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竜田駅と双葉駅、請戸小学校まで
2022年7月10日(日) Day 1 - その2
天神岬から楢葉町海岸へ
天神岬から北に向かって坂を降りると程なく海が見える。井出川の河口、楢葉町海岸だ。映像作品の取材のため2016年8月にここを訪れているのだが、当時はまだ巨大堤防の工事は始まったばかりだ。防潮堤は地形を大きく変えてしまったものの、ふとした場所に懐かしい風景が残っている。
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竜田駅から双葉駅へ
竜田駅9:59発下り原ノ町行きに乗車。富岡→夜ノ森→大野そして10:19に目的の双葉駅に着く。降りたのは自分ひとりだけだ。去年2021年2月に、オープン間もない「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪問した。復興祈念の公園と企業誘致のエリアとして他の地域に先行し避難指示が解除された。いわき市に機能を移していた町役場も、仮設庁舎ではあるものの駅前に完成し、8月下旬、駅前の避難指示解除に合わせてここで業務を再開するらしい。全町避難が続いていた双葉町にも、限定的とはいえ住民が戻るかもしれない。だが11年の歳月とはあまりにも重いものである。
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前回は無料だったシャトルバスも、今は片道200円のコミュニティバスとして運行されている。バスの窓越しに真っ赤なユリの花が見える。10:32 バスは静かに駅前を離れる。10:38 伝承館・産業交流センター前に到着。海岸線に聳え立つ巨大堤防の工事も終わり、無人の芝刈り機が広い敷地をゆっくりと動いている。静かな「非日常」がここにある。
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巨大堤防と請戸小学校
震災遺構となった波江町立請戸小学校へと向かう。請戸小学校は双葉町ではなく隣の波江町にある。児童93名全員を大津波が押し寄せる直前に避難させたと聞く。一方で請戸・中浜地区の死者・行方不明者133名と壊滅的な被害となったのは、地震と津波の翌日3月12日に避難指示が発令され、行方不明者の捜索が打ち切られたからでもある。
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国道から海へと向かう巨大堤防(海岸線に白く見える道筋がそれ)への入口には低いロープが張られている。福島、宮城、岩手と、どこまで行っても海岸線を埋め尽くす。
海に向かって視界が開け、美しい、とても美しい風景が目に飛び込んでくる。青い海と白い砂浜。人はいない。岬に阻まれて見えないが、ここから南方向約3キロ先に福島第一原発がある。上端にわずかにのぞく鉄塔状のものが排気塔なのだろうか。水素爆発の直後に風が北西に流れたこともあり、原発からあまりにも近いこの地では放射線による被害が自体は最小に抑えられた。
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請戸漁港までは約4キロ。約1時間をかけてゆっくり歩く。すぐ脇をカモメが横切る。堤防と国道245号線に挟まれたエリアには高い盛り土はせずに、植林とその囲いが続いている。もともとはここに集落があった…しかし今は帰る人がいない土地となった。左手前方数百メートル先に外壁が水色に塗られた建造物が見え、それをGoogleマップで請戸小学校と確認する。堤防の上から降りる道は無く(それが入口のロープの意味だろう)、そのまま請戸港まで巨大堤防の上を直進する。
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堤防の終点で、港に停泊する船を右手に臨みながら国道を元の方角へ折り返す。道端に設置されたモニタリングポストは0.035 μGy/h(マイクログレイ毎時、μ Sv/hと同じ)と、除染後とはいえ驚異的に低い数値を示している。
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入口には「震災遺構波江町立請戸小学校」の看板がある。駐車場には10数台の車が止まっている。海岸から約300メートル。手指の消毒をして、入場料を支払い建物の中に入る。
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11年目の復興と
国道を戻りながら色々なことを考える。自分の見たものは震災と津波の現実であり、人々の記憶であり、詳細に再現された物語でもある。ただそれは「復興」とはまた別のものであろう。「復興」には莫大な資金がつぎこまれ、除染がおこなわれ、巨大堤防が造られ道路や鉄道にインフラが整備される。遺構が残され祈念公園が整備される。企業が誘致される。
おそらくこの地域の21世紀最後の巨大な投資を誇りに思う者もいるだろう。しかし同時に人々が心身ともに受けたダメージは11年の歳月で解消されたのだろうか。誰もがその「復興」について自由にものが言える状況であっただろうか。これから先自分達がどんな未来を望むのか、じっくりと耳を傾けてくれた人はいたのだろうか。
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「伝承館・産業交流センター前」14:10 発。双葉駅14:31発上り水戸行きに乗車。竜田駅14:53着。
<続く>大野駅から夜ノ森駅まで
8月30日午前0時に避難指示解除 福島県双葉町の復興拠点 居住再開へ 県内3例目/福島民報 2022/07/15
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