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【MMPI研究5.1】最新の基礎的な尺度 再構成臨床(Restructured Clinical/RC)尺度~①RC尺度開発まで
「MMPIでMMPI-2を使う」ことを目指して学んでいます。「MMPI2(by1)」計画と呼んでます。その学びの一端をシェアしたいと思います。本ノートはMMPIヘビーユーザー向けです。
特に今回は、MMPI-3にも引き継がれる再構成臨床(Restructured Clinical/RC)尺度です。すべてMMPI-2トレーニングスライドに基づいています。一度、別なノートでも示しています。今回はそこにコメントを添えます。
イントロダクション
・9のRC尺度は新しい一連の尺度を構成し、以下が含まれる
―「士気喪失」(※1)の測定
―8つの尺度は臨床尺度の弁別的な中核的特徴を表す
・臨床尺度と関連はするが、異なる別なものである。
―RC尺度は重複していない(9つの尺度間で共有項目がない)
なぜ臨床尺度を再構築するのか?
• 臨床尺度の強み:
―経験的キーイング (※2)
―広範な経験的妥当性
―広範な実践的経験
• 臨床尺度の疑問:
―尺度の内的相関が思ったより高い
―広範に項目が重複する
―疑問のある“隠蔽”項目
―収束的妥当性と弁別的妥当性の問題 (※3)
―理論の欠如
MMPI-2の批判
・項目の重複と、臨床尺度の共有分散shared variance
―複合的な尺度上昇を引き起こし、強度な精神病理が顕著な状況では、特に弁別的妥当性が弱められる(※4)
・臨床尺度の因子分析により、さまざまな理由で大きな第一因子first facterが明らかになった。
―黙認または社会的望ましさ
―ウォルシュの第一因子、“全般的な苦悩”または “全般的な不適応”
・共有している要素は、経験的な尺度構成をすることによって生まれた人工的な産物である(※5)
RCスケールの開発
RC尺度構成の手順:
1、“士気喪失”をとらえる
2、臨床尺度の弁別的な“コア”成分を定める。
3、弁別的なコア成分の核(seed)尺度を構成する。
4、最終的なRC尺度を抽出する。
ページ1~3
(※1)「士気喪失」
士気喪失demoralizationはRC尺度の根幹。(どうやらMMPIでいうWelshのAが源流のよう。くわしくはここ)。ききなれませんが、独自の概念というよりもすでに出典があります。
Demoralizationとは,士気 (morale) の低下を意味する言葉で,1970年頃の米国において精神医学の術語となった.精神療法家Frank JDの定義1)によれば,ストレスの対処に失敗し続けた結果,無力感,孤立感,絶望感,自尊感情の低下,人生が無意味に思えてしまう感覚が生じた心理状態のことである.自分の力ではどうすることもできず,自己統御感を失って,絶望する.これは了解可能な反応であり,必ずしも病的な心理状態とはいえない.正常からひと連なりのディメンジョンにあると考えてよいが,demoralizationを症状としてDSM-5に基づいて記述すれば,大うつ病性障害や適応障害などの診断がつくことが多い
APA辞典にものっているので、MMPIに特化したものでもないようです。診断概念ではなく、つまり病理ってほどでもないけれど、その準備状態で重要なもの、でしょうか。
(※2)経験的キーイング
原文はEmpirical Keying。おそらくEmprical Criteria Keyingと同じようなことを指すのでしょう。これもAPA辞書はあります。おそらくMMPIの基本的な尺度作成のやり方で、たとえばうつ病の人をあつめて、ほかのグループの人とわけるために、うつ病の人が答えた項目を「第2尺度:抑うつ」となづけた、といったやり方、だと思います。
この、MMPIの「経験的」手法はMMPI~MMPI-2の基礎にはなっていました。経験的手法のために内容的には一見して「うつ?」ってわからない項目が入り込んだわけです。
MMPIでいうと「第2尺度」の「(項目3)物音で目を覚ましやすい」「(項目130)血を吐いたり、咳をして値が出たことはない」「(項目193)ぜんそくや花粉症の気はない」にあてはまると回答すると抑うつが強い(第2尺度が高くなる)のです。
つまり
一見すると抑うつとは直接関係ない文章であり、理屈をつけようと思えば種々考えられるだろうが、とにかく抑うつ尺度の構成項目となっている。このような項目は「隠蔽項目」といわれる
日本臨床MMPI研究会監修(2011)
MMPI-2って、経験的には実践的にはつかえるんだけれど、経験的なやり方だと、隠蔽項目って問題、基礎尺度で項目重なってる(第2尺度は抑うつ、第7尺度不安なのに同じ項目がある)のも問題。これらが見直されて、RCスケールにいたるわけです。
ぼくは、この隠蔽項目、結構使えるので使っています。隠蔽項目を使った過剰報告・過少報告をみるGreeneの方法も好んでいます。使い勝手悪くないと思ってはいます。でも、きたるMMPIー3になると喪失するポイントでしょう。
(ちなみに、隠蔽は原文Subtle。別に”かくして”るわけじゃないから、隠蔽じゃないほうがわかりやすいとおもう。でもまあたしかにかくれてるヤツだ)
(※3)収束的妥当性、弁別的妥当性
おさらいおさらい。ぼくはすぐにはわからなかった。
・収束的妥当性:
理論的に同じ構成概念を測定していると考えられる別の検査との相関で示される妥当性。
相関係数が高いほど妥当性が高い。
・弁別的妥当性:
別の構成概念を測定していると考えられる検査との相関で示される妥当性。
相関が低いほど妥当性が高い。
ここから推測されるのは、ほかの検査とあんまり相関しなかったという研究があったのかもしれません。MMPI使えるのに、ほかの尺度とくいちがうよ?どういうこと?なんてことが。
(※4)(※5)「MMPIー2の批判」
この一説が十分にはわかっていません。(※4)っておそらく「強度な精神病理が顕著な状況」って、臨床尺度がいろいろダダ上がりしてて、あっちもこっちも高得点ってなってること、なんでしょう。確かにそういうことってあります。そうなると「弁別的妥当性が弱め」・・・なんかよくわかりませんが、項目かさなってるんで、病理高いと「尺度はあっちもこっちもダダ上がり」状態になっちゃって、そうなると無駄に上がっちゃった尺度とかもでてきちゃって、それって妥当性ないよね、と理解しています。
特に(※5)の一文がよくわからないです。
原文が
The shared factor is an artifact of empirical scale construction.
今とらえているのは、こんなニュアンス。shared factorは、同項目にある「共有分散」(これもよくわからないのだけれど)と同じようなことで、MMPIの項目が重なったり、意味が重なったりしている要素がうみだす「共有した」要素。それはempirical scale construction→empirical keyingとおなじようにとらえていて、MMPIならではの尺度の作り方。うつ病群の人たちが答えてた項目を「うつ尺度」として、ほかの群とわけられるから内容はさておきつくった、というやり方。そういう「経験的手法」でやっちゃった場合にできあがった(自然なもの、じゃない)人工的産物artifact、捏造しちゃったようなもの、ということかなあ。
今まで「経験上よかったなあ、つかえたよなあ。しかも尺度づくりの基本に合ったやり方から結果的に生まれたんだぜ」という要素が解体されます。そして新たなものに構成していったのがRCです。特に今まで使っていた隠蔽項目という発想はもう使えなくなるのでしょう。ユーザーだったんで残念。隠蔽項目がある、尺度重なり合う、いわばざっくりしたゆるやかな尺度、というのが実は魅力だったのかもしれません。井出先生はよく人間味のある泥臭い尺度、と書かれていました。そうなんだよなあ。
それでも今後のMMPIー3に期待します。「あたらしく、よりよい研究に」のっとったものを、ぼくらのみならず被験者が求めている、と思うのです。