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「流行のない時代」の消費と組織マネジメント:個人志向時代の企業対応戦略ー川上真史氏
川上真史ビジネス・ブレークスルー大学教授の「企業と心理学 トピックス #22 流行のない時代」というテーマを取り上げます。
「流行のない時代」の到来は、現代社会における消費者行動の変革を浮き彫りにしています。川上氏は、従来の「流行」がもはや消費者の選択において決定的な影響を持たなくなっていると指摘します。
かつて、流行とは集団の中での認識や他者の評価に基づき、人々が共通のアイテムや価値観を取り入れる指標となっていました。流行に遅れないようにするために、雑誌やテレビから最新情報を取り入れ、流行アイテムやブランドに対して高い価値を置くことが当たり前でした。
しかし、現在の消費者はその流行から解放されつつあり、自身の価値観や好みに従って「推し活」を行い、流行にとらわれない消費行動を選ぶようになっています。
この背景には、情報収集の方法が劇的に変化したことが挙げられます。今では、インターネットの普及によって個人が欲しい情報に直接アクセスできるようになり、流行に縛られずに商品を選べる環境が整っているのです。そのため、ブランドイメージや流行といった外部の影響よりも、自分の目で確かめた「実」を基準に物を選ぶ傾向が強まっています。この「実を重視する」という消費者の価値観の変化が、現代社会において流行が次第に薄れていく一因となっているのです。
「口コミ」から「一次情報」へのシフト
情報の信頼性に関しても大きな変化が見られます。かつては、口コミや宣伝といった二次情報が消費者の間で広まり、流行の一因となっていました。しかし、今では個人が一次情報、つまり他人のフィルターを通さない直接的な情報にアクセスできるようになり、口コミに依存する必要がなくなりつつあります。例えば、商品の購入を検討している場合、公式サイトや広告の宣伝だけでなく、SNS上に投稿されている他のユーザーの体験レビューや、YouTubeなどのプラットフォームにアップロードされた動画レビューが、購買の意思決定に大きな影響を及ぼします。
このような一次情報の重要性が高まると、企業のマーケティング戦略にも変化が求められます。ブランドのイメージを一方的に伝えるだけでは消費者の心をつかむことが難しくなり、消費者の求める「実」を提示し、具体的な価値を訴求することが重要です。この背景には、消費者の期待する価値が、かつての「皆が持っているから欲しい」から「自分にとって意味があるかどうか」に変化してきたことが関係しています。企業は、情報に基づいて判断を下す消費者に対して、より具体的かつ納得感のあるアプローチを提供する必要が出てきているのです。
マーケティング戦略の再考:ブランドよりも個別対応
流行が薄れ、個人が求める「実」を重視する時代において、マーケティング戦略も根本から見直す必要性が出てきました。従来、マーケティングの重要な目的はブランドイメージの向上であり、一般的な「ペルソナ」—顧客像を設定することで、ターゲットとする消費者層を絞り込んでいました。
しかし、消費者の行動が多様化し、従来のペルソナ設定が一貫性を保つのが難しくなっています。今では、顧客一人ひとりに合わせた「個別対応」が重視される時代となりました。これは、消費者が自分で選び、価値を感じるものを追求し、他人に流されない選択をするようになったからです。
この変化は、企業が提供する商品やサービスをよりパーソナライズし、消費者が求める情報や価値を即座に提供できるかどうかが競争力の源泉となることを意味します。特に、SNSやネット広告を活用することで、企業は多様なターゲット層に対して直接アプローチし、顧客一人ひとりのニーズに応じた提案を行うことが可能になりました。その結果、ブランドイメージや流行という大枠のマーケティング戦略だけでは消費者を惹きつけることが難しくなり、むしろ「実用性」や「直接の価値」が優先される時代になっています。
マネジメントの変革:権威よりも納得性を重視する時代
流行が薄れる時代の変化は、企業内のマネジメントにおいても同様に影響を及ぼしています。かつては、役職や地位といった「肩書き」による権威が、上司と部下の関係において重要な役割を果たしていました。例えば、「部長」や「課長」といった役職の存在だけで、上司の発言や指示が信頼され、従業員はその指示に従うことが求められてきました。しかし、現代では、役職に基づく指示ではなく、その指示内容の具体性や実効性がより重要視されています。
このような変化は、特に若い世代の従業員に顕著に見られ、上司や役職者の肩書きだけでは尊敬や信頼を得ることが難しくなっているでしょう。部下や同僚からの信頼を得るためには、肩書きに頼るのではなく、その人の持つ専門性や知識、指示の納得性が求められます。講演会においても、過去の経歴よりも話の内容や具体的な提案の質が重視され、従業員や聴衆はその場での発言が信頼できるかどうかに注目します。こうした背景から、現代のマネジメントは、上司が単なる権威として指示を行うのではなく、具体的で実践的な内容を伴った指導が求められる時代になっているのです。
新たな時代のマーケティングとマネジメントへの適応
「流行のない時代」では、企業と消費者の関係が大きく変化しています。従来のようにブランドイメージや流行を追求するマーケティングや、役職によるマネジメントが効果的であった時代は過去のものとなり、企業が提供する実際の価値や、顧客のニーズに対応する能力がますます重要視されています。消費者は、ブランドや流行ではなく、情報や価値に基づいた自分に合った選択をするようになっており、企業もまたその変化に対応する必要があるのです。
この新たな時代において成功するためには、企業は消費者の価値観の変化を理解し、個人のニーズに応じたアプローチや、実用的な価値を提供することが求められます。これは単にマーケティングだけでなく、社内のマネジメントにおいても同様です。個々の従業員が納得できる形での指導や指示が重要となり、役職や肩書きに依存しない形での信頼関係の構築が不可欠です。消費者や従業員の「実」を重視する姿勢が高まる中で、企業が成功するためには、ブランドや役職に頼るのではなく、実際の価値を見せ、個別のニーズに応じた対応を進めていく必要があります。
人事戦略にどう活かすか
「流行のない時代」というテーマは、企業の人事戦略にも大きな変革を求めています。かつてのように、企業文化やブランドイメージに基づく一律の価値観や評価制度では、従業員の多様なニーズや価値観に対応しきれなくなってきています。この新たな時代において、特に重要なのは、従業員一人ひとりの「実」を重視し、納得性のあるマネジメントとパーソナライズされたキャリア支援の提供です。以下では、人事が考慮すべき主なポイントについて具体的に説明します。
1. 社員の「実」を重視した評価とキャリア形成
従来の人事評価制度は、多くの企業で役職や勤続年数などに基づく評価が主流でした。しかし、現代の「流行のない時代」では、肩書きや職位に頼った評価基準だけでは、社員のモチベーションを引き出すのが難しくなっています。このため、社員一人ひとりの「実」、つまり、実際のスキルや成果、貢献度を公平に評価するシステムが求められています。具体的には、単に役職や勤続年数に基づく評価ではなく、社員が日々の業務の中で発揮している能力や成果に基づく「実力主義」の評価が必要です。
例えば、上司だけでなく同僚や部下からもフィードバックを得られるようにし、客観的かつ多面的な視点から評価を行うことができます。また、目標達成に至るプロセスやチームへの貢献度も評価指標に含めることで、短期的な結果だけではなく、長期的な成長やチームのための行動を評価する制度が重要になります。このような「実」を重視した評価制度を整えることで、従業員は自分が認められていると感じ、さらなる成長や貢献意欲が高まります。
さらに、キャリア形成の支援も重要な要素です。多くの従業員が自分のスキルや強みを生かし、さらにキャリアを積んでいきたいと考えていますが、そのためには企業側の支援が不可欠です。キャリアコンサルティングやメンタリング制度を導入することで、社員が自分のキャリア目標に向かって着実にステップアップできる環境を提供することが求められます。企業が社員の成長を支援することで、社員も企業に対して強いコミットメントを持つようになり、企業と社員の双方にとってメリットが生まれます。
2. 個別対応とパーソナライズされた人材育成
現代の消費者行動が個別対応に変化しているように、企業の人材育成も一律の研修や教育プログラムだけではなく、社員一人ひとりのニーズや成長段階に応じたパーソナライズされたアプローチが必要です。従来、企業の研修は全社員に共通の内容を提供することが一般的でしたが、現代では社員の個々のスキルレベルや将来のキャリア目標に合わせて柔軟なプログラムを用意することが重要視されています。特に、若手社員にとっては自分の成長に直結するスキルを学べる機会や、興味・関心を引く内容が含まれているかが重要な要素となります。
例えば、社員ごとに異なる成長目標やスキル習得のニーズに応じて、選択可能なスキル習得プログラムやキャリア開発ワークショップを提供することが考えられます。また、eラーニングやオンデマンドのトレーニングプログラムを取り入れることで、社員が自分のペースで学べる環境を整えることも効果的です。こうしたパーソナライズされた人材育成は、社員のモチベーションを高めるだけでなく、企業が多様な人材の成長をサポートする体制を整える上でも重要な要素です。
さらに、企業が提供する研修プログラムは、単にスキル習得だけでなく、社員が自らの成長を実感できるような内容であることが重要です。社員が主体的に学び、成長できる環境を提供することで、社員は自分が大切にされていると感じ、企業への帰属意識も高まります。こうした個別対応の育成は、社員が長期的に企業に留まるためのモチベーション向上や企業へのコミットメントの強化にもつながります。
3. 権威に頼らない信頼構築と納得性のあるマネジメント
「流行のない時代」においては、単に役職や肩書きといった権威だけでは、社員の信頼や敬意を得ることが難しくなっています。現代の社員は、役職に基づく一方的な指示や権威的なアプローチではなく、納得性のある具体的な指示を求めています。このため、人事は上司と部下の信頼関係を築きやすい環境を整えるために、さまざまな施策を講じる必要があります。
具体的には、上司が定期的に部下と1対1で面談を行うことで、日々の業務進捗や業績だけでなく、社員個々のキャリア目標や職場での課題についても意見交換できる場を設けることが大切です。このような面談の場では、上司が部下の話をしっかりと聞き、その意見や考えを尊重する姿勢が信頼関係の構築に大きく寄与します。また、上司が具体的かつ明確な指示を出すことで、社員は自身の業務に対する理解を深め、目標達成に向けたモチベーションが高まるでしょう。
さらに、部下が納得しやすい指示や説明を心がけることで、指示に従いやすい環境が生まれます。社員は、自分の業務内容や役割について十分に理解している上司の指示には、自然と信頼感を抱きます。このような納得性のあるマネジメントを実現することにより、社員は上司に対する信頼感を強め、組織全体のパフォーマンス向上にも貢献するようになります。つまり、単なる権威や役職の力ではなく、実際の業務や結果に基づいた指示やサポートが求められているのです。
まとめ:柔軟で実質的な人事戦略の構築
「流行のない時代」においては、社員一人ひとりの価値観やニーズを尊重した「実」を重視する評価制度、個別対応の人材育成、納得性あるマネジメントの実現です。これにより、企業は、従来の一律的な流行やブランドにとらわれない柔軟で実質的な職場環境を作り出すことが可能となります。
こうした戦略を取り入れることで、企業は変化する時代に対応しながら、社員が自らの成長やキャリアを追求できる魅力的な環境を提供することができます。また、個別対応や「実」を重視する文化が企業全体に浸透することで、社員は企業の一員としての自覚を強め、長期的な貢献を目指すようになります。さらに、柔軟な人事制度の導入により、企業は優秀な人材の流出を防ぎ、組織としての競争力を強化することも期待できます。
このようにして、人事としてもが「流行のない時代」に対応するためには、従業員の成長や満足度を最大限に引き出す施策を打ち出すことが、企業の成長と発展に繋がる重要な要素となってくるでしょう。
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個々の価値観や実用性に基づく消費行動が強調され、流行に左右されない個性や、自律的な選択をしています。現代のビジネス環境での柔軟で信頼関係に基づくマネジメントのシーンもあり、温かみのある雰囲気でまとめられています。