教育系弁護士が見る「やけ弁」第3話
第3話のテーマは、部活における事故です。
バトミントン部において、男子生徒が思いっきり振ったラケットが女子生徒の右目に当たってしまった。その結果、大幅な視力の低下が生じてしまった(また、右目に生じた傷も残る可能性が高い。)。保護者は、学校に落ち度があったと抗議しているというものです。
部活で担当になった宇野先生は「距離をとるように徹底していた。早川はシャトルを遠くに飛ばそうと悪ふざけをして、怪我が生じた。その際、自分は別の生徒の指導に当たっていた。」と述べていましたが、実際には、宇野先生は、部活中に居眠りをしてしまっていました。
①事故が生じた場合の調査について
事故が生じた場合の対応方法については、文部科学省が「学校事故対応に関する指針」という詳細な指針を出しています。いじめが背景にあると疑われる場合には「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」、自殺の場合には「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針(改訂版)」が出されています。
今回は部活中の事故であり、いじめが背景にあると疑われるわけではありません。また、自殺した場合でもないため、「学校事故対応に関する指針」に基づいて処理していくことになります。
② 部活動の事故における顧問・学校の責任
(1)学校の責任
学校の責任の有無の判断について、法的な構成は公立学校か私立学校かによってやや違いが生じますが、大枠の判断方法は田口弁護士の言ったとおりです。
校長先生は、「宇野先生の責任だった」と教育委員会に報告する、と述べています。しかし、重要なのは、学校に落ち度があるか否かに関わらず、その事故の背景を含めて調査し、再発防止策をとることです。
青葉第一中学校が公立高校であれば、教員に落ち度が認められた場合には、設置者である自治体が責任を負うことになります。教員又は学校に故意又は過失が認められた場合、一度学校設置者(自治体)が損害賠償を支払った後に、「故意又は重大な過失」がある場合には、自治体は当該個人に対して求償(一度自治体が負担した分を個人に対して請求すること)することができます(国家賠償法1条2項)。最近、大分で、公立高校において熱中症で倒れた部員に対し、この求償権の不行使が違法と判断された事例も出てきており(福岡高判平成29年10月2日裁判所ウェブサイト)、教員個人の責任は問われることが多くなるかもしれません。
(2)顧問の責任
現在、部活動における顧問の先生の負担・責任はかなり重いです。教員の負担・責任や生徒の安全も考えたときに、現在の姿が本来あるべき姿なのかはかなり疑問です。
前回の記事において、裁判例の一つに言及させて頂きましたが、部活関係の法的責任等について以下の本に詳しいので、色々見ていただくと参考になると思います。
白井久明ほか著『Q&A 学校部活動・体育活動の法律相談—事故予防・部活動の運営方法・注意義務・監督者責任・損害賠償請求— 』(日本加除出版 、2017)
私の知人の先生方もかなり部活を負担を感じています。個人的には、子どもたちとしっかり向き合う時間を確保するためにも、少なくとも、顧問については希望制にすべきではないかと思っています。
(3)教員の感覚
宇野先生の居眠りが職員室でうわさされている中、望月先生が「宇野先生、最近ずっと休んでなかった。だとしても、始動中の居眠りだけが一人歩きすることになるのですね。」とつぶやいています。事故が起きて教員の落ち度が指摘される報道がされたときに、教員の方々が感じる感覚ではないでしょうか。
弁護士は、判決や第三者委員会の報告書を読むので、問題となる行為等にのみ焦点を当てがちです。実際、特に裁判では、法的に問題となる事実を、事後的に振り返って立証していく作業なので、一部の事実のみを取り上げざるを得ません。そのため、判決等を見ると「なんかモヤモヤする」「揚げ足取られているみたい」と感じることもあるかもしれません。この点は、弁護士が学校に関わるときに必ず留意しなければならない点であり、一部の行為の背景にある事情に十分留意しなければならないと思います。
③ 利益相反
田口弁護士は、宇野先生に対し、あなたの代理にはなれないけど、あなたに対してアドバイスならできる、という趣旨のことを説明しています。また、NHKのホームページでは、反していないともとらえられる、とも説明されています。
しかし、確かに、スクールローヤーとしてどこまで踏み込んでアドバイスをするかは悩ましいとしても、以下の行為は完全にアウトだと思います。
・個別に教員の家に行って学校と対立している案件について個別に相談に乗ること
・学校に対して訴訟を提起することを持ちかけること
・一緒に医者に行って診断書をもらうこと
相手に対して訴訟を提起させることが究極的には学校の利益になるとしても、弁護士がとるべき手段は、相手をけしかけるのではなく、そのようなリスクがあることを学校に説明し、思いとどまらせることです。
この点は、しっかりと線引きしない限り、弁護士は誰からも頼られない存在になりかねないと思います。