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実写版『リトル・マーメイド』は何を間違え何が足りなかったのか。

アリエルの人種問題で肯定派否定派が色々と揉めていた本作だけど、個人的にその辺はマジでどうでもよくて、今回の感想でも一切触れるつもりはない。
それよりも物語自体に欠陥があると感じたので、それについて書いていこうと思う。

まず良かった部分。

オリジナルのアニメ版は見たことない。
劇場に見に行った友人が「めっちゃ良かった」と言っていたので、ディズニープラスで見た。

歌がめっちゃ良かった!パートオブユアワールド!「分からないことたくさん!」の部分が超好き。
ディズニー史的にもトップオブトップの名曲なんだろうなって感じで、リプライズで擦りまくっていた
今後、この映画の欠陥を挙げていくけれど、別にそれによってこの歌の価値が減じたりはしない。

欠点1:歌声の意味。

話には正直不満がある。というか、成立してるか微妙な部分がある。

映画の中盤から、声を奪われたアリエルと王子のロマンスが始まる。
2人にとってアリエルの歌声は、2人の出会いの証明という意味を持つ。

それを失った2人は、しかし関係を深めていく。
ここで2人を結びつけるのは、未知の世界への憧れという2人の共通点だ。
アリエルは陸の世界に憧れ、王子は海の向こうの世界に憧れている。王子は自らを島に留めようとする母親に対して、「海外と関わるのは島の未来にも繋がる王子の責務だ」と言うのだけど、しかし海外の調度品を集めたり、地図の空白地帯に思いを馳せる様子からは、責任感だけでなく憧れも伝わってくる。
自分は、命を救うという運命的なきっかけが無かったとしても未知の世界への憧れによって結びつく2人のことを好意的に見ていた。

ところで、アリエルが声を封じたペンダントを破壊するアクションは、王子の部屋で岩を割り宝石を取り出したアクションと明らかに呼応している。
岩を割ったアクションが意味していたのは「内側にある大切な物を見つけ出す」みたいなことなんだろう。
そして、これをペンダント破壊のアクションに当てはめると、アリエルと王子にとって大切な物は、その歌声だったということになる。
実際、アリエルよりも魔女を選ぼうとしていた王子はアリエルの声を聞くことで彼女を選びなおす。

これは自分にとっては喜ばしくない展開だ。
歌声が出会いの証明になっている以上、これだと「結局大事なのはきっかけだ」ということになってしまう。
なので声を取り戻すシーンでは「は〜〜しょうもな😡」と思ってしまった。

一応、アリエルの歌声は、2人の出会いだけでなく彼女の未知の世界への憧れも象徴している。彼女が歌うパートオブユアワールドは、未知の世界への憧れを歌った歌だ。
しかしだからといって「歌声を取り戻すことで王子にもアリエルの未知への憧れが伝わり、それが決め手になったのだ」ということにはならない。
王子は、アリエルが喋れなかったときでも、2人で地図を読んだりデートをしたりする中で、アリエルから自分と同じ未知への憧れを感じ取っていたからだ。

欠点2:捨て去られるものの描写。

もう一つ不満があって、海の中の暮らしをもっと見せてほしかった。というのは、陸を目指したことで(そしてラストで王子と共に旅立つことで)アリエルが手放すことになった物をちゃんと見せて欲しいということだ。
でなければ、仮にアリエルにとって海の暮らしが何の躊躇いもなく捨てられる程度の物なのだとしたら、ラストの門出のシーンでのアリエルの涙が軽くなってしまう。
アリエルが唯一涙を流すのがこのシーンだ。冒頭で「人魚には涙がない、だから余計に辛かった」っていう人魚姫の名文を引いてるくらいだから、明らかにここが肝のはずで、このシーンにノれないのはかなり致命的。

一応、アリエルが捨てるものの代表としてトリトン王が居て、それで十分とする見方もあるかもしれないけど、自分はそうではなかった。

また、「これからは陸の世界と海の世界で手を取り合って暮らしていこう」みたいなことを王女が言っていたが、このセリフに重みを持たせるためにもやっぱり海の世界の生活描写は必要だったと思う。(「あの夏のルカ」ではあんなに上手くやってたじゃん)

まとめ

まとめると

1.歌声を取り戻すことが王子の心を取り戻すことに繋がるのは、映画のそれまでの流れを台無しにしている。

2.アリエルが暮らしていた世界の描写が無いせいで、新たな世界に旅立つラストの感動が弱まっている。

オリジナル版と見比べた訳ではないので、もしかしたら上記の問題点は実写版の問題ではなく、オリジナルからの問題である可能性もある。
しかしそうだとすればこの実写版はそれを正せなかったということで、いずれにせよ実写版が問題を抱えていることに変わりはない。

そして、なんか不満が長くなってしまったけど、それでも歌が良かったのでいい映画だと思った。

その他、細かな感想。

・フランダーがめっちゃ魚だった。
これは単にビジュアル的に気になるだけじゃなくて、「こいつらなんなん?」って疑問も湧いてくる。
人魚の家臣がしゃべるカニで、しゃべる魚も居て、でもしゃべらない魚もいて、そいつらは鳥に食われる。ここはどういう世界なんだ?
てか人魚は何を食べてるの?魚?
多分アニメ版であれば、「アニメーション」というフィルターを通しているお陰で存在がファジーになって、この辺りの疑問は感じずに済むんだろうなと思う。

・王子はちょっと嫌い寄りだった。
デートの際、アリエルが馬車を暴走させるシーンがある。これはローマの休日のオマージュなんだろうが、ローマの休日のバイク暴走シーンは楽しく見られたのに、こっちでは王子にムカついてしまった。
多分、男側の立場の違いが原因だと思う。
ローマの休日のジョーはただの記者で、社会に対する責任感とかは特に持ち合わせていない。
一方でこっちの王子は、王子だし、常日頃から「この島の為に何ができるのか……」みたいなことを言ってる。
そこが自分にとっては重要で、「そんな奴が島民に迷惑かけて『ごめーんwww』とか言ってんじゃねえよ」って思ったのだと思う。

・デートシーンで言うと、アリエルの花の食い方が面白かった。

・天体観測&名前当てのシーンが良かった。名前を当てるっていう一度きりしか出来ないゲームめっちゃ良いよな。

・海中のトリトン王には威厳があるのに、海からでたらずぶ濡れのおっさんになってるのがちょっと面白かった。

・ぽっと出の女に王子を取られたアリエルが、心の中だけで歌うシーンの映像が好き。空の色味とか水中でドレスの裾が揺れる感じとか。

↓映画の感想まとめ。

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