかで見た人。誰やったやろう?
 で、商店街のおばちゃんたちを次々思い浮かべ、最後にたどり着いたのは・・・・。
 「大阪弁」が楽しいというより、やはり、最後のオチまで次々と色んな顔が出てくるところでしょう。
 長谷川の画はよく物語を語っています。(hico)

『あなたをずっとずっとあいしてる』(宮西達也:作・絵 ポプラ社 1200円 2006.01)
 ティラノサウルス絵本シリーズ4作目。
 草食恐竜のマイラサウラは、たまごを拾って帰ります。自分のたまごと一緒に育てたそれは、ティラノサウルスの子ども。ハートと名付けます。そのことを知らせず育てたハートですが、彼はティラノサウルス(父親)に出会ってしまいます。
 どうすることも出来ない関係を描き、甘い物語ではないのですが、作者の目は暖かい。(hico)

『おでんさむらい・こぶまきのまき』(内田麟太郎:文 西村繁男:絵 くもん出版 1100円 2006.01)
 内田&西村によるニューヒーローの誕生をまず喜びたい。
 もうコテコテの時代劇。弱い者の味方。で、今回の弱い者がかさおばけっていうのが、内田らしいズラし方。もちろん「おでんさむらい」なる設定もそうなんですが。「こぶまきのまき」もそうなんですが。つまり、このシリーズ(あ、勝手にシリーズ化してしまいましたが、「こぶまきのまき」ですからシリーズですよね内田さん、西村さん。ぜひぜひ)は、コテコテ設定の上にヘンなものを乗っけている。すると、コテコテであればあるほど、ヘンが面白くなり、ヘンであればあるほど、コテコテが活きてくる。結果、堂々とヒーローが勧善懲悪が描けてしまうという仕掛け。(hico)

『ぼくができること』(スティーブ・スモールマン:ぶん ティム・ワーンズ:え 左近リペカ:やく 草炎社 1300円 2006/2006.02)
 新しくやってきたぬいぐるみ。他のおもちゃ達は、自分達の得意技(音が出るとか、シッポが揺れるとか)を示しながら、「ぼく」ができることを訊くし、自分でも考えるけれど、なんにもできそうにない。「ぼく」は役立たず? さいごに「ぼく」は抱きしめると気持ちがいいとわかります。
 『でっかいでっかいモヤモヤ袋』に続いて、草炎社が送る、子どもの心を描いた絵本。
 描かれていること、伝えようとしていることは、悪くはありません。でも、もし読者に小さな子どもを想定したとき、「まだ、自分探しはしなくていいよ」と言いたくなるのですが?(hico)

『ウルフさんのやさい畑』(クレイヤー・ボーリエー:作 カンタン・グレバン:絵 ゆづきかやこ:訳 小峰書店 1400円 2004/2005.12)
 こちらは、ベジタリアンになったオオカミのお話。
 野菜畑を作ったが、ウサギたちに野菜を食べられ、さあどうする?
 オオカミ物パロディの一つなのですが、ベジタリアンになったことより、野菜作りを巡って展開するところが読ませます。
 グレバンの画が良いです。(hico)

『おおかみとキャベツばたけ』(ひだきょうこ:さく・え 1200円 教育画劇 2006.04)
 絵本としての作り込み方や体裁の自己主張、画の活度など、とても魅力的な作品です。
 物語は、これもオオカミ物パロディ。畑も出てきます。こうした偶然の一致は、作者にとってマイナスではなく、時代を呼吸しているという意味で作り手としての感度が良い証拠です。
 この絵本で残念なのは、物語が「本当のかがやきってなんだろう?」といった、きわめて当たり前のテーマに収束していくことです。個性的な絵本の作りですから、物語ももっと個性的でも良かったのでは?(hico)

『せかいいち ながいへび』(みやざきひろかず 教育画劇 1000円 2005.11)
 長~い、一枚の紙に描かれたヘビを、巻物を繰るようにして見ていきます。
 設定は、シッポの先を掻いて欲しいとヘビからたのまれたネズミくんが、延々とシッポまで歩いていきたどり着く、というもの。
 シンプルさの勝利です。一発アイデアで、なんじゃこれ! なのですが、結構楽しい。そのアイデアを活かすために、物語はひねられていないのです。もちろん画面の脇では色々あるのですがね。
 好きです。(hico)

『おかあさん、げんきですか。』(後藤竜二:ぶん 武田美穂:え ポプラ社 1100円 2006.04)
 母の日に、感謝状を書くかと思ったら、いいたいことを書く「ぼく」。こうした設定の外し具合が、やはり上手い。ユーモラスに描かれているけれど、結構真剣。良い奴なのです。(hico)

『こびとづかん』(なばたとしたか:さく 長崎出版 1500円 2006.05)
 長崎出版の新シリーズ「cub label」第一弾。
 ぼくは、草むらでミドリの全身タイツのようなものを発見。じいに訊くと、こびとの抜け殻だとか。さっそくぼくは森にこびと採集に・・・。
 なんとも奇妙なこびとたちがでてきます。物語は、採集してかごに閉じこめてはこびとがかわいそうという真っ当なところに落ち着くのですが、様々なこびと像や、妙に生々しい画が記憶に残ります。
 この奇妙さがシリーズのコンセプトか?(hico)

『うしさん おっぱい しぼりましょ』(穂高順也:作 竹内通雅:絵 ポプラ社 1200円 2006.02)
 コーヒー豆を食べればコーヒー牛乳、バナナを食べればバナナ牛乳、ソフトクリームもなんでもしぼれるうしさんなのだ。
 も、それだけですごいのに、最後は音楽隊まで呑み込んで・・・。
 お約束道理に展開する楽しさです。(hico)

『まんまるひみつのおじさん』(のぶみ:さく 草炎社 1200円 2006.04)
 おるすばんの間に、おかあさんがすきなオムレツを作ろうとしたちーちゃんですが、なかなかうまくいかなくて。そんなとき、フライパンみたいな顔のおじさんが現れて・・・。
 あほくささが、いつのまにか温かさに変わっていくところが良いです。オムレツがもうちょっとちゃんと作られていたら、もっとおもしろかったです。(hico)

『ママってすてき!』(YOKOCOCO:さく 石津ちひろ:やく 主婦の友社 1300円 2005/2006.05.10)
 わたしといもうとは、ママのしていることが大好きで、ママが出かけているすきに、料理やお化粧をしてみるのですが・・・。シンプルな画、好きです。
 親のまねをしたいというのは、その通りで、そこが描かれるには、子どもにとっても共感できます。「VERY INTERESTING!」(原題)でしょう。
 ただし、邦題が示してしまっている点に関してはどうでしょう? 子どもは「すてき!」と思うかもしれませんが、作者も含めた大人にとって、この「ママ」は「すてき!」でしょうか?(hico)

『まほうのケーキをつくりましょ』(北川チハル:さく ひだきょうこ:え 岩崎書店 1300円 2006.04)
 ポポちゃんシリーズ第2作。
 お誕生日にもらったまほうのほうき。動物たちも貸して欲しい。でも貸さないもん。で、誰も遊んでくれない。元気をだすためにまほうのケーキを作ろうとしますが、材料が集まらないのでできません。そんなとき、動物たちが・・・。
 これでまほうのケーキが作れたらつまらないけれど、みんなと一緒に普通のケーキを作ります。それこそ本当にまほうのケーキ。
 小さな話ですが、悲しみから幸せまでの過程に無理がなく、おいしい味わいです。(hico)

『せかいでいちばんすてきなケーキ・バカンスのおたんじょうび』(くすのきしげのり:文 せいみやあきら:絵 岩崎書店 1300円 2006.04)
 こちらもケーキを素材としています。お誕生日も同じ。それはそれでいいのです。それぞれの仕上がり具合ですから。
 「もぐらのサンディ」シリーズ第4作。
 おねえちゃんは、おたんじょうびにケーキを焼いています。とうさんかあさんも一緒にね。当然サンディも手伝いたいのですが、まだ小から「じっとしているのが いちばんの おてつだいなのよ」なんて言われてしまいます。疎外。それでめげないサンディが良いです。
 さて、サンディが用意したおねえちゃんへのプレゼントとは?
 疎外された子どもが自分の力で受け入れられていく。といっては大げさかも知れませんが、そんなことを楽しく示しています。(hico)

『いつもみているよ』(松田もとこ:作 遠藤てるよ:絵 ポプラ社 1200円 2006.02)
 ひいおじいちゃんの 死までを描いています。
 変に暗かったり、命を謳ったりしていないところが、リアル。
「死とは、かくも くるしきものとは、しらなんだ。」というセリフが良いです。
 ひいおじいちゃんの名前がどこかで出てきて欲しかったかな。(hico)

自分が冗談を言って相手が笑う、急な用事を思い出して相手が走り去る。そんなとき、私たちは驚きません。でも、急に笑ったり、走り出したりされたとき、私たちはとまどいます。それは、その反応の理由がわからない、つまりコミュニケーションが途切れてしまうからです。 とまどうより、とまどわない方が、わからないよりわかる方がいい。 本書から始まるシリーズ(『発達と障害を考える本』全十二巻)は、様々な障害を持つ子どもたちの行動を同世代が理解し、とまどわないための入門書です。最初にふしぎに見える行動を描き、次にその行動の原因や理由を解説し、最後にコミュニケーション方法の一例が示されます。 この本のいい所は、相手の不思議な行動にこちらがとまどっているだけだと思っていたら、実は相手もまたとまどっているんだってことに気づかせてくれる所。つまり、相手の側から物事を考え直してみる機会にもなる。これって、「障害を考える」以上に大事なことかもしれません。(内山登紀夫監修、ミネルヴァ書房、1800円)読売新聞(hico)

【ノンフィクション】
『発達と障害を考える本1ふしぎだね!? 自閉症のおともだち』『発達と障害を考える本 2ふしぎだね!? アスペルガー症候群のおともだち』(いずれも、内山登紀夫監修 ミネルヴァ書房 1800円 2006.03)

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