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【牛田くんとの往復書簡】(五通目)|ハンターハンター的成長観と、場に対するコミュニケーションスタンス


牛田くんからいただいたお返事(四通目)はこちらから読めます。


牛田くん、こんにちは。得津です。

ついついお返事が遅くなってしまうのは、ぼくも同じです。お返事を読んだ瞬間は「ババーン!」と刺激を受けるので、その勢いですぐにお返事を書こうと思うのですが、そうそう上手くはいきませんね。

お返事をいただいてから、一ヶ月近くもお待たせしてしまい、なんと今日は牛田くんの誕生日。お誕生日おめでとうございます!


さて、牛田くんの先輩、「シゲくん」と「品川さん」について大変興味深く読ませていただきました。初めて聞く話でしたので、とても新鮮でした。子ども達にとっても、牛田くんにとっても、いい先輩だったことが伝わってきました。

この往復書簡は、子ども達とのより良い関わりを探るだけでなく、関わり方の伝達までを視野に入れたやり取りです。どうして牛田くんが「シゲくん」と「品川さん」をお手本として選んだのか。その理由が、伝達の方法について考えるヒントになりそうな気がしてます。

他の先輩やメンバーよりも際立つものがあったのか、あるいは共に過ごす時間が長かったからなのか。はたまた二人から怒られた経験があったからなのか。興味はつきません。

よければ、また教えてください。

そうそう。お手紙に描いてくれた一人神経衰弱のことですけれど、あれは完全にわざとです。神経衰弱を選んだのも、一人でやたら楽しそうにしていたのも、全てわざとです。いや、「わざと」なんて言い方だと演技っぽいですね。楽しんでいたのは本当なので、戦法くらいにしておきましょうか。戦法です。


あの日、ぼくは一人神経衰弱をするまで、フリースクールにいた生徒のうち、一人だけ関われずにいました。常日頃から、その場にいる全員と関わりを持ちたいと思っている自分です。

お昼ご飯を食べながら、あの時の人の配置、さようならまでの残り時間、まだ関われていなかった生徒の興味を勘案し、神経衰弱を一人でやることを選びました。結果、生徒とも楽しく遊べたので戦法がハマりました。



得津的「人を動かす4原理」


この、一人神経衰弱戦法は、ぼく個人が勝手に考えた「人を動かす4原理」の「面白さドライブ」にあたります。

なんのこっちゃと思われるでしょう。急に耳慣れないワードを出してきて。ぼくが考えた「人を動かす4原理」についてご説明しますね。


まず、ぼくらのような仕事って、子どもだけじゃなく、保護者さんの悩み相談も仕事の1つになってくるじゃないですか。

例えば、「どうしたら学校に行ってくれるんでしょう?」とか、「どうしたら子どもは私の言うことを聞いてくれるんでしょう?」のような、親の言うことを聞かせたいけど方法がわからないという趣旨の悩み相談を受けることも珍しくありません。

(誤解のないように先にお伝えしておきますが、ぼくはこの手の悩みがあることを悪いことだとは思いません。それほどに当人にとって、不登校が差し迫ったことでしょうし、たまたまぼくは不登校シーンでこの手の悩みを聞いてるだけで、ビジネスシーンでも「上司が部下の言うことを聞かない」というような、似たような悩みごとはいくらでもあると思っています。)


この手の相談は答えるのが非常にデリケートで、いつも答えに窮するのです。一つ決めていることとして、「○○と言えばいいです」みたいな安易なアドバイスはしないようにしています。

言い方や方法の問題ではなく、マインドセットの問題であることの方が往々にしてあるからです。(一方、言い方一つでガラッと変わるケースもなくはないので、マインドセットの問題と言い切るのも、また難しいのです。)


自分の望むように動いてもらう言い方や方法について相談を受けても、アドバイスはしないけれど、その方法について個人的な興味関心はあります。

「そんな夢のような、そしてなんとも暴力的な方法があるのだろうか。あるとしたらどんなものだろうか?」

そんな問いから出発し、世に見られる、人を動かすための方法について考えてみると、自分の中で4つに整理されました。それが得津的「人を動かす4原理」です。

・正論マウント
・共感ベースド
・面白さドライブ
・困りごとコネクト


牛田くんが、この4原理について興味を持ってくれるのか分からないですが、一応少しだけ解説しますね。

・正論マウント
正論で相手を動かす極めてシンプルな方法です。
「このまま虫歯をほったらかしにしてたら、もっとひどくなるよ!」
「勉強サボってたら偏差値落ちるよ!」
などなど。

正しいが故に相手から反発されることも珍しくありません。おそらく一番自然に選ばれている方法であり、一番争いのタネになりやすい方法でもあるでしょう。


・共感ベースド
相手への共感な傾聴を下敷きにした方法です。
「うんうん、わかるよ。しんどかったね。」
「私にもそういうことがあったなー。」
などなど。傾聴に努め、最後の方でやんわりアドバイスを伝えます。もちろん、主語を明確にしたアイメッセージで。(「私はAがいいと思うよ」のような言い方)


・面白さドライブ
させたいことに対して、まず自分がそこに没頭する方法です。
神経衰弱しかり、勉強しかり、なんでもまずは自分がやってみて楽しむ姿を見せる。

面白いことは自然と人が寄ってくるという考えをベースにした方法です。相手に刺さらない場合もあります。相手の関心からあまりにも離れたことをさせたい場合、めげない粘り強さが求められるかも知れません。


・困りごとコネクト
これは自分が、「a,困りごとがある人」と「b,困りごとを解決できる人」をつなげる役割をするイメージです。

例えば、ゲームで上手くいかなくてイラついている人がいたら、自分が関わるのではなくて、そのゲームを得意な人に「あの子、困っているみたいだしゲームのことを教えてあげて」といって手助けをしてもらいます。

これが上手くいくと関係が育ち、お互いに困りごとをサポートしあえる可能性も十分にあります。人って不思議なもので、自分の困りごとや悩みについて動きだすには時間がかかるけれど、人の困りごとや悩みを解決するためにはスッと動けるときがあります。この習性を使った方法が困りごとコネクトです。

個人的には、民生委員さんや社会福祉協議会の職員さんなど、福祉畑のベテランの人は困りごとコネクトがめちゃくちゃ上手なイメージがあります。


これら4つの方法について、牛田くんにお話しするのは初めてのことですから、何か分からないことがあればいつでも聞いてくださいね。


さて、これまでは子ども達と関わる方法について、お互いがお互いの上手だと思うところを取り上げ、そのノウハウを分解してみることにチャレンジしてきました。

このチャレンジをこのまま続けてもよいのですが、もう少し大きな枠組みでこれまでの方法を整理し、ぼくたちが得意とする方法が苦手な人にとっても、子ども達の関わりについて自己研鑽できるような道筋を立てていきたいというのが、今回ぼくがお伝えしたいことです。


ということで、ここからが本題です(笑)。

どうぞお付き合いください。


場に対するコミュニケーションスタンス


牛田くんからのお手紙(四通目)の中に、このような一文がありました。

後で、僕の話の師匠についてで触れますが、僕は得津さんと逆で「受信側」なんですよ。(強調は得津が入れました)


子ども達との関わり方について話を進めていた中で出てきた、「受信側」という言葉。この言葉にとても考えさせられました。ノウハウではなく、初めてスタンスについて書かれていたからです。

言われたら当たり前なんですが、見逃していました。スタンスが違うと、方法も違ってきますよね。ぼくが先ほど、ノウハウではなくもう少し大きな枠組みで子ども達との関わり方を整理したいとご提案したのも、牛田くんからスタンスについてのご意見をもらったからです。


子ども達との関わりにおける、自分オリジナルなスタンスの分類をチラッと考えてみたのですが、上手くいきませんでした。

ですから、少しアカデミックに『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション(安斎勇樹・塩瀬隆之 著)』に書かれている「場に対するコミュニケーションスタンス」を牛田くんとの対話のベースにさせてください。


場に対するコミュニケーションスタンスについて、本では次のように書かれています。

 ファシリテーターと一口にいっても、よく喋る人もいれば、ほとんどしゃべらない人もいます。まず参加者の日常の悩みを聞くところから始める人もいれば、自ら口火を切って非日常の世界へ誘っていく人もいます。論理的な整理を好む人もいれば、場の感情を第一に進行する人もいるでしょう。
 これらは、場に対するコミュニケーションスタンスの違いです。ファシリテーターのコミュニケーションスタンスの違いは、図8の2軸のマトリクスで整理可能です。
 縦軸は、「参加者に対して自ら働きかけ、触発しながら信仰していくタイプ」か、「参加者の意見や対話に耳を傾け、それを共感的に受け止めながら進行していくタイプ」かを表しています。
 横軸は、「場に関わる際に論理的なコミュニケーションを重視するタイプ」か、「場に関わる際に感情的なコミュニケーションを重視するタイプ」かを表しています。
(『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション(安斎勇樹・塩瀬隆之 著)』より抜粋)


で、図8に書かれているのが、これです。

コミュニケーションスタンスとノウハウの分類.001


それぞれのタイプの特徴も以下のように整理されており、合わせて引用しますね。

1、触発 × 感情タイプ
参加者の内発的動機を刺激する提案をし、活動へと誘っていくタイプ

2、触発 × 論理タイプ
場に対して説得的な切り口や枠組みを提案し、思考を刺激するタイプ

3、共感 × 論理タイプ
参加者が話していることを客観的に受けとめ、思考を整理するタイプ

4、共感 × 感情タイプ
参加者の本音に耳を傾け、共感しながら対話の場をつくっていくタイプ

(『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション(安斎勇樹・塩瀬隆之 著)』より抜粋)


この分類に則ると、ぼくは「1、触発 × 感情タイプ」だと思います。ただ、場合によっては、「2、触発 × 論理タイプ」的な関わりをしたり、「3、共感 × 論理タイプ」的な関わりをすることもあります。


コミュニケーションスタンスとノウハウの分類.002


本にも書かれていますが、はっきりとどこかのタイプに当てはまる人もいれば、そうじゃない人だっています。ですので、ぼくは自分自身のことを、「1が強めで、2の部分もあり、たまに3」だと思っているのですが、果たして牛田くんからはどう見えているんでしょう。


コミュニケーションスタンスとノウハウの分類.003


ぼくから見ると、牛田くんは「3、共感 × 論理タイプ」です。

余談ですが、ぼくらの代表は「2、触発 × 論理タイプ」だと思っています。「4、共感 × 感情タイプ」の人は誰だろうと考えてみたんですが、ぼくらの共通の知人のからは浮かばなかったんですよね。おそらく臨床心理士や社会福祉士じゃないかなと予想するのですが。


これまでのノウハウをスタンスに基づいて分類してみる


この、場に対するコミュニケーションスタンスの分類。スタンスだけじゃなく、これまでぼくたちが意見を交わしてきたノウハウもタイプに応じた分類ができるのではないかと思いました。自分なりに分類し、まとめたものをご紹介しますね。


コミュニケーションスタンスとノウハウの分類.004


場に対するコミュニケーションスタンスと、それぞれのタイプが得意とする関わり方を分類することで自分としては随分と見晴らしがよくなりました。

自分がどのタイプか分かれば、スキルアップのために何から取り組んでいけばいいか見通しが立つはずです。


フリースクールや学童のような地域で子ども達と関わり始めたばかりの人(この書簡で想定しているノウハウ伝達の対象者)にとっても、分かりやすいとよいのですが。

具体的な例はまだまだ少ないので、研修や後進の育成で活用していくためにも、ノウハウの蓄積はこれからどんどんしていきたいところです。

最後に、スキルアップの道筋について自分の考えを述べ、残りの1往復と少しくらいで共に考えていきたい問いを投げかけて終わりますね。


ノウハウの習得は『HUNTER×HUNTER』と同じ。「理想は山型」


『HUNTER×HUNTER』という漫画があります。漫画好きの牛田くんには説明は不要でしょうけれど、簡単にあらすじと設定だけ説明しますね。


ある日、主人公の少年(ゴン)は、父を探すためにハンターをめざす旅に出ます。ハンターになる道は険しく、その道程でゴンは念能力という、この漫画における必殺技や特殊スキルの存在を知ります。

念能力は6つに分かれています。

・強化系
・変化系
・具現化系
・放出系
・操作系
・特質系

生まれつき人によって自分の系統が違っていて、作中でゴンは強化系だと教えてもらいます。当然、自分の系統に合わせた修行を進めるのですが、ここで念能力の師匠(ビスケ)から釘を刺されます。「理想や山型」だと。

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スキルアップの順序ですが、HUNTER×HUNTERの「理想や山型」をそのまま踏襲するのがいいと思っています。


スキルアップの手順としては

1、自分のコミュニケーションスタンスを知る

2、そのスタンスに当てはまるノウハウを磨く

3、自分のスタンスの隣にあるノウハウを少しずつ磨く


大まかには、こんな感じでしょうか。

スキルアップについてさらに言うなら、自分のタイプと対角線上にあるタイプをめざすのはやめた方がいいとも思っています。

HUNTER×HUNTERでは、生まれつきの系統ではない念能力を無理矢理に開発したキャラクターがあっけなく負けるシーンが描かれていました。

『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション(安斎勇樹・塩瀬隆之 著)』では、自分のタイプと真逆のタイプに憧れて失敗することがあると書かれていました。

苦手なことに取り組むのはよくないのでしょうね、やっぱり。



随分と長くお付き合いいただき、ありがとうございました。読み疲れたのではないかと心配しています。

牛田くんとのやり取りを通して、これまでバラバラに挙げてきた子ども達と関わるノウハウを、場のコミュニケーションスタンスに基づいてまとめることができました。新しい知見が生まれたことを嬉しく思っています。


ここまで述べてきた自分の考えに対する牛田くんの意見も、もちろん聞きたいのですが、最初にお尋ねしたように先輩二人をお手本として選んだ理由を聞いてみたいです。

それともう1つお伺いしたいことがあります。

今回ぼくが作った表はどんな場面で生かせばいいのでしょう?(はたまた生かせるのでしょうか?)


例えば、ぼくたちのフリースクールに関わってくれるボランティアさんに見せるとしても、どんな状況の人だと効果を最大に発揮するのかが気になってしまうんですよね。きっとこれはぼくの悪いクセです。

最大に発揮するとか、そんなこと考えずにとにかく誰にでも紹介するのも1つだと思ってはいますが。。。


牛田くんとの往復書簡もそろそろ後半戦に入ってきました。

お返事は急ぎません、お互いゆっくり考える機会にしましょう。でも、バースデープレゼントに送ったボードゲームの感想は早く聞きたいので、ぜひ早くプレイしてくださいね(笑)。そして早くルールを覚えてもらって、ぼくでも遊べるように説明してください。待っています!

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