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ラ クレリエールの料理集 vol.6

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
2020年10月にスタートした連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」では、柴田の料理人人生を振り返りつつ、なぜ今ミシュラン三つ星に挑戦するのかを綴りました。そして今度は「クレリエールの料理」を切り口に料理人として、シェフあるいは経営者として、考えていることや思っていることをお伝えしたいと思っています。

今までの連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

「料理集」のバックナンバーです。
 → vol.1 第一皿(résumé) キスとジャガイモのクレープ トリュフとバニラのソース
 → vol.2 第一皿(recette) キスとジャガイモのクレープ トリュフとバニラのソース
 → vol.3 第二皿(résumé) 桃のガスパチョ
 → vol.4 第二皿(résumé) 桃のガスパチョ
 → vol.5 第三皿(résumé) 鹿モモ肉のロースト ソースポワブラード パリパリアーモンド

第3皿(recette) 鹿モモ肉のロースト ソースポワブラード パリパリアーモンド

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【材料】(2人分)
鹿モモ肉 :120g
バター : 適量
◆ソースポワブラード
バルサミコ酢 : 200g
赤ワイン酢 : 200g
砂糖(喜界島きび糖) : 20g
フォン・ド・シヴェルイユ : 800~1000g
赤ワイン : 1000g→250gまで煮詰めておく
黒コショウ(粒): 適量
ハチミツ: 適量
◆つけ合わせ① サラダメランジュ
ピンクロッサ : 適量
エンダイブ : 適量
ルッコラ : 適量
マーシュ : 適量
トレヴィス : 適量
セルフィーユ : 適量
イタリナンパセリ : 適量
ディル : 適量
マジョラム : 適量
バジル : 適量
エストラゴン : 適量
ミント : 適量
ドレッシング(適宜)
◆つけ合わせ② セロリラブのピューレ
セロリラブ : 500g
水 : 250g
牛乳 : 100g
にんにく : 8g ※芽を取り除いておく
塩(岩塩) : 0.4g
◆つけ合わせ③ ポレンタのピューレ
ポレンタ : 15g
フォンブラン : 40g
牛乳 : 40g
マスカルポーネ : 適量
パルメザンチーズ : 適量
塩: 適量

◆仕上げ用パリパリアーモンド
アーモンド(スライス) : 20g
バター : 40g
フランボワーズ : 4粒
パセリ(みじん切り) : 適量
エシャロット(みじん切り) : 適量
フランボワーズヴィネガー : 適量

【作り方】

<鹿モモ肉>
1.鹿モモ肉は、バターを絡めながら200℃のオーブンで温めるようにして肉の温度を上げていく
 ★高温のフライパンで焼くのではなく、ゆっくりと火を入れる
 ★温める前に塩などはしない
2.程よい焼き加減になったらオーブンから出し、温かいところで休ませる
<ソース>
3.鍋で砂糖を溶かし、少しキャラメリゼする
4.3にバルサミコ酢、赤ワイン酢、煮詰めた赤ワインを加えてキャラメリゼを止める
5.全体がなじんで1/4程まで煮詰まったらフォン・ド・シヴェルイユを加えて200cc分くらい水分を飛ばす
6.仕上げにハチミツを加えて照りを出し、黒コショウをムーランで挽いて味わいを整える
<つけ合わせ① サラダメランジュ>
7.野菜をすべて一口大に揃え、ドレッシングと混ぜ合わせておく
<つけ合わせ② セロリラブのピューレ>
8.セロリラブの皮をむき1.5cm角に切り揃える
9.8を鍋に入れ、水、牛乳、塩を加えて一度沸かして灰汁をとり、蓋をして20分ほど火を入れる
10.柔らかくなったらセロリラブだけを取り出してミキサーにかける
 ★ミキサーが回らないようだったら煮汁を加えてよく回す
11.10を裏ごしして氷水で冷やす
<つけ合わせ③ ポレンタのピューレ>
12.ポレンタにお湯を注いでふっくらしたら炊き上げる
13.12にフォンブラン、牛乳、マスカルポーネ、パルメザンチーズ、塩を加えて味を調える
14.付け合わせ①②③をバランスよく皿に盛りつける
<モモ肉の仕上げ 1(客席で)>
15.ココットの中で2のモモ肉を藁で焼き上げ、藁焼きの香りを移す
<モモ肉の仕上げ 2(厨房で)>
16.15のモモ肉をオーブンで温めたらカットし、14に盛りつける
 ★カットする際には筋繊維をよく見極める
<パリパリアーモンドソース>
17.鍋にバターを溶かし、塩を少々加え、アーモンドスライスを入れる
18.バターをさらに熱してブールノワゼットにもっていき、アーモンドを色づける
19.ちょうどよい色合いになったら、エシャロット、パセリ、フランボワーズを一度に加える
20.フランボワーズヴィネガーをさらに加え、香り良く仕上げる
21.熱いうちに16にかける

柴田の工夫

ルセットの中の★は、その工程でのポイントです。一般的なものもあれば、僕自身の経験の中で見出したものもあります。お料理はちょっとした工夫で仕上がりがガラッと変わったりするので、参考にしてみてください。

鹿モモ肉は脂で覆われていない部分が多く、普通に焼くと固くなってしまいます。カギはタンパク質。肉の温度がゆっくり上がっていくように火入れをすれば、肉に含まれるタンパク質が変性せず、固くなりません。だから、直火で焼かずに低温調理法を使う料理人も多いですよね。
このお料理では、僕はオーブンを使ってじっくり火を入れています。しかしそれだと、高温のフライパンや鉄板で焼いた時の表面のカリっとした食感や香ばしさ、炭火によるスモーキーな香りなどは生まれない。一口噛んだ時のカリっとした表面から現れる柔らかくジューシーな肉、鼻に抜ける肉の焼けた香ばしい香りは、ロースト料理の大きな魅力なのに・・・。肉の柔らかさとローストの魅力をなんどか両立できないか?それを実現したのが「パリパリアーモンドのお肉料理」。パリパリに仕上げたアーモンドのソースで食感と香ばしさを再現し、さらに藁を使って仕上げることでスモーキーな香りを加えました。
アーモンドのソースは、木の実をバターで炒めて焦がしバターのソースと合わせるグルノーブル風の要素も取り入れ、よりリッチで味わい深い仕上がりにしています。
フランボワーズを加えているのは、秋・冬の赤いお肉のお料理には赤いベリー系の果物が一番合うと思うからです。イチジクなども試したのですが、やはり赤いベリーとの組合せには及ばない。単体でも美味しいフワンボワーズヴィネガーとの出会いもあり、このお料理では赤いベリー=フランボワーズに決定し、実も使っています。

前編で、鹿肉をハンターさんから仕入れる時は半身で届くことがあるという話をしましたが、その場合はお店で部位ごとに切り分けます。フランスでは一頭買いして店で切り分けも当たり前でしたが、僕は渡仏前から出来ていました。教わったのはレストランモナリザに勤める前、専門学校を卒業してすぐにアルバイトをしていた池袋のフランス居酒屋でした。そこでは1ヶ月に1~2回、10数キロのランプ肉を掃除して100グラムのパックに分けるという仕事があったんです。僕は志願してその手伝いをさせてもらい、ナイフの使い方や筋の取り方を学びました。「居酒屋」といってもシェフは元ホテルの料理長で、厨房にはフランス修業経験者が何人もいるようなお店だったので、「ウサギを捌いてみたい」と言ったら本当に仕入れてくれたりもしました。専門学校にいる時からモナリザで研修したりしていた僕を、皆さん、面白がって目をかけてくださった。つくづく恵まれていたと思います。おかげでフランスでも、初めて出会うお肉であっても捌き方は見当がつきましたし、1回やればマスターできました。
いま、ラ クレリエールでは、大きいお肉が入った時は希望者に捌かせています。もちろん、いきなり一人では出来ないので僕も一緒にいますが、手取り足取りは教えません。横について、やらせてみる。自分の目と手と頭を使ってやるのが大事ですから。せっかくクレリエールで働いているのですから、できるだけ多くを学んで身に着けて欲しいと思います。

今回ご紹介した「鹿モモ肉のロースト ソースポワブラード パリパリアーモンド」は、2022年2月くらいまでお出しする予定です。機会がありましたら、ぜひ召し上がってみてください。
※仕入れの関係でご提供できない場合もございます。
 お召し上がりご希望の際は、ご予約の折にその旨をお伝えいただけると幸いです。

次回は、「雷鳥のロースト」をご紹介する予定です。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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