てがみ
君は手紙を書く。明け方の、砂浜が見える砂丘の、小さなテントのそば。
焚き火は弱々しいが、温度はちょうどいい。小さな折りたたみ式のテーブル。
太陽の輪郭のいちばんてっぺんの部分が、水平線にかかっている。
君は手紙を書き終えると、署名する。そしてしっかりと封をして、
バックパックのいちばん奥底に潜り込ませる。焚き火でわかしたあたたかい
ミルクをのむ。僕は詩を書く。すべての単語を暗号化している。文字単位で
暗号化すると、複合が容易になってしまう。僕はもうじき死ぬ。君の
手紙の名宛人は僕かもしれないし、違うかもしれない。君以外の誰にも
それは分からないが、君は分かっている。その手紙はすでに名宛人に届いた
のだと君は分かっている。そのことに君自身が気づくことはないとしても。
悼むことをやめ、ともにあらねばならない。
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