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100年続くレストランを目指して vol.10

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ柴田秀之が日々考えていることを綴っているnoteです。2020年10月「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」からスタートし、「クレリエールの料理」を経て、連載第3弾は「クレリエールを今から100年続くレストランにする」をテーマに食材や生産者さんとクレリエールのお話をしていきたいと思います。
★過去の連載は文末にリンクがございます。ご一読いただけたら嬉しいです。

Vol.10 6周年アニバーサリーメニューのスペシャルな一皿

来月11月22日(火)~12/14(水)の約3週間、レストラン ラ クレリエールは6周年記念のアニバーサリーメニューをお楽しみいただきます。2016年4月21日オープンなのに、なぜ周年記念を11月に行うのか?については、以前noteでお伝えした通りです。読んでいない方はこちらからご一読いただけましたら幸いです。僕の「アニバーサリーメニューに対する考え」や「レストランにとってのアニバーサリーとは」ということを突っ込んでお話しているので、その辺りにご興味がある方もぜひ読んでみてください。

今回のアニバーサリーでも6年目にお出ししたお料理の中から選りすぐった4番バッターがずらりと並びます。このnoteでご紹介した荒間鶏のエフィロシェ藤本さんの真鯛のポワレ、燕三条の青首鴨の4皿仕立てなども登場する予定です。いずれもその時にお出ししたままの形ではなく、11~12月にお出しするのにふさわしく食材や調理法を変えたりアレンジを加えた“アニバーサリーバージョン”でお届けしますので、既にお召し上がりになった方にも、また違ったお楽しみがあると思います。ご提供が終わった後にnoteや僕のInstagramでご覧になり興味を持ってくださった方は、ぜひこの機会にご来店いただきたいと思います。

今回のnoteでは、久しぶりに以前の【料理集】に寄せてお料理をガッツリご紹介したいと思います。取り上げるのは「ヒグマのコンソメ」。6周年アニバーサリーだけでお出しするスペシャルな一皿です。

実は「ヒグマのコンソメ」というお料理自体は今もオンメニューしています。が、アニバーサリーではコンソメを貴重な「ヒグマの手」からとります!もともと熊は入手が難しい食材な上に「手」は1頭に4個だけ。その内2個をクレリエールに入れていただけることになったのです。今のコンソメも、召し上がったお客様が驚かれるほどキレイな味わいで大変ご好評をいただいていますが、「手」を使うことで良い意味でよりいっそう“熊らしさ”が感じられる仕上がりになるだろうと思っています。

「フレンチでも熊を食べるんだ!」と思った方がいらっしゃるかもしれませんね。恐らく、いわゆる“レストランの料理”では滅多にないと思います。レストラン モナリザでもル・グラン・ヴェフールなどフランスで修業したお店でも熊がオンメニューしたことはありませんでした。当然、僕自身、熊肉を見たことも触ったこともなく、フランス料理として食べたこともありませんでした。だから「ヒグマのコンソメ」はイチから自分で考えて、作り上げました。それが出来たのも、6年目の日々で積み重ねた出会いや経験があったからこそ。食材の希少さに加えて、そういった意味でも“スペシャル”な一皿なのです。

クレリエールのオープン以降、僕は自身やお店が成長するために毎年テーマを決めるようにしていて、6年目の今年は「移動距離を延ばす」。今までは消極的だった産地訪問をしたり、食材でお付き合いのある方を訪ねたり、食に関連したプロジェクトに参加したり・・・。先月は皆さんご存じの通り香川県のオキオリーブさんと一緒にイベント開催に挑戦しました。寝る時間以外は厨房で料理を作っていたい僕としては画期的なことです!そうして動き挑戦する中で、信頼できる北海道のハンターさんやお肉の解体業者さんとのルートが確立できました。

良質な熊肉を手に入れるには、しっかりした入手ルートが不可欠です。熊は個体数が少ない上に、一発で仕留め損なえば命の危険に繋がる、まさに命がけの猟。挑む人も限られてきます。一方で熊肉はフレンチ以外では人気食材なので、腕の良いハンターさんが獲った熊ほど行き先が決まっていることが殆どです。先ほど「熊肉を扱ったことがなかった」と言いましたが、興味はずっと持っていたので、一度だけ、業者さんからスポット的に入ったと聞いて仕入れたことが過去にありました。今思うと、あまり状態の良いお肉ではなかったのでしょう。とんでもなく硬くてクレリエールのお客様に満足いただけるお料理に仕上げるのは無理だと諦めていたのでした。しかし、今回はその点はもう確実なルートが確立できているので安心です。

熊肉は赤身で味わいが濃いのが特長です。最初はロースやモモなど一番柔らかい部位をローストでお出ししようと考えていました。しかしコスト的にコース料金+15,000円くらいいただかないと営業的に成り立たない。感謝の気持ちを伝えるアニバーサリーにそれはどうかと思うし、せっかくの機会なので全てのお客様に召し上がっていただきたいと考え、柔らかい部位じゃなくても美味しく食べられるお料理にしようと決めました。まず、煮込み料理を試したところ、非常に美味しく仕上がりました!けれど「アナグマでも良いのでは?」という味。「ヒグマだからこそ成立する料理」にしないと意味がないですし、食材にも申し訳ない。あれこれ試す中で思い出したのが、マタギ料理の熊肉のしゃぶしゃぶ。食べていたのがどんぐりか栗かの違いが分かるほど繊細に熊肉の美味しさを楽しめる料理だという話でした。さらに、なぜ熊鍋が人気なのかを考えて、出汁の美味しさに思い当たり、「コンソメ」と決めました。そして赤身肉といえば牛肉ということで、「牛肉と牡蠣のタルタル」から着想して牡蠣と合わせることにしました。

さあ、これでお料理の骨格は決まりました。硬いお肉を美味しく食べさせる調理は、筋繊維の扱い、スライスの仕方、火入れの仕方、やっても大丈夫なこととダメなこと等々、荒間鶏での経験が生きました。そしてnoteではまだお話していませんが、この半年ほど石川県の味噌蔵の米麹でいろいろ試していて、今回の熊肉もフザンタージュではなく米麹でマリネすることで香りや柔らかさ、うま味を高めています。(この記事のトップの写真が米麹でマリネ中の熊肉です。)あと、最後に加えるエゾ松のオイルは今年北海道に帰省した時に思いつきました。エゾ松の青みの奥に微かに柑橘系が感じられる香りが合うだろうという発想は、noteでもご紹介した雷鳥のお料理での経験から出たものです。ほら、6年目のあれこれが詰まっているでしょう?

最後に簡単にレシピをご紹介しますね。こんなようなお料理かな?と想像しながら読んでみてください。

【材料】

下ごしらえしたヒグマのモモ肉:21g(7gのスライス×3枚)
真ガキ:1/4個
強力粉:適量
おかわかめ:大きめのもの1枚
塩:適量
ヒグマのコンソメ:50cc
エゾ松のオイル:適量
ヒグマの赤ワイン風味のブイヨン:適量

【作り方】

<ヒグマのモモ肉の下ごしらえ>
1.ヒグマのモモ肉は300gくらいに捌いて塩をして2日間寝かせる
2.1,を赤ワインに1日漬け込んだ後、3日間ほど乾燥させる
※乾燥させながら都度トリミングする
3.2.に米麹で包み48時間寝かせる
<調理>
4.3.の米麹を落としてスライスし、ヒグマのブイヨンでしゃぶしゃぶのようにさっと火を入れる
5.真ガキは強力粉をつけてポワレする
6.おかわかめは塩ゆでする
7.ヒグマの骨、筋、乾燥中にトリミングした肉などでコンソメを作り、ヒグマの赤ワイン風味のブイヨンを加えて味を調える
8.器に4.5.6を盛り、7.を注いだ後、エゾ松のオイルで香りづけする

読んでも味が想像できない!という方、ぜひ実際に召し上がってみてください。
皆さまと一緒にアニバーサリーをお祝いできたら嬉しいです。
スタッフ一同、皆さまのお越しを心よりお待ちしております。

◆レストラン ラ クレリエール 6周年アニバーサリー◆

ご提供期間:11月22日(火)~12/14(水)
ご提供メニュー:アミューズ~デザートまで全11皿(予定)
ご提供価格:お一人様26,000円(税サ別)

※すでに満席をいただいている日もありますので、早目のご予約をお勧めします。

★過去の連載はコチラからご覧ください。

最初の連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ

 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

2つ目の連載「料理集」はコチラからどうぞ

 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第六皿~第十皿)」

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

お店の公式Facebook、youtubeチャンネルもご覧ください。



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