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「ルックバック」に感動した!(容赦なくネタバレ!)

藤本タツキ原作の映画「ルックバック」、当地でも7月5日から二館目での上映が始まり、自分が6月30日に見た一館目ではもらいそこねた特典小冊子「Original Storyboard」をもらうことが出来た。

つまり一館目では公開3日目にして特典小冊子が無くなっていて、当地での人気の高さが伺える。なのでこの小冊子の正体が何なのか、手にするまでわかっていなかったのだが、なんと「ネーム全ページ」なのだ。

だから、絵も雑誌や単行本に比べてラフだし、そもそも主人公二人の名前も違う(藤野が三船、京本が野々瀬、漫画家としてのペンネームは藤野キョウが三船のの)。しかし、ほぼ全ページのコマ割りや構図が掲載版と同じなのだ。ネームが完成した時点で基本構想は固定されていて、吹き出しの中に入る文字の書体やQ数を指定するのがネームの役割なわけだから、絵はもっと適当にマルチョンくらいで済ませているのかと思いきや、ネームの段階で作品として読めてしまう!(これって当たり前なの?凄いことなの?山田玲司氏にぜひとも解説してもらいたい!)

漫画編集者はこれを見て掲載にゴーサインを出すのだろうね。全ページを細かく掲載版と比較して研究したいところだが、こういう興味を持つのは藤本ファン、漫画家を目指している人達かオタクくらいだろう。一般人には「なんじゃこりゃ?」と受け止められたのか、メルカリにも多数出品されている(苦笑)。

しかし、漫画家や創作者を目指す人達にとっては、たまらないほどのプレゼントなのではないか?作家藤本タツキの創作の秘密に迫れるのだから!めちゃめちゃ研究しがいのある貴重な特典だと震えてしまう。きっとこれは藤本氏から未来の創作者たちへのエールなのだろう。作中にも描かれているように、創作は孤独でキツくて辛いし報われないかもしれない、周りにもなかなか認めてもらえない、自分で意味を見失うことだってある。だけど!他人に自分が生み出した何かを届けるということは、こんなにも豊かで素晴らしいことなんだよ!って。

肝腎の映画の感想に移ると、上映時間が1時間に満たないと思えないほどの充実感と感情への暖かなインパクト。見た後にあれこれと考察したり感想を語り合える「余韻」を与えてくれる作品。

人生の中で誰にも訪れるであろう喪失と回復の物語、ではあるのだが、一つ気づかされたのは、京アニ放火事件の時、東日本大震災の時、作者だけではなく、全くの部外者である我々ですら、自分の分身を失うほどの喪失を体験していたのだ。まるで事件とは無関係の第三者である我々も、心の内では絆を打ち砕かれていたのだろう。ただ時間が経つのに任せるしかなかった自分を含めた多くの人とは違って、創作者ならではの「乗り越え方」を見せてもらったように思う。それはきっと多くの人の心を癒やすことだろう。

「乗り越え方」と言う言葉は、映画「シン・仮面ライダー」の中で、立花役の竹野内豊の印象的なセリフ絶望はお前だけじゃない、多くの人間が同じように経験している。だがその乗り越え方が皆違う。本郷は本郷の乗り越え方をすれば良い。」を思い出して引用してみたが、本質を捉えた良いセリフだなと改めて思う。

乗り越え方は人それぞれであり、当事者ではない我々は、泣いて過ごす、惚けて過ごす、友達と出かけておしゃべりしたり、一人で散歩したり、こうやって感想を書いたり、はたまた創作物として表したりと、無限の方法があるわけだ。創作者である藤本タツキ本人が「自分の中にある消化できなかったものを、無理やり消化する為にできた作品」というとおり、この作品は何かを揺り動かすパワーを湛えている。それを成し遂げたのは、原作者から「バケモノアニメーター」と称賛される押山清高監督の力量なのだろう。

作中で、藤野が京本の部屋の前でかつて自分が描いた四コマを見つけて「自分のせいだ」と慟哭してそれを破り、その一コマが京本の部屋に吸い込まれた場面からのパート、ここからの異界感にも引き込まれた。村上春樹で言うところの「壁抜け」に相当するような?あるいはイザナミに会いに黄泉の国まで出かけたイザナギはじめとする神話の英雄たちの冥界下りか?現代的に表現するなら別の世界線・タイムラインとの交接とも言える、自分の属する現実とは思えない異界ならではの理(ことわり)が、硬直した自分の現実を打ち破る助けとなるのは、古来の神話に見られる冥界下りと一致する。そう言う意味ではこの物語も、「戦後PTSDに対する神話リトリート」を現代日本の記号や文化で語り直したとも言えるのではないか?


他に印象に残ったのは、いつも背中をこちらに向けて絵を描いている藤野の向こうにある、大きな窓から見える四季の風景の移り変わり(Original Storyboardでは格子状の窓だったのが変更されていた)、全景で映し出される蔵王連峰?の季節ごとの美しさなど、さめしまきよし氏による背景美術が壮絶に美しかった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/蔵王連峰

haruka nakamuraによる音楽も、雄弁でグサグサ刺さるが後味が暖かく心地よかった。

2024/8/23追記:
スキをいただいた方の書かれた記事の中に、原作者藤本タツキ氏の言葉を紹介している映画ナタリーの記事が紹介されていたので引用させていただく。

物語の構想に関して、藤本は偶然読んだ本に書かれていた「死と和解できるのは創造の中だけだ」というフレーズが印象に残っていたと明かし、「『チェンソーマン』や『ファイアパンチ』も含めて、自分の作品全部に一貫していることだなと思いました。なので、それを軸にしようというイメージがありましたね」と続ける。

https://natalie.mu/eiga/news/579081


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