『哀れなるものたち』の感想。そのまま超えてけ!
今更ながら、1月末に見た映画の感想を書く。
ヨルゴスランティモス監督の過去作は『聖なる鹿殺し』『女王陛下のお気に入り』を見ている。
『聖なる鹿殺し』は反吐が出るほど嫌いで、『女王陛下のお気に入り』は結構好き。
今回はどっちだろうと思いながら見に行ったら、めちゃくちゃ面白かった!
オチで「そこに着地するんかい!」ってなってクソ面白かった。感動的な音楽と満足げなエマストーンの顔が余計面白くしてる。
最初はかなりつまんなかった。画面は魚眼っぽかったりねじれたりして気持ち悪くなるし。白黒だし。
でもマークラファロと旅に出て画面に色がついてからは、めちゃくちゃワクワクするしめちゃくちゃ面白い。
広い世界と自分の位置。最後の決断。
彼女は男たちの間を転々としていく。男たちや娼館の女将は彼女に世界を教えてあげると言う。
そして彼女は、彼らの想定を超えて世界を知っていく。
科学から始まって、宗教、享楽、哲学に皮肉(貧困)、娼館は社会とそれを作る主体だろうか。(フーコー)
新しい場所に行ってより広い世界を知ったら、自分が今までどこにいたのかも知ることになる。そして唯一だと思っていたものが唯一ではないということにも気付いたりする。
それしかないと思っていたものが、選択可能なオプションの1つだったのだと気付くことで、その上でそれを選ぶかどうかという主体性を獲得できる。マークラファロを捨てたり、博士の元に帰ったり。
最終的に彼女は自分がどこで生きるのかを選び、そしてかなり悪趣味な元夫と言うべきか、元父というべきかな男への処遇も決める。
そこに着地するんかい!と言うオチも、我々の考える倫理の外側に着地するという意味では、常に求められる姿を逸脱して来た彼女の旅の流れからしてむしろ自然だ。我々の期待に沿う必要すらない。
まあ、気付けばそれだけで選択権を得られるという彼女の旅路はある意味特殊な事例ではある。実際のところ、自分が今どこにいるのかが分かったってどうしようもない場合もある。
彼女は一文無しになって娼館で働くことにしたけど、しかしそれは直前に彼女が哀れんだ貧しい子供達と同じ場所に立ったということにはならない。
それでも面白いし、そのまま行け!って感じのいい話だと思った。
その他、細かな感想。
・旅に出てからは面白かったっていうか、マークラファロと旅をするパートがマジで面白かった。
珍しく悪い男だったマークラファロ、熱烈ジャンプが直接的すぎて面白い。
そしてなにより、そんな彼への仕打ちと、彼がどんどん惨めになっていく様が可哀想で可愛すぎた。
・マークラファロの惨状をはじめ、かなり笑えるシーンが結構あった。静かな劇場だったので声を上げるまでは行かなかったけど、ラストとかでは実際にクスクス笑うくらいはしていた。
・エロ漫画みたいな性教育も面白かった。父親と娼婦のセックスを見ながらメモを取る幼い息子。最初の客、絶妙に嫌な感じだったな。髪の毛の長さとか体つきとか。
・ヨルゴスランティモスと組むエマストーンのマジで覚悟決まってる感じが好き。
・恋人がサラーにしかみえなかった。マジで似てる。髪型とかだけでなく人の良さそうな雰囲気も。
・ベラが最初に帰郷するあたりで隣の席の男性客が鼻を啜っていたので、なにが刺さって感動したんだろうと気になった。そんでその後の展開はどう感じたんだろう。急に梯子を外された感覚なのか、それとも納得があったのか。
↓聖なる鹿殺しの感想