大学生ボランティアさんから、フリースクールで働く意義・やりがいについてのインタビューを受けました
私が経営するフリースクールで日頃お手伝いをしてくれている大学生ボランティアさんから、大学の授業の一環でインタビューの協力を頼まれました。
いつも手伝ってくれているので、喜んでお引き受けしました。インタビューで答えたことをまとめてこちらにも掲載します。
大学生ボランティアさんと同じようなことを考えておられる方々の参考になれば幸いです。
①どんな職業ですか
どんな職業かと言われると難しいですね。事前に質問をいただいていたので、インタビュー前に職業一覧をGoogleで検索して調べてみたのですが、どれもあまりピンとこなかったんです。教師や社会福祉士のような資格が必要な仕事でもないですし。
一応、教育業になると思います。はっきりしない返事になってしまうのは、私たちは教育や福祉の間のような領域で仕事をしているので、自分達を「こういう職業です」とはっきり言い切ることが難しいんです。
いくつか理由があるので、今からご説明しますね。
これまで、NPO法人について授業を受けることはありましたか。日本にはいろんなジャンルのNPO法人がありますが、どのジャンルでも、行政や私企業がおこなう既存のサービスでは解決できない社会課題の解決をめざすのがNPO法人の意義です。
このような社会課題はニッチな領域になります。ニーズがあっても少人数だとか、ニーズはあっても儲けにならないとか、そんな領域です。
少し話は飛びますが、私が勤めるNPO法人D.Liveは2009年に学生団体からスタートしました。2012年に法人化し、今年で10年になります。
今は不登校に悩むご家庭の支援が仕事の中心ですが、初めから不登校支援をしていたわけじゃありません。子ども達の自尊感情を育み、どんなときも前向きになれる社会を作ることを理念に据え、いくつかの事業をしてきました。
私は副代表として団体の立ち上げから携わっています。立ち上げ当時は、子どもの自尊感情を育むことに注力した団体や法人はほとんどありませんでした。ほとんど無いということは、儲けるのは難しい、活動を継続するのは難しいという意味です。
だからこそ、この社会課題の解決に向けてチャレンジしたいと考え、代表の田中と共に団体を立ち上げました。さまざまな先行調査や研究から、日本の子どもの自尊感情が低いことと、自尊感情低下と関連する諸問題が指摘され続けているのに、具体的なアクションを起こしている団体が当時は少なかったからです。
学生団体からのスタートなので、当然ながら資本なんてありません。資本も、コネも、経験も、何も無い中からのスタートでした。
だから、ほとんどのことを自分達でしてきました。事業内容の策定、webページの作成、マーケティング、法人登記、子どもが安心して過ごせる居場所づくりの在り方や方法の決定、などなど。
ニッチな社会課題を解決する事業づくりのために、なんでも手探りでやってきました。今でも複数の業務を担当していますので、webクリエイターとか、心理カウンセラーとか、ミュージシャンのように1つの肩書きで自分を定義できないんです。これがはっきりと職業を答えられない理由です。
勉強だけ教えるなら「塾講師」と言えたかもしれませんし、心理相談を専門にするなら「心理相談員」と言えたかもしれませんが、子どもの支援ひとつとっても、いくつかの役割をこなすのではっきり言えないんです。機能としては、スナックのママが一番近い気がします。
ただ、求人情報からエントリーして採用された方ですと、NPO法人にお勤めでも、職業や肩書きをハッキリ答えられると思いますよ。
もう1つ理由があるとすれば、キッパリ教育業だと定義してしまうと、本来は出会えたはずの子ども達と出会えなくなる気がするんですよね。
例えば、私たちが経営しているフリースクールにしても、塾のように解釈されたり、学校と同じに思われたりすることがあります。他方、何も定義しないでいると、逆に怪しまれたり、誰のためのサービスなのか分からなくなったりするので、どのようなメッセージを発信していくかは悩ましいところです。
②仕事の内容はどう言ったものですか
法人の主な事業は先ほど説明したとおりです。私が担っている業務で言いますと、フリースクールの経営、ひとり親家庭の居場所作り事業(草津市からの委託事業です)、ファンドレイジングがメインです。他にも細かいものはいくつかあるのですが、大体こんな感じです。ファンドレイジングとは、団体への寄付や支援者・理解者を募る業務のことです。
フリースクールでは、子ども達と一緒に遊んだり勉強したり、進路などの相談にのったりしています。ひとり親家庭の居場所作り事業も、フリースクールと似たような感じです。どちらの事業でも子ども達とのびのび楽しく過ごしています。
③なぜこの仕事をしようと思ったのですか
2009年に学生団体としてD.Liveをスタートしたころから、子どもの自信を育み、前向きなれる社会を作りたいと考えていました。けれど、先ほども言ったように、資本も、コネも、経験もなかったので、4年間小学校の教員をしていました。教員をしている間、D.Liveには仕事が休みの日に関わっていました。
もちろん教員は素晴らしい仕事です。でも、勤務年数を重ねるごとに、公教育だけでは救えない子ども達にアプローチしたい気持ちが強くなって、教員を辞め、2014年から専従スタッフになりました。
学校に通っている子にも、いろんな子がいるんですよ。2018年に日本財団が不登校傾向にある子ども達の実態調査をしました。その調査によると、学校には通っているけれど、学校が楽しくない・辛いと思っている子どもが、不登校の子どもの3倍以上いることが明らかになりました。
この例のように、学校に通っていたらOKとは言えない状況が学校現場にあります。この状況を改善するには学校だけではどうしようもありません。学校も非常に疲弊しています。だから、NPOという立場から力を発揮したいと考えました。
④いつからこの仕事についてますか
先ほどお答えしたとおりです。
⑤働く上で意識していることや大切なことはありますか
そうですね。パッと浮かぶのは4つですかね。常に学び続けること、できるだけご機嫌でいること、相手の関心に関心を持つこと、準備をすること、ですね。
まず、常に学び続けることからお話しします。社会人になって10年以上経ちましたが、どれだけ年数が経っても、初めて悩むことや初めて出会うケースばかりです。学び続けないと対応できないんですよね。30歳ごろから、経験や書籍だけから学ぶことに限界を感じて、昨年は公認心理師の資格取得をゴールに数ヶ月間オンラインで講習を受けました。
2つめは、できるだけご機嫌でいることです。子ども達と関わる仕事ですから、いつでも楽しくしていたいです。週1回の楽しみとしてフリースクールにきてくれる子どももいます。そんな子どもを前に、不機嫌でいたり、疲れた顔を見せるのはしたくないので、空元気でもご機嫌でいるように心がけています。
3つめの、相手の関心に関心を持つことですが、これはボランティアさんたちにもお願いしていることです。子ども達の関心ごとの変化に目をむけ、どんなサポートが必要なのか、どんな関わり方が今は合っているのか、常にアンテナを張り巡らせて、質の高い支援ができるように心がけています。
最後は、準備についてですね。これは、教員一年目のときに先輩に教えてもらったんですよ。「いいか得津、授業は準備が8割だぞ。準備で決まる」と。本当に先輩の言うとおりだと思います。授業に限らず、なんでも下準備が大事だと思います。ただ遊ぶだけにしても、準備の有る無しで全然質が違うんですよ。会話の質、関係性の質、そういう目には見えない、数値で評価できないものの質が大きく変わります。
だから、準備不足で子ども達と過ごした日は、一人でこっそり反省したりしています。あぁ、もうちょっといろんなことできたのになぁって。
抽象的でしたかね。あくまで、これは自分にとって大切なことなので、他の大人の意見もぜひ参考にしてほしいです。
学生がこれから働く上で大切なことは何か?という視点だと、次のようなことができれば、どこでもやっていけると思います。
素直でいること、愛される後輩になる術を身につけること、人を見る目を養うこと、自分の手持ちの知識や価値観を括弧(かっこ)に入れて考えられること、メモをとること、約束を守ること。これらができれば、どこでも十二分にやっていけると思いますよ。
⑥どんな時にやりがいを感じますか
「やりがい」って言い換えれば、「よし、頑張ろう」と思えるきっかけのことですよね。先日、ある卒業生の保護者さんからヘルプのメールをもらったんですよ。そのときに、「よし、頑張ろう」と思えました。
その方からは本当に久しぶりの連絡でした。その事実だけで、連絡の前に逡巡したことや、おそらく頼れる先が全然なくて私たちに連絡したであろうことが、文面に書かれていなくても想像できました。
人って、自分自身のためにはそこまで頑張れません。誰かのために頑張ろうとするときに、120%の力が発揮されると私は考えています。『鬼滅の刃』の炭治郎も、『ハイキュー!!』の影山もそうですよね。自分以外の誰かや、集団のために力を尽くすときに、自分の限界を超えたパフォーマンスを発揮します。
そういう意味では、私は今回のケースのような、「助けてください」と連絡をもらったときに、「よし、頑張ろう」と思えます。表彰されたり、誰かから褒められたり、仕事の成果が出たり、もちろんこういう時は嬉しいです。嬉しいというよりも、「ホッとする」の方が正確かもしれません。「自分のしたことは間違ってなかったな」と安心できます。でも、「よし、頑張ろう」とはあんまり思えない。ホッと安心することの方が大きいので。
大事なことを言い忘れていました。大前提として、このような「やりがい」を仕事の中心には据えていません。近年の就活シーンでは、「やりがいの感じられる仕事を!」だとか、「働きがいのある職を選ぼう」なんてメッセージを見かけます。この質問も、もしかしたら就活で受け取ったメッセージから出てきた質問なのかもしれません。
そりゃあ、やりがいは無いよりもあった方がいいとは思いますが、やりがいを基準に仕事を選ぶのはオススメしません。なぜなら、やりがいが有無なんて自分でコントロールしきれないからです。それに、「やりがい搾取」という言葉もあるように、「やりがい」を仕事選びの基準にしてしまうと「やりがいがあるんだから、お給料は少なくてもいいでしょ?」なんてことにもなりかねないからです。
もし、仕事を選ぶ基準で悩んでいるのでしたら、やりがいを中心に据えるのは私はオススメしないです。
⑦働いてて辛いことはありますか
教員時代からずっと同じなんですけど、自分の力不足でうまくいかなかったケースはやっぱり辛いですね。上司に怒られるのは別にイヤじゃないんですよ。怒られている瞬間は確かにイヤなんですけど、同じことを繰り返さないようにすればいいだけですし。
でも、自分の力不足や法人の力不足で、どうしようもなかったケースはずっと悔いが残ります。怒られるわけでも、注意されるわけでもなく、ただただ悔しさだけが残ることがこれまで何度かありましたね。
⑧働く意義を教えてください
これも6番の「やりがい」の質問と同じで、働く意義はそれぞれだと思います。これだけで終わると身も蓋もないので、もう少しお話ししますと、やりがいも働く意義も働いてみて初めてわかるものだと思います。勉強と同じです。
大学だと、授業のめあてやスケジュールがまとまったシラバスがありますよね。このインタビューもシラバスに沿ったものでしょうし、先生が設定しためあてがあるんだと思います。でも、勉強や学びって、そのめあての通りにはいきません。先生の話し方のクセに気づくとか、授業と関係ないけど九九が言えるようになったとか、めあて以外のことも生徒は学んでいきます。
きっと、このインタビューも同じじゃないですか。こんな話が出てくるなんて予想していなかったと思います。やりがいや働く意義も同じです。自分にとってのやりがいや働く意義は、誰も教えてくれないし、誰にも分からない。そして、自分自身も働いてみるまでは働く意義なんて分かりません。勉強だってそうです。分からない、知らない、できないことをするんですから。勉強する前からその意味がわかるなんてことはあり得ません。だから、なんでも始める前から「こんなの意味ない」なんて言うのは勿体無いと私は思います。
ここまでは個人的な意義についての話です。フリースクールで働いたり、フリースクールを立ち上げたりする社会的な意義はたくさんあります。
どんな意義があるかと言いますと、不登校の子ども達が学校以外に通える居場所が増えることは、育ちや学びの面でも、社会福祉の面でも、とっても意味があるんです。2021年10月に文科省から発表された調査では、不登校の小中学生が全国で20万人近くいるそうです。不登校になる子ども達が年々増える一方で、地方では不登校やフリースクールの理解がないところも珍しくありません。
人口が少ないところだと、フリースクールが必要だとわかっていても担い手がいないという現状もあるそうです。そんな状況ですから、フリースクールや不登校支援の担い手が増えることは、社会的にはとても意味のあることです。
⑨印象に残っている子供とのエピソードはありますか
たくさんありますね。数えきれないくらいです。話し出すとキリがないので、この辺で止めますね。
⑩この仕事にはどんな人が向いていると思いますか
子どもと直接関わる立場・経営者ともに共通しているのは、常に新しいことを学ぶ姿勢、古いやり方を捨てられる勇気、「責任を負う」と言える、これらの資質が重要だと思います。人ではなく、資質です。
新しいことを学ぶことや、古いやり方を捨てられる勇気については5番の質問でお答えしたような趣旨です。ずっと同じやり方が通用すれば楽ですけど、そんなことはないので、いろんなことを学び、時にはこれまでのやり方を捨てることも必要になります。
「責任を負う」と言えることに関しては、言えること、責任を負う立場になくても言うつもりでいることが大事です。「責任者出てこい!」とか、「お前が責任をとれ!」とか、「〇〇に責任があるんですよ」とか、「私に責任はありません」と言う人ばかりだと、物事ってどんどん悪化していくんです。
ニュースでも、ある不祥事に対して、「この件は全て私に責任があります」とか、「今回のことは、
私の不徳の致すところであり」なんて言って、責任を引き受けて謝る人をほとんど見なくなりました。
責任を負う大人のロールモデルが減り、責任を押し付け合う悪い大人の見本ばかりが増えていくので、子ども達や大学生さんは、責任とは煩わしく、面倒で、引き受けたら大変なことになるものだと思われているかも知れません。大人の一人として、申し訳なく思っています。
実際は「責任は負う」と宣言したほうが物事は良い方向に向きますし、仕事でも裁量が増えるので自分のしたいことがしやすくなります。私の場合だと、例えばフリースクールの子ども達の育ちや学びに責任を負っています。こんなこと、フリースクールに通う子ども達には直接伝えませんけど、常にこの心構えでいます。
だから、もしフリースクールで揉め事があったら話を聞きますし、進路に迷ったら一緒に高校を探します。ボランティアさん達がやってみたいことがあれば、「どうぞどうぞ」と背中を押します。もし万が一のことがあっても必ず私がフォローします。
なんとなく想像がつくかと思いますが、このように責任を負う人が増えれば増えるほど、万が一のトラブルが起きる可能性が少なくなります。「何かあってもフォローするよ!」とか、「〇〇さんへの連絡、やっときました」とか、「誰か転ぶかもしれないし、この机は片付けておきました」などなど、物事への主体的が関わりが増えるからです。
不登校で悩むご家庭にとって、フリースクールは最後の砦のような場合があります。教室に戻ることもできない、別室登校も上手くいかなかった。カウンセラーも合わないし、教育支援センター(教育委員会管轄のフリースクールのような場所)にも行きたがらない。このような状況で、やっと辿り着いたのが私たちのフリースクールだった、なんてことは珍しくありません。
そんな、やっと辿り着いたフリースクールのスタッフ達が、無責任で人任せな態度だったら、親御さんも子どもを預けたくないですよね。私の仕事を例に出しましたけど、「責任を負う」と言えることや、実際には立場じゃなくても責任を負うつもりでいることは、どんな仕事でも大事な資質かもしれません。
⑪経営当初と比べて不登校の子供の現状はどう変化したと思いますか
コロナ禍による一斉休校をきっかけに問い合わせの質が変わりましたね。一斉休校をきっかけに学校に行けなくなりました、という問い合わせが増えました。これは、先ほどご紹介した日本財団の調査で明らかになった不登校傾向にある子ども達が、一斉休校を機に「学校に行きたくない」と言えるきっかけになったと思っています。
⑫どんな時に子供の成長、変化を感じますか
辛い経験をした子どもが「あのときは○○だった」と、過去を振り返る視点でその経験を語れるようになったときや、これまではできなかったことができるようになったときですかね。
自分から同級生に話しかけるようになったり、一人で電車に乗って登校するようになったり、些細なことでも、これまではなかった言動があれば、成長や変化を実感します。
以上です。
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