![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70167703/rectangle_large_type_2_0e66bd993aa3434f97bc7b16976864d9.png?width=1200)
ちょっぴり苦かった、オレンジジュース
「じゃーん! パパ~賞とったんだよ!」
くいーんにーなちゃんが玄関ドアを開けたと同時にかけつけてきました。
「おぉ! すげぇ!」
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70165368/picture_pc_86abc0b5fb1ad86db1eb88db80b32ae1.png?width=1200)
なんと!絵画で特選に選ばれました。
佳作までしかとったことない夫婦から、よくそんな才能が生まれたもんだとなかば半信半疑で感心しました。
「絵はどこ?」
「わかんない」
「じゃあどこかに貼りだされるのかなぁ?」
『大会名 特選』と検索すると、どうやら県立美術館に飾られるらしい。
わぉ!
山梨県下とあったので、県全体の小・中学校の作品。近くのスーパーとは比べもんにならないぞ!と完全に有頂天になった親バカは、はらぺこ雛鳥のように先生からの通知を待ちました。
「先生も教えてくれると思うよ、何か言われた?」
「うぅうん…なんにも」
「もしかしたら、山梨県じゃなく、全国いっちゃうのかもね!」
「いっちゃってる? いっちゃってる~」
ナダル風に言いながら、夕食を楽しく食べていたら、県内ニュースから流れました。
![](https://assets.st-note.com/img/1642467481748-xHrTytu6Fh.png)
「なんだよー やってんじゃん! 行くとしたら日曜日しかないよ!」
「そうだね、行こう!」
日曜日……
わくわくしながら開館ちょっと過ぎたくらいに着くと、美術館は長蛇の列。小さなお子さんからおじいちゃん、おばあちゃんまで、みんな家族の きんぴか を見に来ていました。
「こんなにたくさんいるんだね」
「山梨県全体だからね、すごいね」
建物の日影で寒かったが、3人で手をつないで並びました。くいーんにーなちゃんは顔こそニコニコしていましたが、緊張がつないだ手からひしひしと伝わりました。無理もない、自分の作品がこんなにたくさんの人に見てもらえるんだから。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70165497/picture_pc_b8e1e59c49e9cff6bee2d36be1f0b789.jpg?width=1200)
中に入るとそこにはたくさんの作品が、壁一面に宝石のようにきらきらと飾られていました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70165538/picture_pc_98c27bc98a4407e4a7b25ac8950af9a5.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70165541/picture_pc_8965ad369c49618dc291b2d4ad8ea912.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70165542/picture_pc_bd5a123f8746ee34302796c109eb29e4.jpg?width=1200)
いよいよ娘の小学校の作品があるブースにたどり着くと、娘の作品探しました。まるで合格発表の瞬間です。自分のことより、吐きそうでした。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70165415/picture_pc_acae648ce341aaada0adc9849d494230.jpg?width=1200)
「あきちゃん! 保育園のとき、一緒だった!」
小学校は別々になったけど、むかしの友達の頑張った姿も発見しました。
○○小学校 2年……
○○小学校 2年……
「あっ! かほちゃん!」
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70165425/picture_pc_c01cfdc3e800496c8093c8aa003fba37.jpg?width=1200)
娘の作品はありませんでした。
違うクラスの かほちゃん が選ばれました。
ぼくは気づかれないように娘の顔を横目でチラッと覗くと、ちょっとはにかみながら、くちびるを噛んでいるように見えました。天国から地獄に一気に突き落とされた気分です。先生から連絡や通知が来なかったのも納得しました。
「特選は何人かで、各学校で一人なんだね」
「でも、すごいことだよ」
ぼくたちからの言葉が届いていない感じでした。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70165568/picture_pc_986d1459af116e8de3b4b3c683ff0066.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70165540/picture_pc_81bd109d88a2963634576353ea94aa21.jpg?width=1200)
他の作品も順々に見ていると、
気がついたらくいーんにーなちゃんがいません。
見回すと、自分のブースの前にいました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70165448/picture_pc_d40410c4ecfe613fc5eb8d407173b063.jpg?width=1200)
嫁さんが娘を慰めようと、声をかけようとしたところを止めました。解決できるのは、本人と時間しかないです。
しばらく立ちすくんでいましたが、くるんっと振り向いてニコっと笑いました。
「帰ろっか」
「うん」
何をしゃべるわけでもない、なんとも言えない気持ちのなか、美術館を後にしました。
「よーし、競争しよう!」
「うん」
駐車場に停めてある車まで、3人で競争です。
「やったぁ、いちばーん!」
娘は去年よりも格段に速くなっていました。
「あのお店の、美味しいオレンジジュース買いに行こう」
今日は珍しく残したね。ちょっぴり苦かったかな。
その夜……
「パパ、くやしい…」
湯船に漬かりながら、吐き出すようにボソッと言いました。いとこや友達に かけっこ やゲームで負けても、ぜったいに言わなかった言葉です。
「2番だってすごいよ」
「やだー いちばんがイイ!」
あまりこういう感情を表に出さないので、『 くやしい 』を持っていたんだと、新しい一面が見れて嬉しくなりました。いつもお風呂場は本音がでます。九九も歌も英語もたくさん学んだけど、今日は道徳かな? 根性かな? とても素敵な野外授業だったね。
運動会や授業で順位をつけない風習があると聞きます。比べるのがかわいそう、みんなで仲良く、みたいな…
『2番じゃダメですか?』なんて言った人もいたっけ?
そうじゃないと思う。
2番で良いなんてことはない。
いちばんを目指して何が悪い。
誰だって きんぴか を目指したいでしょう?
「次は書き初めがあるから、頑張る!」
「うん、うん! まだチャンスはたくさんあるよ! でもこんどは3番や4番の子も2番を狙ってくるかもよ」
「わかってる」
その言葉はとても重みがありました。2番は、1番にいちばん近いから、悔しいよね。でもね、その汗や涙や悔しさが血や肉になるんだよ。くいーんにーなちゃんには悪いが、2番で良かったと思いました。1番の子よりも大切なものを学んだかもしれないから。
「よーし!パパも……」
ガチャ!
「お前も頑張れよ!」
嫁さんが場外から飛び入りです。
がっ がんばっとるわ!
いいなと思ったら応援しよう!
![たご](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/109076449/profile_2b78a5833c636dc7bdc93501d9fb7b51.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)