怒りを我慢するな - 誤解されるアンガーマネジメント -
”越境者”による”越境思考”、今回は「誤解されるアンガーマネジメント」について。
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アンガーマネジメントと聞いて何を思い浮かべるだろうか。
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日本アンガーマネジメント協会の説明では、
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「1970年代にアメリカで生まれたとされている怒りの感情と上手に付き合うための心理教育、心理トレーニングです。怒らないことを目的とするのではなく、怒る必要のあることは上手に怒れ、怒る必要のないことは怒らなくて済むようになることを目標としています。」
とある。世の中では、「怒りをコントロールして抑え込む」こととして誤解されているように思えるが、実際には「怒りの感情との付き合い方」であり、「ときには怒れ」とされている。
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そして、日本人は特に怒りの感情を表に出すことを恥と考える人が多いように思う。和をもって尊しとなすことを重視し、個人よりも組織の社会的な体裁を保つことを優先するが故に、「そのときが来ても怒らない」人が多い。そして、そのための技術としてアンガーマネジメントを学ぶことになる。
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しかし、これは非常に危険なことだと思う。
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最近読んで感銘を受けた本を紹介する。
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著者は精神科医として長年多くの患者と向き合ってきた経験的な推論として、心や精神的な疾患の原因は、心=身体と頭が乖離することにあるとしている。感じていることと、認知して判断しようとしていることが一致しない状態を続けていると、心=身体が壊れるか、もしくは頭が防衛反応として歪んだ認知を行うようになる。
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前者は、拒食症や無意識の自傷行為など、後者は鬱や多重人格などを引き起こす。極端なことを言っているように聞こえるかもしれないが、皆さんも食欲の無さや、投げやりな行動、無気力状態であったり、いつの間にか”本来の自分”を見失うこと、あるのではないだろうか。
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そして、アンガーマネジメントを、「怒りを理性的にコントロールする」と誤解して実行すると、上記のような疾患を引き起こすことになる。沸き起こった怒りという”感情=心・身体”を、理性的に”頭”で制御、いや正確に言えば制圧することになるからだ。感情を押さえつけることになり、結果として頭と乖離することになる。これはテクニックであり、続けることができる。抑え続けられた心と身体は遅かれ早かれ、あるタイミングで反抗するだろう。
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著作では、喜怒哀楽の中で、最も先に表出するのは”怒り”の感情であり、続いて”哀しみ”があらわる。喜びや楽しみというのは、その後で出てくるのだ。これが何を意味するのか。
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頭で怒りの感情を抑え込み続けると、喜びや楽しみと言ったポジティブな感情を抱くこともなくなっていくことになる。
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越境者は、国境、政府、団体、文化、価値観、思想、年齢、性別などを越えて生きている。境界を越えると、それまでの社会における常識が通用しなくなる。その社会を構成する人々の平均値、中央値、すなわち常識と越境者の個の間で激しい衝突が頻発する。結果として、感情を揺さぶられるようなことが日常的に起こる。
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怒りをマネジメントしようとしても、その頻度やインパクトがあまりにも圧倒的で、感情は堰を切ったように溢れ出ていく。結果として、仕事や人間関係を失うことも少なくない。一方で、彼・彼女たちは感情豊かに今を生きている。日本にいる外国人や、帰国子女、レズビアンやゲイたちは、過去の苦労を表に出さず軽やかに、鮮やかに生きているように見えるのは、感情を頭で制御することはできないことを身を持って知っているからだ。
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割とシンプルに。
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(1) 怒りを溜め込まずにこまめに出す
(2) 後に来る哀しみこそが味わい深いことを知る
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(1) 怒りを溜め込まずにこまめに出す
まず、これに尽きる。
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溜め込んで一気に爆発させるから、物事や人間関係を破壊するところまで至る。日本社会では我慢することが美徳になっていて、会社や仲間、友人だけでなく、家族にですら遠慮という言葉を使って我慢する。我慢の裏側には怒りの感情がある。その感情に蓋をし続けて、腹の中で発酵が進んだ結果として、突然の辞職であったり、離婚ということになる。
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だから、怒りが発芽した瞬間に外に出す。それが小さい芽であれば大したことは発生しない。対象は驚きこそすれ、あなたを責めることはないだろう。互いに共有した怒りの芽は、哀しみに変わり、そこから歩み寄りが生まれ、いずれは楽しさや喜びに繋がっていくことになるかもしれない。
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(2) 後に来る哀しみこそが味わい深いことを知る
そう、怒りの後には、哀しみが来る。哀しみは共感する力だ。その対象は、相手の感情でもあるし、自分の感情でもある。相手と自分に深く共感することによって、相手と自分とは溶け合うことになる。
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怒りを先に出してしまうことで、相手と融合することができる。それこそが人間愛なのではないだろうか。深いレベルで相手と自分とが融合することで、新しい展開が待っている。そして、その先には自然と楽しみや喜びに出会えるだろう。
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喜怒哀楽で重要なことは、怒りの発露であり、その結果人間愛としての哀しみに至ることができる。楽しみや喜びは映画で言うところのカタルシス。オマケみたいなものだ。ご褒美として存分に味わおう。
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喧嘩して仲良くなる。
雨降って地固まる。
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