「ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界」の感想。冒険が失われた世界での冒険。
どこを見ても「ポリコレに配慮しすぎ!😡」みたいな批判ばっかりでワロタ。確かに叩きどころの分かりやすい映画ではある。しかしそこじゃねえだろうと。
◇
全体的にめっちゃ面白かった。終盤に若干思うところはあるけど、だからといってこの映画を嫌いだとかしょうもないだとかは言いたくない。
今回はストレンジ・ワールドの感想と、本作から見えてきた今のディズニーの方向性、SDGs的な価値観が映画にもたらす影響について書く。
好きな部分
演出からインディジョーンズだったり、SWだったり(特にトランジションの編集)、とにかくあのあたりの映画の雰囲気がして、それが冒険もののストーリーと良く合ってた。この演出の意図としては、「冒険もの」として過剰演出することで、本作のコミックとしての性質を際立てようとしているんだろう。
飛行船で不思議な世界を冒険する話は児童小説みたいで良い。雲で出来たクラゲ?と触れ合うシーンではケネスオッペルの「スカイブレイカー」を思い出した。
主人公親子と、異世界に迷い込んで数十年、すっかり世捨て人みたくなった父親(祖父)、って構図は「センターオブジアース2」にも共通してるんだけど、めっちゃつまらなかったあの映画と、この映画のどこで差が生まれてるのか。
親子の再生をしっかり主軸に置いてるかどうかとかかな。
イェーガーとサーチャーとのやり取りが凄い好き。それまで息子の前で妻とイチャイチャしていたサーチャーが、イェーガーの惚気話を嫌がるシーンが特に好き。
サーチャーはめっちゃ可愛かった。(私ときどきレッサーパンダで見られた、お母さん側の物語を描く方向性をより強化してる?)
感じたモヤモヤ
奇妙な隣人の代表として、スプラットはかなり可愛かった。倉庫に閉じ込められ、鍵を開けるときのレジェンドとのやり取りが大好き。
しかしスプラットの存在にはモヤモヤする部分もある。あれは獲物を捕食者の元まで誘き寄せる存在で、その行為に善悪はないはずなのに、イーサンに優しくされることで何だか罪悪感を抱いている風だったのが若干腑に落ちなかった。
人間の価値観の中に組み込む必要あります?とは思うものの、ファミリー映画ならまあこれでも良いか。
しかし終盤になるにつれて無視できないモヤモヤが増えていった。
まず、農薬の散布を止めるためにイェーガーが絶対に必要であるという風には見えず、息子(サーチャー)のために残ることと、自分の夢のために進むことの二者択一が成立しているようには思えなかった。
それより何より、みんなで海を見る最終盤のシーン、そして海しかない星にただ1匹で、行く当てもなく漂う亀のラストカット。
ここにどうしようもない空虚さを感じてしまうのは僕だけか?
本作から見える今のディズニーの方向性
・奇妙な隣人を退治するのではなく、一緒に暮らしていく。
・生活を豊かにしようという志向から、多少の不便は受け入れてでも持続可能な生活を、という志向へと進んでいくSDGs映画。
これは入植物語としての「バズライトイヤー」の続きの話であるようにも感じられる。
外への志向を捨てて内に留まるというのはバズライトイヤーと共通している。ここにしか世界はないのだという感じ。
というわけで、本作を見ることで今のディズニーの方向性がよりハッキリした。つまり
1.輝かしい物語の批判的な語り直し。(これは割とずっとやってる)
2.外ではなく内への志向。(二重の意味で)
3.これまで捨象されてきた親世代の子供としての側面
SDGs的な映画の持つ特徴
結局、SDGs的な映画はどうしたって内向きの志向を持ってしまうのだろう。
外側に無限の広がりを持つような世界を設定してしまうと、面倒事は外へ追いやる"放棄"や、理想の世界を求めて旅立つ"脱出"という解決が可能になってしまう。持続可能な社会を作ることの必要性を説くためには、世界には閉じていてもらわなければ困る。
持続可能な社会という概念は、世界全体の要素の総和を計算し切れるという前提の上に成り立っている。もうこの世界の地図に余白はない。
つまり、SDGsを説く物語において、どこかへ向かう冒険なんてものは成立しようがない。
最後に、いろいろモヤモヤした部分がありつつもこの映画が好きなのはなんでなんだろうとぼんやり考えている。
それは失われた冒険への郷愁が感じられるからかもしれない。
そしてこの映画には、失われた冒険と同時に、時代遅れになった価値観への郷愁も描かれている。それはバズライトイヤーには存在しなかったものだ。
その他、細かな感想。
・イェーガーによる酸の海の説明の描写が良い。油彩画っぽいのに画角ごとグリグリ動いていた。
・パンドを救う旅に誘われるシーンで、夜の菜園を眺める顔がガラスに反射する画が好き。
・犬と一緒に冒険するの最高だわな〜。
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