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【書籍】「脳のクセ」を活かした自己成長の科学 – 先延ばしを防ぐ実践的メソッドーTHE21 ―菅原道仁氏
The21 2024年12月号の中で、「「脳のクセ」を理解すればその力をもっと引き出せる」(p13)を取り上げます。脳神経外科医である菅原道仁氏によるものです。まとめられています。脳がどのような特性を持ち、どのように扱えばその力を引き出せるのかを考察しており、怠けやすく誘惑に弱い脳の特性を活かして、目標達成や継続する力を引き出すための具体的な方法が述べられています。人材の育成という観点でも参考になるところが多々あります。
1. 脳の特徴と先延ばし癖について
脳は非常にエネルギー消費が激しい器官であるため、自然と「省エネ」を目指す傾向があります。人間の脳は体重のわずか2%程度の重さにすぎないにもかかわらず、消費エネルギーは身体全体の20%にも達します。このようにエネルギー消費が大きいため、脳は「できるだけ無駄なエネルギーを使いたくない」という性質を持つに至りました
。その結果、脳は変化を嫌い、既存の習慣を維持しようとするのです。この特性があるために、人はしばしば「先延ばし癖」を持ってしまったり、「新しい挑戦に対する抵抗感」を抱いてしまったりします。これは個人の怠けや努力不足ではなく、脳の構造的な特性が影響している部分もあるのです。
また、脳は「できるだけ慣れた方法でラクをしたい」という傾向を持っており、これが「怠け者」と感じる脳の正体だとされています。このため、私たちは「新しいことを始めるのが億劫」「やるべきことを後回しにしてしまう」「決断力が不足している」と感じがちですが、これは脳が新しい行動や未知のリスクにエネルギーを使いたくないと考えるために起こる現象です。
特に脳は、変化を伴う行動を嫌がるので、行動の切り替えが苦手だったり、誘惑に流されやすかったりする傾向もあります。脳がエネルギーを節約するために自動処理を行おうとするため、習慣的な行動や慣れたことに依存しやすくなるのです。したがって、脳が持つこの特性を理解することは、自己批判せずに効率的な方法で目標を達成する手助けになります。
2. ドーパミン・コントロール法
菅原氏は、脳を効率よく動かしやる気を引き出すために「ドーパミン・コントロール」という方法を提唱しています。ドーパミンとは、何かを達成したり喜びを感じたりした際に脳内で分泌される神経伝達物質です。これは脳に「またこの感覚を味わいたい」という意欲を与え、その行動を強化する役割を果たします。こうしたドーパミンの作用を利用することで、脳を「怠け者」から「自発的にやる気を持つ脳」に変えることが可能になるとされています。このドーパミン・コントロールには、三つの段階があり、それぞれに具体的な行動が求められます。
自己暗示
「自己暗示」とは、脳に「今日は○○をする」「△△を何分で行う」と具体的に目標を示し、自分に言い聞かせることです。声に出して繰り返すことで、脳がその目標を意識しやすくなり、行動に移しやすくなると言われています。脳科学的には「プラシーボ効果」とも呼ばれ、信じることによって効果が発揮されることが分かっています。日本には「言霊(ことだま)」という考えがあり、口に出すことで願望が実現するという信念が古くから存在します。自己暗示は脳の注意を引き付け、目標に向けた集中力を高める効果があるため、脳の特性をうまく活かす方法です。例えば、「今日はこのタスクを必ず終える」「夕方までに完了させる」などと声に出して言うことで脳を刺激し、怠けることなく目標に向けて動かしやすくなります。
スモールステップ
次に、「スモールステップに分ける」という方法が重要です。大きな目標を立てると、脳はそのスケールに圧倒されてしまい、途中で飽きたり無関心になってしまう可能性があります。そこで、目標を細かく分割し、一つずつ小さな成功体験を積み重ねることが推奨されます。
例えば、年単位での目標がある場合は、月単位や日単位に分けて行動することで、達成感を得やすくなります。達成感を得るたびに脳内でドーパミンが分泌され、次の行動への意欲が高まります。こうして強化学習のサイクルを回すことで、やる気が持続するのです。小さな目標をクリアするたびに脳が「できた!」という感覚を覚え、またその感覚を味わいたいと感じるようになるため、最終的には大きな目標に向かって着実に進むことが可能になります。
ドーパミンを分泌させる
最後に「ドーパミンを分泌させる」段階では、脳に「これから大きな出来事が待っている」という期待感を与えることで、やる気を引き出します。脳は「これから重要なことが起きる」と察知すると、自然とドーパミンを放出し、意欲が高まるようにできています。プレゼンテーションや重要な商談に挑む前に成功をイメージしたり、逆に準備を怠った場合のネガティブな結果を想像することで、脳がやる気を引き出しやすくなるとされています。こうして脳に対して「大事なイベントが待っている」という意識を持たせることで、ドーパミンの分泌を促し、さらに意欲が湧いてくるという好循環が生まれるのです。ドーパミン・コントロールはこのサイクルを繰り返し回すことで、脳のやる気を維持し、最終的に目標達成へと導く効果的な方法です。
3. ポジティブな脳の活用法
人はしばしば「完璧主義」に陥りがちですが、この考え方は脳の負担を増やすため、逆効果になることが多いとされています。そのため、減点法ではなく「加点法」で物事を考えることが推奨されています。目標を小刻みに達成することで脳が喜びを覚え、その積み重ねが大きな成功につながりやすくなります。完璧を求めず、小さな達成感を重ねていくことで、脳が「自分にもできる」と思いやすくなるのです。
また、「やる気が出ないから動けない」ではなく、「まず行動してからやる気を迎えに行く」という姿勢が重要だとされています。脳には「作業興奮」という現象があり、行動を始めると脳内の神経が活性化してやる気が湧きやすくなります。例えば、「まず体を動かしてみる」「試しにやってみる」ことから始めると、後からやる気がついてくることが多いのです。したがって、先延ばし癖を克服するためには「やる気が自然に湧くのを待つ」のではなく、積極的に行動することが効果的です。
4. 記憶と創造性の関係
菅原氏は、脳には「忘れる」機能があり、これは脳が新しいことを考える余白を保つための重要な仕組みであると述べています。日々の生活の中で、私たちは非常に多くの情報に触れていますが、その中には覚えておく必要のない情報も含まれています。もし脳がすべての情報を記憶していたら、余分な情報でパンクしてしまい、新しい発想や創造的な思考の余地が失われてしまうでしょう。そこで脳は「必要ないものを忘れる」ように設計されています。特に、何度も繰り返し思い出す情報や、強い感情が伴った出来事のみが長期記憶として保存されるため、脳は無駄なく情報を処理し、創造性を発揮しやすくなります。
5. 脳を喜ばせる習慣と肯定的な態度
最後に、脳を効果的に活用し成長を促進するためには、脳に対して肯定的な態度を持つことが重要です。例えば、日々の終わりに「今日は楽しいことがあった」と振り返り、ポジティブな感情を脳に刻むことで、脳がポジティブな情報を記憶しやすくなります。また、人から褒められた時には、素直に受け入れて感謝の気持ちを表すことで、脳が幸福感を得やすくなります。こうした習慣は、脳科学的に見ても脳の活性化に役立つとされており、肯定的な態度が脳に好影響を与えると考えられています。脳が喜ぶような行動を日常生活で積極的に取り入れることで、脳の「伸びしろ」を最大限に引き出し、創造性や柔軟性を高めることができるのです。
「脳の活性化メソッド」を実践することで、脳の特性を活かしながら効率的に行動を改善し、自己成長を促進できるとされています。脳の性質を理解することは、自己嫌悪や不安を減らし、豊かな生活を築くための第一歩となるでしょう。
企業人事の立場からの応用
菅原氏の述べる、「脳の活性化メソッド」は、社員のモチベーション維持や生産性向上、職場環境の改善に大いに応用できる内容です。特に、社員教育や働き方の見直しの場面で効果的に取り入れることで、社員の成長を支援し、企業全体の活力を高めることが期待できます。具体的に考察してみます。
1. 社員の「やる気」やモチベーションの理解と支援
このメソッドの中で示されているように、脳は「怠けやすく、変化を嫌う」という性質を持っています。これは企業の中でも「変革への抵抗」「新しいプロジェクトに対する不安」「業務の先延ばし」として現れやすく、人事担当者としては、社員が変化に適応しやすい環境を整えることが求められます。ドーパミン・コントロールを応用し、小さな目標を設定してそれを段階的に達成していく「スモールステップ」の考え方を取り入れることが有効です。社員が一度に大きな成果を求めるのではなく、小さな成功を積み重ねられるような目標設定を行い、達成感を得ながら前進する仕組みを提供することで、やる気を引き出し、長期的なモチベーションを維持しやすくなります。
たとえば、目標管理(MBO)の際に、社員が年間目標だけでなく、毎月・毎週の小さな目標を立てるサポートをすることで、ドーパミンの分泌を促し、達成感を積み重ねていく体験を提供することが可能です。また、達成を褒め、報奨制度を導入することで、「成功体験」を社員が実感しやすい職場環境を作り上げることができるでしょう。
2. 自己効力感を高める自己暗示の活用
自己暗示は、社員の自己効力感を高めるための有効な方法です。脳科学的に見ても、自己暗示によって脳が目標を意識しやすくなり、その達成に向けた行動が取りやすくなることがわかっています。社員が「自分にはできる」という前向きな自己暗示をかけられるように支援する仕組みを整えることが重要です。これは、キャリア開発の場や1on1の面談で、社員自身に「どのような目標を達成したいか」を具体的にイメージさせることや、自ら目標を言語化する場を提供することで可能です。さらに、上司や人事担当者が「その目標はあなたなら達成できる」「あなたにはそういった能力がある」といった励ましを行うことで、社員が自信を持ち、ポジティブな自己暗示を継続できるようになります。
また、新人研修やスキルアップ研修などの場面で、目標設定の手法を導入し、社員が小さな達成感を積み重ねられるように支援することも効果的です。こうすることで、社員の自己効力感が育まれ、長期的に自己成長を続けられるようなマインドセットが醸成されます。
3. 先延ばし癖や変化への抵抗に対するサポート
脳が本来「怠ける」性質を持ち、変化に抵抗することが指摘されています。これは、多くの企業が直面する課題であり、新しいプロジェクトや施策が進めづらくなる要因にもなり得ます。この性質を理解し、社員が新しい取り組みを先延ばしにせず、積極的に取り組めるようなサポート体制を整えることが求められます。そのためには、まず新しい業務を小さなステップに分解し、少しずつ慣れていけるようなプログラムを導入することが効果的です。さらに、「やる気スイッチ」を入れる工夫も必要です。
例えば、「作業興奮」を活用して、小さなアクションをきっかけにして大きな業務に取り組みやすくすることも考えられます。朝礼や業務開始前に簡単なストレッチや体を動かす時間を設けることで、脳が「やる気スイッチ」を入りやすくし、徐々に業務への集中力を高める効果が期待されます。また、リマインダーや業務の見える化ツールを用いて、社員が日々のタスクを視覚的に管理できるようにすることも、脳が自然と「次の行動」に集中しやすくなるサポート方法となります。
4. 記憶と創造性のバランスを促す職場環境の構築
脳が「不要な情報を忘れる」ことによって創造性を維持しているという興味深い視点が述べられています。社員が日々の業務で情報過多に陥ることなく、適度な新しい発想を生み出せる環境を整えることが必要です。これは、特にクリエイティブな部署や新しいアイディアが求められる場面で重要です。業務においては、必要な情報とそうでない情報を適切に区分し、効率的に情報を管理できるようなツールやプロセスを整備することが求められます。たとえば、日常業務の中で不要な情報は記録として残しておくことで、記憶する必要がないようにしておき、集中する必要がある重要なタスクに脳のリソースを割けるように工夫することが考えられます。
また、適度に新しいプロジェクトや異動のチャンスを与え、脳がマンネリ化せず、新しい経験を通じて刺激を受けることで、創造性を保ちやすくすることも重要でしょう。特に異なる分野での研修や他部署の業務を経験できるジョブローテーションを導入することで、脳が新しいことに挑戦する余白を持ち続けられるような職場環境が提供できます。
5. 肯定的な態度を醸成するためのフィードバック
日常的に行う評価やフィードバックの中で、社員が「自己肯定感」を高められるように配慮することも重要です。特に、肯定的なフィードバックを通じて、社員が自分自身に対してポジティブな認識を持てるようにサポートすることで、脳の「やる気」や「喜び」を引き出すことが可能です。脳が喜ぶことで意欲がさらに高まり、自己肯定感を持って業務に取り組むことができるようになります。
例えば、業務における小さな達成を上司が積極的に評価し、その都度フィードバックを行うことで、社員は自分の努力が認められていると感じ、さらなる挑戦への意欲が湧いてきます。
さらに、社員が失敗した場合にも、その経験を「学びの機会」として肯定的に捉える視点を伝えることが重要です。失敗は改善点を見つけるチャンスであると捉えるリフレーミングを奨励し、社員が次に向けてポジティブに考えられるようなフィードバックを心がけることで、職場全体に肯定的なマインドセットが広がり、脳の「伸びしろ」を引き出しやすい環境が構築されます。
このように、「脳の活性化メソッド」は、社員のモチベーションを引き出し、成長をサポートするための実践的なヒントが多く含まれています。脳の特性を理解し、社員一人ひとりが自己効力感を高めながら業務に取り組めるような仕組みや制度を整えることが、企業全体の成長に大きく寄与するものと考えられます。ヒントが多く詰まっていました。
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「脳の活性化メソッド」を視覚的にわかりやすく伝える内容になっています。各セクションで、脳のエネルギー節約特性や、ドーパミン・コントロールの三段階(自己暗示、小さなステップの積み重ね、期待感の喚起)、そしてポジティブな態度の重要性が図解されています。企業の人事環境への応用として、フィードバックや目標設定支援が視覚的に表現され、脳の特性を理解して成長を促すためのヒントが一目で分かる構成です。