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【書籍】シャトレーゼ創業者・⿑藤寛氏追悼ー『致知』2023年5月号

 シャトレーゼ創業者である⿑藤寛氏が、2024年8月10日に亡くなりました。齋藤氏は、『致知』2018年5月号に、「人生も経営も試練が成長をもたらす」というテーマのインタビューが掲載されており、再読してみました。

 このインタビューは、シャトレーゼホールディングスの会長としての氏の経験、経営哲学、そして彼がどのようにして同社を現在の規模にまで成長させたのかを詳しく語っています。

 シャトレーゼは「おいしいものをお値打ち価格で」という一貫したモットーを掲げ、国内最大規模の菓子製造小売業としての地位を確立しており、その成功の背景には、齊藤氏が持つ独自の経営手腕と深い洞察を感じざるを得ません。


シャトレーゼの起こり

 シャトレーゼは、20歳の齊藤氏がわずか4坪の焼き菓子店「甘太郎」からスタートしたことに始まります。山梨県でのこの小さな店舗が、現在では国内外にわたる730店舗と160店舗を展開する大企業へと成長し、売上高1,150億円を誇る企業になりました。この成功は一夜にして成し遂げられたものではなく、幾多の試練と挑戦を経て、齊藤氏が持つ強い信念と粘り強さによって築かれたものです。彼は、その道のりで経験した試練こそが、企業と自分自身の成長をもたらしたと信じています。

三度の危機に直面

 齊藤氏は、これまでに三度の大きな危機に直面しました。その一つは、焼き菓子店を経営する中での冬季における売上低迷を乗り越えるために、アイスクリーム事業に参入した時のことです。夏場に商品が売れないという課題を解決するため、無謀とも言える設備投資を行い、アイスクリームの製造に乗り出しましたが、当初は大手メーカーとの競争に苦しみ、計画通りに事業を進めることができませんでした。しかし、齊藤氏はここで諦めず、日持ちしないシュークリームを大量生産・大量販売するという新しいビジネスモデルを考案し、この困難を乗り越えることに成功しました。この経験は、後にシャトレーゼが製造と物流、販売を自社で一貫して行う「ファームファクトリー」という独自の流通システムを構築するきっかけとなり、同社の競争力を飛躍的に高めました。

三喜経営

 また、シャトレーゼのもう一つの強みとして、齊藤氏が掲げる「三喜経営」が挙げられます。この理念は、企業経営の柱として、顧客、取引先、社員の三者が共に喜び、繁栄することを目指すものです。齊藤氏の両親から教わった「利他の心」に基づくこの経営哲学は、企業の利益追求だけでなく、社会的な責任と調和を重視するものであり、この考え方がシャトレーゼの経営全般に浸透しています。
 例えば、シャトレーゼは原材料価格の高騰や市場の変動にもかかわらず、可能な限り商品の価格を据え置き、お客様が安心して買い物できる環境を提供し続けています。この姿勢は、単に利益を追求するだけでなく、顧客に対する真摯な姿勢と誠実さを表しており、長期的な信頼関係の構築に寄与しています。

この時、現在も我われが大切にしている「三喜経営に徹しよう」という社是をつくりました。
一、お客様に喜ばれる経営
わが社は、常に技術革新に挑戦し、より良い商品をより安く提供して、お客様に喜ばれ社会に奉仕する。
一、お取引先様に喜ばれる経営
わが社は、お取引先様の繁栄のお手伝いと奉仕に徹し、運命共同体として共に栄える事を念願とする。
一、社員に喜ばれる経営
わが社は、事業は人なりと信じ、事業の発展を通じて、社員の人間形成を高揚し、会社の繁栄を通じて、社員の豊かな生活を実現し、併せて社会に貢献し、永遠の繁栄と幸福を目指して限りなき前進を続ける。
これは両親の教えに基づいたものなんです。僕の考え方は両親から受けた影響が大きいですね。

『致知』2023年5月号 p23より引用

若手の人材育成

 さらに、齊藤氏は若手の育成にも非常に力を入れています。彼が導入した「プレジデント制」は、若手社員が責任を持って事業を運営する機会を与えるもので、これによって社員の自主性と創造性が育まれ、企業全体の成長が促進されています。この制度は、各事業セクションにプレジデントを置き、そのリーダーシップのもとで事業が進行するという仕組みで、従来の一元管理体制から脱却し、分散型の経営を実現しています。この改革により、シャトレーゼはより柔軟で迅速な経営判断が可能となり、市場の変化に対応しやすくなりました。

起業の成長に向けた挑戦

 齊藤氏は、自身が(当時)89歳という高齢に達してもなお、未来を見据え、企業の成長に向けた挑戦を続けています。彼はシャトレーゼを1兆円企業に成長させるという目標を掲げ、これを実現するために「30年プラン」を策定しました。彼の信念は、「試練が成長をもたらす」というものであり、どんなに困難な状況にあっても、常に前向きな姿勢で挑戦を続けることが重要だと考えています。彼は、リーダーとして、どんな状況でもへこたれず、逆境を乗り越えることで初めて本当の成長が得られると信じています。彼のバイタリティーとリーダーシップは、シャトレーゼの発展において欠かせない要素であり、今は亡きといえども、その影響力は今後も続いていくことでしょう。

不惜身命 但惜身命

 また、齊藤氏は企業経営において「不惜身命 但惜身命」(2023年5月号の総テーマ)の精神を大切にしています。これは、自分自身の命を惜しむことなく、全力で仕事に打ち込む姿勢を意味し、彼はこの精神をもってシャトレーゼを世界一の企業にすることを目指しています。彼はまた、次世代のリーダーに対してもこの精神を伝え、彼らが自らの挑戦を通じて成長し、企業をさらなる高みへと導くことを期待しています。彼の目標は、シャトレーゼが顧客に喜ばれる商品を提供し続けるだけでなく、その存在自体が社会にとって不可欠なものとなることです。

これまでの経験を次世代に伝える

 最後に、齊藤氏は、自身の人生を振り返り、これまでの経験から学んだことを次世代に伝えることの重要性を強調しています。彼は、単に言葉だけでなく、実際の行動を通じてその精神を示し、社員や次世代のリーダーにその価値を理解させたいと考えています。彼は、これからもシャトレーゼの発展のために全力を尽くし、「常に前進」を続けることで、企業と自身の目標を実現する決意を新たにしています。

人事の視点から考えること

 齊藤氏のインタビューから、人事の視点で考えるべきいくつかの重要なポイントが浮かび上がってきます。これらのポイントは、企業の成長を支えるための人材管理や育成に直結するものであり、特に経営者や人事担当者にとって非常に有益な内容です。

1.人材育成の重要性と継承の文化

 齊藤氏が強調する「三喜経営」は、顧客、取引先、社員の三者が喜ぶことを目指すものであり、この理念の中で、社員に対する喜びをどう提供するかが非常に重要です。これは、人材育成の重要性に直結します。彼が娘に社長職を引き継がせたように、リーダーシップの継承を計画的に進めることが、企業の長期的な成長には不可欠です。
 また、社員が会社の理念を深く理解し、それを日々の業務で実践できるようにするためには、教育と指導が欠かせません。これには、集合教育だけでなく、現場での実践を通じた指導も重要です。

2.自主性を促す組織体制の導入

 「プレジデント制」は、社員の自主性と創造性を引き出す仕組みとして非常に効果的です。各セクションにプレジデントを置き、彼らが事業をリードすることで、社員一人ひとりが自分の役割と責任を強く意識し、自発的に業務に取り組むようになります。このような組織体制は、社員のエンゲージメントを高め、組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。また、プレジデント制により、若手社員がリーダーシップを発揮する場が増え、将来の経営者を育成する土壌が整備されます。

3.逆境を乗り越える精神とリーダーシップ

 齊藤氏が何度も語っている「試練が成長をもたらす」という信念は、リーダーシップ開発の観点からも非常に重要です。社員が困難な状況に直面した時に、どのようにそれを乗り越えるかが、彼らの成長に大きく影響します。人事部門としては、社員が試練に直面した際にサポートを提供すると同時に、彼らが自ら問題解決に取り組む環境を整えることが求められます。また、リーダーシップを発揮する機会を提供することにより、社員が逆境を乗り越える力を身につけ、組織全体の強靭性が高まります。

4.企業理念の浸透と実践

 シャトレーゼの成功には、先にも述べた、「三喜経営」という理念が全社的に浸透し、それが日々の業務に実践されていることが大きく寄与しています。このような企業理念の浸透は、社員のモチベーションや一体感を高める上で重要です。
 人事部門としては、企業理念を社員一人ひとりに理解させ、その理念に基づいた行動を促進するための教育プログラムやコミュニケーションの仕組みを整えることが重要です。また、社員がその理念を実践できているかを評価し、フィードバックを行うことで、理念の実践をさらに推進することができます。

5.長期的視野に立った人材戦略

 齊藤氏が目指す1兆円企業という目標に向けて、企業は長期的な視野に立った人材戦略を構築する必要があります。これは、短期的な成果だけでなく、将来の成長を見据えた人材の採用、育成、配置を行うことを意味します。また、グローバル展開を進める中で、異文化に対応できる人材の育成や、現地の市場に適応した人材マネジメントが求められます。人事部門は、こうした長期的な成長戦略に合致した人材戦略を策定し、実行する役割を担います。

まとめ

 齊藤氏の経営哲学から学べることは、企業の成長には、人材育成とリーダーシップの強化が欠かせないということです。企業が持続的に成長するためには、社員が自主性を持ち、逆境を乗り越える力を養い、企業理念に基づいて行動することが重要です。人事部門としては、これらの要素を支えるための環境整備や仕組み作りを積極的に推進していく必要があるのでしょう。

 大変学びの多い記事でした。⿑藤氏のご冥福をお祈りいたします。





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