なぜ愚者は失敗に学び、賢者は歴史から学ぶと言うのか
”越境者”による”越境思考”、今回は「愚か者は失敗から学び、成功者は歴史から学ぶ」ということについて。
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この言葉、聞いたことがある人、少なくないのではないだろうか。一方で、「失敗から学ぶ」ことの効用について説く人、本も多く見られる。では、我々”越境者”がそれでも何故「歴史から学ぶ」ことにこだわるのか、について考えを書く。
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具体的な例を書く。
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“越境者”は、ある境界を越えて生活をしてきた経験のある人々のことを指す。境界とは、国、思想、価値観、文化であり、場合によっては宗教であったり、特定の範囲における性別についての常識などについて意味することもある。
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日本で目にする代表的な越境者として在日外国人がいる(もちろん、同様の文脈で在外邦人としても構わない)。彼・彼女たちは、日本で生活をすることにより、様々な物事に出会う。結果として、様々な感情を抱く。
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日本人は本音をその場で言わないケースが多い。これは100人いたら全員がそうということではなく、大多数がそのような行動をしているということで捉えて欲しい。一方で、中国や欧米など個人主義的な思想が強い国・文化圏では、今この瞬間に本音を言うことが当たり前であることが多い。
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そういった国・文化圏から日本に生活の拠点を移してきた人々は、日本人とのコミュニケーションの場でストレスを抱えることになる。その場で自分から本音で話をしたら、陰口を言われたり、無言で離れていったりされた経験を持つ人は少なくない。
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彼・彼女たちはその瞬間、自分が否定されたように感じて傷つくことになる。自分らしく振る舞った行動が拒絶されたように感じるからだ。このような経験が続いた結果として、彼・彼女たちはその「失敗」を是正するような行動をとるようになる。皆と相対している時に本音を言わないようにしたり、婉曲的な表現に変えたりする。
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結果として、彼・彼女たちは”日本化”される。
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“日本化”という言葉、外国人と話をする機会があれば、是非ぶつけてみて欲しい。皆心当たりを持っているはずだ。そして、その大半は”日本化”された自分について、どこか感情的に矛盾を感じていたり、後悔していたり、具体的にそれを是正している今があることについて話をしてくれると思う。
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自分が知る在日外国人の友人たち、”日本化”されたままの状態でいる人よりも、その状態を超えて、再び自分本来の考え方や行為に戻ってきた人たちの方が、すっきりとした感情でいることが多い。
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そう、短期的な失敗と、長期的な原理原則とは矛盾することが多い。
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短期的な失敗とは、自分が今、その瞬間に属している社会、すなわちある限定された範囲における、他者の集まりにおける最大公約数、すなわち”常識”の中で、それと異なる解釈と選択(判断と行動)をしたことで起こった矛盾のことだ。その社会と自分との違いを認識した結果として人はその社会に拒絶されたと”頭で認識”する。そして、その社会における”未来での不都合を想像”した結果として不安になる。だから、その解釈(考え)や選択(行動)を是正する。
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ところが、人というものは、認知の世界から心を変容することについて抵抗を覚える。頭で心を支配しようとすると、身体に無理が出る。この例では、日本という社会に合わせて本音を言わなくなった在日外国人たちは、その屈折した気持ちを心に溜め込むことになり、「未来への不安を解消することが目的だったにも関わらず、今、この瞬間に気持ちの悪い感情を抱える」ことになる。
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失敗から学んだはずが、余計に辛くなる。当たり前の結果で、なぜなら人間というのは社会的な生き物である以前に、動物としての存在がベースになっていることを忘れた解釈、選択をしているからだ。こういったことは目の前で起こっている事象が教えてくれることではなく、歴史が教えてくれる。
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かつての哲学者、自然科学者、数学者、詩人、芸術家などの古典を読むと、そのどれもが共通的なことが書かれていることに驚く。なぜなら、そういった人々は何か一つのことを極めていった結果として、物事の本質に気づいており、短期的かつ具体的な事象から、長期的かつ抽象的に物事の見方を変えていった結果として、共通的な真理にたどり着いているからだ。
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巷には失敗学や、短期的なPDCAを回すための教えで溢れかえっている。しかしそういったもののみに触れ続けて、影響を受けた結果として解釈・選択をし続ければするほど、人としての本質から外れ、心や身体に悪い影響が出ることになる。
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もちろん短期的な失敗学が有用なこともあるだろう。それでも、だからこそ是非古典にも触れて欲しい。”越境者”である在日外国人で古典に親しい人は多い。それは彼・彼女たちなりに、短期的な失敗学を回したことによる違和感を克服してきた過程に古典、すなわち長期的な大きな物語、歴史が寄り添ってくれたからだ。
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今日は、具体的な歴史についての入門に至るところまでは書くことはできなかった。いずれ越境者のサイトの中で、世の中の短期的な事象と長期的な本質の矛盾に基づいて、文献も推薦するので待って欲しい。もし、急いでいるのであればコメントやメッセージでその旨を連絡していただきたい。
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「失敗した」と”頭で考えた”時が要注意。
その時、心や身体がどう反応したか、常に意識して欲しい。
今日から始められるはずだ。
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