【書籍】認知バイアスとミスを防ぐ6つの習慣:職場のメンタルヘルスを守るためにー日経ビジネス記事ー
日経ビジネス2024/8/30の記事に『心理学と脳科学で分析 ミス招く「思い込み」「緊張」に勝つ6つの習慣』が掲載されていました。
この記事では、心理学と脳科学の観点から、ミスを減らすために心がけるべき6つの習慣について詳しく解説しています。ミスを防ぐためには、まずその原因を理解し、それに対応するための具体的な対策を講じることが重要です。「いかにミスをなくすのか」ということは組織の中でも重要な課題であります。考察してみたいと思います。
人間の認知バイアスとミスの関係
ミスが発生する根本的な原因として、「都合の良い現実」だけを見ようとする人間の習性が挙げられます。人間は誰しも、多かれ少なかれ認知バイアスを持っています。認知バイアスとは、物事を自分に都合の良いように解釈し、判断する傾向を指します。例えば、「正常性バイアス」は、感知した異常がある程度の範囲内であれば、それを正常な出来事と見なすという傾向です。このバイアスにより、人は変化を嫌い、異変を過小評価する傾向が強くなります。たとえば、危機的な状況に直面しても、それを過小評価して適切な対応を取らないということが起こり得ます。
次に、「確証バイアス」というものがあります。これは、自分が既に持っている仮説や信念を支持する情報ばかりを重視し、反対の情報を無視する傾向を指します。
例えば、「これで大丈夫だ」と思っていたのに実際にはそうではなかったというようなミスがこれに当たります。確証バイアスは、特にビジネスや日常生活において重要な決断を下す際に、誤った判断を導くことがあります。
さらに、「楽観性バイアス」もミスの原因となります。このバイアスでは、自分は他人よりもリスクが低いと考え、無意識のうちに「自分は大丈夫」と思い込んでしまうのです。この思い込みが自信につながることもありますが、それが過信となり、必要な対策を怠る結果、ミスを招く可能性が高まります。
これらの認知バイアスは、非常に根深いものであり、完全に取り除くことは困難です。しかし、まずは自分がどのようなバイアスを持っているかを理解し、それを認識することがミス防止の第一歩であるとされています。
ミスを防ぐための具体的な方法
ミスを減らすための具体的な方法として、まず自分の行動を客観的に見る機会を設けることが効果的とのことです。
例として、あるタクシー会社の例が取り上げられていました。ドライブレコーダーの映像を用いて、運転手の研修を行っています。研修では、一時停止を守っていないなどの危険運転の映像を本人に見せ、「このドライバーの運転は危険だと思いますか?」と問いかけます。そして、「危険ですね」と答えた時に「これはあなたの運転映像ですよ」と明かします。このように、自分の行動を客観的に振り返ることで、自らのミスを認識しやすくなります。
もう一つ例を挙げます。ミーティングでは、実際に発生した注文ミスの事例が紹介され、例えば「Aさんが○○という注文を間違えました」とは言わず、「このようなミスがあった場合、お客様はどのように感じると思いますか?」と質問します。スタッフはそれぞれ「お客様は混乱しただろう」や「不愉快な気分になったかもしれない」といった意見を出し合います。その後、「実はこの事例はAさんのミスでした」と明かされます。これにより、Aさんだけでなく、全員が自分の行動を客観的に振り返ることができ、次回からのミスを防ぐための意識が高まります。
また、ミスを減らすためには、自分の主観に左右されない根拠を集めることも重要です。何かを判断する際には、「数字」や「客観的な事実」など、確固たるデータに基づいて結論を出すように心がける必要があります。さらに、反対意見や“不都合な真実”を遠慮なく示してくれる周囲の存在も、バイアスを取り除くためには欠かせません。周囲の意見を素直に受け入れ、自分の考えを常に見直す姿勢が求められます。
作業の分断とプレッシャーがミスを増やす
ミスが生じやすい状況として、特にプレッシャーがかかる場面や作業の分断が挙げられます。被験者を2つのチームに分け、画面に次々と表示されるマークを素早く正確にタッチする作業の例が挙げられていましたが、プレッシャーが強いとミスが増えることが実証されました。特に、締め切りが迫る状況やペナルティーがある場面では、緊張状態が高まり、ミスの発生率が上がることが確認されています。
また、作業を最初から最後まで切れ目なく進めたチームと、作業の中ほどに区切りを入れて処理したチームを比較すると、後者の方がミスが頻発することが分かりました。これは、作業の流れが途切れた瞬間に余計な思考が入り込み、集中が途切れるためです。このような状況では、脳が新たなタスクに対応する際に混乱しやすくなり、結果としてミスが増えることになります。
ミスを減らすためには、プレッシャーに対処する方法を見つけることも重要です。たとえば、深呼吸やマッサージ、好きな音楽を聴くなど、自分に合ったリラックス方法を見つけておくと良いのでしょう。プレッシャーのある状況でも、自分を落ち着かせることができれば、冷静な判断が可能になります。
効率的な仕事の進め方と「即レス」の弊害
ビジネスにおいては、納期や責任などのプレッシャーが常に付きまといます。こうした状況では、まず「いつまでに、何を、どこまでやる」といった目標を明確にし、それに基づいて段取りを決めて動き出すことが重要です。これにより、冷静な判断や現状把握がしやすくなります。
「即レス」の弊害も取り上げられていました。すなわち、届いたメールやチャットにすぐに返信することも、一見すると効率的に見えますが、実際には作業が頻繁に寸断されるため、ミスの原因となることがあります。作業の流れを切らないためには、1時間ごとに返信するなど、大事な作業に集中するための「まとまった時間」を確保する工夫が必要です。このように、作業の効率を高めるためには、適切な時間管理と集中力の維持が不可欠であるといえます。
まとめ
ミスを減らすためには、自分の認知バイアスを理解し、それに対する対策を講じることが必要です。プレッシャーに対する対処法を見つけ、作業の流れを途切れさせないようにすることも重要です。
また、効率的な仕事の進め方を意識し、不要な「即レス」を避けることで、ミスを大幅に減らすことができるでしょう。認知バイアスやプレッシャーの影響を理解し、適切に対応することで、ミスの発生を防ぎ、より良い成果を上げることが可能となるとのことでした。
人事の視点から考えること
組織内でのミスを減らし、従業員のパフォーマンスを向上させるためには、認知バイアスに対する理解を深め、効果的な対策を講じることが必要です。さらに、従業員の心理的安全性を確保し、ミスから学ぶ文化を醸成することも、人事部門の重要な役割となります。ここでは、これらの視点をさらに詳しく掘り下げていきます。
1. 認知バイアスへの理解とトレーニングの必要性
まず、認知バイアスについての理解を深めることは、人事部門にとって極めて重要です。認知バイアスとは、無意識のうちに物事を自分に有利なように解釈してしまう心理的な偏りを指します。
例えば、「正常性バイアス」は、異常な状況やリスクを過小評価し、正常な状態であると誤って認識してしまう傾向があります。このバイアスが働くと、危険を見過ごしたり、問題が発生しても対応が遅れる原因となります。
こうしたバイアスの存在を従業員に理解させるための教育やトレーニングを実施する必要があります。
例えば、ワークショップやセミナーを通じて、認知バイアスが日常的な意思決定にどのように影響を及ぼしているかを学ぶ機会を提供することができます。また、従業員が自身のバイアスを認識し、それを意識的に避ける方法を身につけるための実践的なトレーニングも有効です。このようなトレーニングを通じて、従業員は自らの認知バイアスに気付き、それを克服するための具体的なスキルを習得することができます。
さらに、認知バイアスに関する教育は、特定の場面だけでなく、日常の業務全般においても重要です。たとえば、採用面接やパフォーマンス評価の際に、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が判断に影響を与えないようにするための研修も必要です。これにより、人事部門はより公平で客観的な評価を行うことができ、結果として従業員のモチベーションや組織全体のパフォーマンス向上につながります。
2. 客観的な評価とフィードバックの仕組みづくり
ミスを減らすためには、自分の行動を客観的に評価する仕組みが重要です。従業員が自分のパフォーマンスを客観的に見直すことができるような評価制度を設計するでしょう。例えば、多角的な視点から自己評価を行うことも一手です。これにより、従業員は自分の行動や態度が周囲にどのような影響を与えているかを理解し、改善点を見つけやすくなります。
また、フィードバックは具体的に、そして建設的であることが重要です。抽象的なコメントではなく、具体的な行動や結果に基づいたフィードバックを提供することで、従業員はどのように改善すべきかを明確に理解することができます。さらに、フィードバックを受け取る際には、受け入れやすい環境を整えることも重要です。心理的安全性が確保されている環境では、従業員は自分の弱点を認め、積極的に改善に取り組むことができます。
フィードバック文化を育むために、定期的な評価会議やフィードバックセッションを実施することが有効です。これにより、フィードバックが日常的に行われるようになり、従業員同士の信頼関係が深まります。また、フィードバックを通じて得られた情報をもとに、個別の成長プランを作成し、従業員が自分のキャリア目標に向かって着実に進んでいけるようサポートすることも重要です。
3. プレッシャー管理とウェルビーイングの向上
記事では、プレッシャーがミスの発生を引き起こす要因であることが指摘されていました。特に、締め切りが迫っている状況や高い責任が課せられている場合、従業員はストレスを感じやすくなり、その結果、ミスが増えることが分かっています。したがって、人事部門は、従業員が過度なプレッシャーを感じないように、職場の環境を整えることが求められます。
まず、業務の優先順位を明確にし、無理なスケジュールを組まないようにすることが重要です。各部署やチームの業務量を適切に管理し、過度な負荷がかからないようにするための調整役を担う必要があります。また、合理的な目標設定を行うことで、従業員が自分の役割を理解し、達成可能な目標に向かって働くことができます。
さらに、従業員のストレス管理を支援するために、メンタルヘルスサポートやストレス管理プログラムを導入することも効果的です。たとえば、ストレス管理のためのワークショップやリラクゼーション技術のトレーニング、社内カウンセリングの提供などが考えられます。これらの取り組みによって、従業員はストレスをコントロールしやすくなり、プレッシャーがかかる状況でも冷静に対処することができるようになります。
加えて、ウェルビーイングを向上させるための取り組みも重要です。例えば、健康促進プログラムの実施や、リフレッシュのためのリーダーシップやアクティビティの提供など、従業員の心身の健康を支援する施策を展開することが考えられます。これにより、従業員の満足度が向上し、結果としてミスの発生を抑えることができます。
4. 効果的なコミュニケーションと情報共有の促進
ミスを防ぐためには、組織内での効果的なコミュニケーションと情報共有が不可欠です。従業員が必要な情報にアクセスしやすく、円滑なコミュニケーションが行われる環境を整えることも重要でしょう。
たとえば、定期的なミーティングを設定し、情報共有の場を設けることで、従業員間の理解を深めることができます。また、情報共有のためのデジタルプラットフォームを導入することで、時間や場所に縛られずに情報を共有することが可能になります。
また、コミュニケーションの質を向上させるために、リーダーシップスキルの研修を行うことも重要です。特に、上司と部下の間での効果的なコミュニケーションは、従業員のパフォーマンス向上に直結します。リーダーシップ研修では、傾聴の技術やフィードバックの方法、エンパシー(共感)の重要性について学ぶ機会を提供することができます。これにより、リーダーは従業員の意見や感情を理解し、適切なサポートを提供することができるようになります。
さらに、「即レス」の文化についても見直しが必要です。即時返信が求められる環境では、従業員が常にプレッシャーを感じ、作業が頻繁に中断されるため、ミスが増える可能性があります。人事部門は、重要な作業に集中できる「まとまった時間」を確保することを奨励し、必要な場合には返信時間を調整する柔軟なルールを設けることが有効です。これにより、従業員は作業に集中でき、結果としてミスの発生を防ぐことができます。
5. ミスから学ぶ文化の醸成
ミスを完全になくすことは不可能です。従って、ミスから学び、成長する文化を醸成することが重要です。ミスを責めるのではなく、それを学びの機会と捉える組織文化を育むことも必要でしょう。ミスが起きた際には、単にその責任を追及するのではなく、何が原因でそのミスが起こったのかを分析し、改善策を考えるプロセスを重視することが求められます。
例えば、ミスが発生した場合には、フィードバックセッションを開催し、チーム全体で問題を共有し、解決策を議論する場を設けることが有効です。これにより、ミスから得られる教訓を全員で共有し、同じミスを繰り返さないための知識を蓄積することができます。
また、オープンなコミュニケーションを奨励し、従業員がミスを報告しやすい環境を整えることも重要です。心理的安全性が確保されている環境では、従業員はミスを恐れることなく報告し、その改善に向けて積極的に取り組むことができます。
さらに、ミスから学ぶ文化を醸成するためには、成功だけでなく失敗も評価する風土を作ることが必要です。失敗から学んだ教訓や新たな発見を称賛し、それを組織の成長につなげることで、従業員は新しい挑戦を恐れずに取り組むことができるようになります。人事部門は、こうした文化の醸成をリードし、組織全体が継続的に学び、進化していく環境を作る役割を果たすべきです。
まとめ
この記事が指摘するミスの原因とその対策は、組織全体のパフォーマンス向上に直結する重要な要素が多く盛り込まれていました。認知バイアスに対する理解を深め、客観的な評価とフィードバックの仕組みを整備し、プレッシャー管理とウェルビーイングの向上に努めることで、従業員がより健全で効果的に働く環境を作ることができます。
また、効果的なコミュニケーションと情報共有を促進し、ミスから学ぶ文化を醸成することにより、組織全体が成長し続ける基盤を築くことができるでしょう。
職場でのストレスとミスの防止に焦点を当てた内容を描いています。リモートワークでのストレス、マインドフルネスの実践、そして建設的なフィードバックセッションが、それぞれのシーンで表現されています。職場の健康とバランスを強調し、柔らかく穏やかな色合いで平和で反映的な雰囲気を作り出しています。