攻めの休養:個人の活力と組織の生産性を高める新戦略:いまのたかの組織ラジオ#221
今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。
今回は、第221回目「生産性を上げる“攻めの休養”〜させてますか?してますか?」でした。
冒頭で、今野氏の声には若干の疲労感が漂っており、年末年始に義理のお父様の看病に奔走し、その後ご自身も体調を崩してしまったという、まさに疲労困憊の状態であることが語られました。義理のお父様は高熱に見舞われ、一時的に酸素マスクが手放せない状況だったそうで、今野氏自身もコロナやインフルエンザではないものの、それに近い症状で苦しまれたとのことです。
しかし、その大変な状況の中、今野氏はただ疲労を嘆くだけではなく、この経験をきっかけに「疲労」や「休養」について深く考えるようになったと語り、そこから今回のテーマである「攻めの休養」へと話が展開していきます。
今野氏が疲労の根本的な解決策を模索する中で、出会ったのが「ほぼ 日の学校」というオンライン学習サービスでした。
そこで偶然見つけた「休養学」という講義に興味を持ち、受講したことが語られます。講師は日本リカバリー協会の代表理事である片野秀樹氏で、片野氏の講義内容は、今野氏の休養に関する従来の認識を大きく覆すものだったと語ります。
片野氏は、一般的に多くの人が「疲れたら寝る」という単純な発想で休養を捉えているものの、それは単なる休息であり、真の休養とは異なるという衝撃的な事実を指摘しました。
片野氏によると、真の休養とは、単に体を休ませるだけでなく、積極的に活力を生み出し、心身のパフォーマンスを向上させるための行為であるべきだと主張します。つまり、疲労の反対は単なる休息ではなく「活力」であり、この考え方こそが、従来の「疲れたら寝る」という受動的な休養の概念を覆す、まさに「攻めの休養」の核心なのです。
「疲れをとるには 「攻めの休養」が大事なんです。」
片野秀樹 (博士(医学))
片野氏の講義内容に基づき、「休養」には大きく分けて3つの種類があることが紹介されました。
まず一つ目は「生理的休養」です。これは、睡眠時間の確保や、バランスの取れた食事、適度な運動などを通して、体を物理的に休ませることを指します。これは、いわば「守りの休養」であり、疲労を回復させるための基本的な要素と言えます。しかし、片野氏は、生理的休養だけでは十分ではないと指摘します。
そこで登場するのが二つ目の「心理的休養」です。心理的休養は、心のリフレッシュを目的とするもので、さらに3つのタイプに分類されます。
一つ目は「造形創造タイプ」で、これは絵を描いたり、音楽を演奏したり、手芸をしたりなど、創造的な活動を通して、心を活性化させるものです。
二つ目は「娯楽タイプ」で、好きな音楽を聴いたり、映画を観たり、落語を聴きに行ったりなど、自分が楽しいと感じる娯楽的な活動を通して、心をリラックスさせるものです。
そして三つ目は「信仰タイプ」で、親しい友人や家族と交流したり、会話を楽しんだりすることを通して、心の繋がりを深め、精神的な充足感を得るものです。心理的休養は、「攻めの休養」の重要な要素であり、心身のバランスを整え、活力向上に不可欠だと強調されました。
そして最後に、三つ目の「社会的休養」です。社会的休養もまた、「攻めの休養」に分類され、普段の生活パターンを変えてみたり、旅行に出かけたり、新しい場所に足を運んでみたりなど、気分転換になるような行動を通して、心身の活性化を促します。
今野氏は、片野氏の講義内容を聞き、これまでの自分の休養に対する考え方が、いかに受動的で表面的なものであったかを痛感したと語りました。特に、これまで疲労を感じた際は、睡眠をとることが唯一の解決策だと信じて疑わず、睡眠時間が確保できなかった時には罪悪感すら感じていたと振り返ります。
しかし、片野氏の提唱する「攻めの休養」の概念は、今野氏にとってまさに目から鱗で、その考え方に深く共感したと述べました。片野氏は、疲労を感じてから休養するのではなく、休養によって活力を高めてから活動を開始するという、まさに逆転の発想を提唱しており、この考え方は、今野氏の心に深く刺さったようです。そして、リスナーにも、休養の優先順位を考え直し、「攻めの休養」を積極的に取り入れることを勧めました。
さらに番組では、この休養の概念が、企業における従業員の健康管理にも大きな影響を与える可能性について議論されました。高野氏は、自身が管理職だった時代を振り返り、従業員の体調不良に対して、痛みや熱などの目に見える症状には比較的配慮していたものの、疲労感などの主観的な訴えに対しては「根性が足りない」「甘えている」などと安易に判断していたことを反省しました。
また、近年注目されている「ウェルネス経営」という言葉に対しても、多くの企業が、従業員の健康状態を維持する「守りの休養」に偏重しており、従業員の活力を積極的に高める「攻めの休養」という視点が欠落していることを指摘しました。高野氏は、従業員の健康を管理する上では、単に病気を予防するだけでなく、従業員一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮できるよう、活力を高めることを意識することが不可欠だと述べました。
最後に、日本人の生産性が低い原因の一つに、休養に対する考え方、つまり「働くために休む」という受動的な意識があるのではないかという仮説を提示しました。
海外では、「人生を楽しむために働く」という考え方が一般的であり、休養を人生を豊かにするための重要な要素として捉えているのに対し、日本では、休養を労働の妨げになるものとして捉える傾向が強く、その結果、疲労が蓄積し、生産性の低下を招いている可能性があると指摘しました。
この仮説に対し、休養を「活力」を高めるための手段として捉え直すことの重要性を強調しました。
今回は、これまでの休養の概念を根本から見直し、「攻めの休養」という新しい視点を取り入れることの重要性を再認識したのではないでしょうか。今野氏の個人的な体験談から始まった今回の議論は、個人の健康から組織の生産性向上まで、幅広いテーマに及び、多くの気づきと学びを与えてくれる、非常に有益でした。
人事の視点から考えること
現代社会において、企業が持続的に成長を遂げるためには、従業員の健康管理を単なるコストとして捉えるのではなく、組織の生産性を最大化するための戦略的な投資として捉える視点が不可欠です。その中心となるのが、今回、取り上げられた「攻めの休養」という概念です。従来の休養観が、疲労回復のための休息に重点を置いていたのに対し、「攻めの休養」は、従業員の活力を積極的に高め、創造性や生産性を向上させることを目的としています。人事としては、この「攻めの休養」を組織全体に浸透させ、従業員一人ひとりが最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整備することが、重要でしょう。
1. 意識改革:組織全体を巻き込む多角的アプローチ
「攻めの休養」を実践するためには、まず組織全体の意識改革が不可欠です。従業員が休養を単なる義務や休息ではなく、自己成長やパフォーマンス向上のための投資と捉えるように導く必要があります。そのため、階層別の研修、参加型のワークショップ、社内コミュニケーションチャネルの活用などを組み合わせた多角的なアプローチが有効です。新入社員には休養の基礎知識を、中堅社員には自己管理能力を、管理職には部下をサポートするリーダーシップをそれぞれ育成し、全従業員が休養に対する正しい理解を深めることを目指します。また、社内SNSやメールマガジンを活用し、休養に関する成功事例や専門家による情報発信を行い、従業員の主体的な行動を促します。
2. 制度・環境整備:多様なニーズに応える柔軟な選択肢
意識改革と並行して、従業員が「攻めの休養」を実践するための制度や環境を整備することも重要です。フレックスタイム制やリモートワーク制度を導入し、従業員が自分のライフスタイルに合わせて働けるように柔軟な働き方を推進します。オフィス環境においては、リラックスできる休憩スペースや自然を取り入れたデザインを取り入れ、従業員の心身のリフレッシュを促します。さらに、長期休暇取得奨励制度やファミリーフレンドリー休暇制度など、多様な休暇制度を導入し、従業員がそれぞれのニーズに合わせて休養を取れるように支援します。福利厚生においても、スポーツクラブや習い事の補助、旅行やレジャーに関する割引制度を導入し、従業員の自己啓発やリフレッシュを積極的にサポートします。
3. 管理職の意識改革:リーダーシップによる休養促進
「攻めの休養」を組織に浸透させるためには、管理職の意識改革が不可欠です。管理職が休養を「業務の妨げ」ではなく「生産性向上のための投資」と捉え、部下が安心して休養を取れるようにサポートする必要があります。そのため、管理職にはアンコンシャスバイアス研修やリーダーシップ研修を実施し、部下の多様な価値観を理解し、適切な休養を促すスキルを習得させます。また、管理職自らが休養に関する目標を設定し、率先垂範することで、部下にも安心して休養を取るよう促し、チーム全体のパフォーマンス向上を目指します。
4. 効果測定と改善:データに基づくPDCAサイクル
「攻めの休養」に関する施策は、実施して終わりではなく、定期的に効果測定を行い、改善を繰り返すことが重要です。従業員サーベイや休業率、離職率、生産性のデータ分析を行い、施策の効果を客観的に評価します。効果測定の結果に基づき、施策の改善や新たな施策の導入を検討し、PDCAサイクルを回していくことで、施策の精度を向上させていく必要があります。また、ROIを算出することで、施策への投資効果を検証することも重要です。
5. 文化の醸成:休養をポジティブに捉える組織風土
これらの施策を効果的に機能させるためには、「休むことは悪いことではない」という組織文化を醸成することが最も重要です。経営層からのメッセージ発信、ロールモデルの創出、コミュニケーションの活性化、失敗を許容する文化の醸成などを通して、従業員が安心して休養を取れる心理的安全性の高い組織風土を築き、休養をポジティブに捉える文化を醸成していく必要があります。
「攻めの休養」は、単に福利厚生の充実や休暇制度の拡充にとどまらず、組織文化を変革し、従業員の活力を最大限に引き出すための戦略的なアプローチです。企業人事としては、この「攻めの休養」の概念を組織全体に浸透させ、従業員一人ひとりが心身ともに健康で、高いパフォーマンスを発揮できるような、持続的に成長できる組織を構築していくことが求められます。この取り組みを通じて、企業は、従業員の満足度向上、生産性の向上、ひいては企業の成長という、三方良しの成果を得ることができるのではないでしょうか。
「攻めの休養」を表現したものです。青空の下でリフレッシュしている人々の姿は、体と心を活性化する重要性を強調しています。また、背景に職場シーンを取り入れることで、個人の活力が組織全体の生産性向上につながるというメッセージを込めています。全体的な明るさと爽やかさが、見る人に活力と希望を与えています。