見出し画像

職場のエンゲージメント向上に不可欠な「聴く力」の技術

 「聴く力」は、単なる受動的な行為ではなく、相手の言葉に込められた感情や意図を深く理解しようとする能動的なプロセスです。この「聴く力」は、良好な人間関係を築き、円滑なコミュニケーションを促す上で欠かせないスキルであるだけでなく、「聴いてもらう力」にも繋がります。

 人は、自分の話を真剣に聞いてくれる相手に信頼感を抱き、心を開きやすくなります。例えば、職場で上司が部下の意見に耳を傾け、共感を持って受け止めることで、部下は安心して自分の考えを伝えられるようになり、より良い仕事に繋がります。逆に、話を遮ったり、批判的な態度を取ったりすると、部下は萎縮してしまい、コミュニケーションが阻害されてしまいます。

 「聴く力」を高めるためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。まず、相手の話に集中し、最後まで遮らずに聞くことが大切です。スマートフォンを触ったり、他のことを考えたりせず、相手の言葉に意識を集中させましょう。アイコンタクトを保ち、相手の表情や身振りから感情を読み取ることも重要です。

 次に、相槌を打ったり、頷いたりすることで、相手に「聞いているよ」というサインを送ることが重要です。相槌は、「うんうん」「なるほど」「へえ」など、短い言葉で構いません。また、相手の言葉の一部を繰り返す「オウム返し」も有効です。例えば、相手が「今日は疲れた」と言ったら、「疲れたんですね」と返すことで、相手に共感していることを示すことができます。

 さらに、相手の感情に共感し、理解しようとする姿勢も大切です。「大変だったね」「それは嬉しいね」など、相手の感情を反映した言葉をかけることで、より深いコミュニケーションが生まれます。また、相手の立場に立って物事を考える「共感力」も重要です。相手の状況や気持ちを理解することで、より適切な言葉をかけることができます。

 「聴く力」を高めるためには、質問力も重要です。相手の話を深く理解するために、「具体的にはどういうこと?」「他に何か気になることはある?」など、適切な質問をすることで、会話が活性化し、より多くの情報を得ることができます。オープンエンドの質問をすることで、相手は自由に話せるようになり、より深いコミュニケーションが生まれます。

 さらに、相手の話を要約したり、自分の言葉で言い換えたりする「フィードバック」も有効です。これにより、自分が正しく理解しているかを確認できるだけでなく、相手に「自分の話を理解しようとしてくれている」という安心感を与えることができます。フィードバックは、相手の言葉だけでなく、感情も反映させることが重要です。「あなたは~と感じているんですね」のように、相手の感情を言葉にすることで、より深い理解を示すことができます。

 「聴く力」は、一朝一夕に身につくものではありませんが、意識的に練習することで、必ず向上させることができます。日々の会話の中で、「聴く力」を意識し、積極的に実践していくことで、良好な人間関係を築き、より豊かな人生を送ることができるでしょう。

 「聴く力」は、ビジネスシーンでも重要なスキルです。例えば、営業マンが顧客のニーズを正確に把握するためには、顧客の話を注意深く聞く必要があります。また、リーダーが部下の意見を聞き、チーム全体の士気を高めるためにも、「聴く力」は欠かせません。

人事の視点から考えること

 人事の視点から「聴く力」の重要性を掘り下げると、組織の成長と発展に直結する、多岐にわたる効果が見えてきます。

 採用活動においては、単に応募者のスキルや経験を把握するだけでなく、その人となりを深く理解するための鍵となります。例えば、応募者が過去の職務経験で直面した困難や、それをどのように乗り越えたのかを詳しく聞くことで、その人の問題解決能力や レジリエンスを見極めることができます。また、応募者のキャリアビジョンや企業文化への共感度を丁寧に聞き出すことで、入社後のミスマッチを防ぎ、長期的な活躍に繋げることができます。

 従業員エンゲージメント向上においては、従業員の不安や不満を早期に発見し、適切な対応を取るための重要なツールとなります。定期的な面談や1on1ミーティングなどを通じて、従業員が安心して本音を話せる場を設けることが重要です。例えば、ある従業員が仕事量の多さに悩んでいるとします。上司がその話を真剣に聞き、共感の言葉を伝えるとともに、具体的な解決策を一緒に模索することで、従業員は孤独感を解消し、安心して業務に取り組めるようになるでしょう。

 人事評価においては、評価の精度を高めるだけでなく、部下の成長を促進する上でも重要な役割を果たします。評価面談では、一方的に評価結果を伝えるのではなく、部下の自己評価や今後の目標を丁寧に聞き取り、双方向のコミュニケーションを図ることが重要です。例えば、部下が目標達成に至らなかった場合、その理由や課題を詳しく聞き、具体的な改善策を一緒に考えることで、部下の成長意欲を高め、次の目標達成に向けてサポートすることができます。

 人材育成の観点からは、リーダーシップ育成においても重要な要素となります。リーダーは、部下の意見に耳を傾け、多様な視点を取り入れることで、より良い意思決定を行うことができます。また、部下の話を深く理解し、共感することで、信頼関係を構築し、チーム全体のモチベーションを高めることができます。リーダー向けの研修プログラムにおいて、「アクティブリスニング」や「コーチング」などのスキルを学ぶ機会を提供することで、リーダーの「聴く力」を向上させ、組織全体のリーダーシップ強化に繋げることができます。

 組織文化醸成においては、風通しの良い、心理的安全性の高い職場環境を作る上で欠かせません。従業員が自分の意見やアイデアを自由に発言できる雰囲気を作り出すことで、創造性やイノベーションが促進されます。例えば、定期的に意見交換会やアイデアソンを開催し、従業員が自由に発言できる場を設けることで、多様な意見を引き出し、組織全体の活性化に繋げることができます。

 このように、「聴く力」を捉え直すと、単なるコミュニケーションスキルの一つではなく、組織の成長と発展に不可欠な基盤であることがわかります。人事担当者は、自らの「聴く力」を高めるだけでなく、組織全体で「聴く力」を育むための環境整備や研修プログラムの開発など、多角的な取り組みを進めることが求められます。

上司が部下の話を真剣に聞いている職場のシーンを描いています。上司はアイコンタクトを保ち、うなずきながら共感的な表情を見せています。部下は安心した表情で話を続け、信頼関係が築かれていることがわかります。背景には、他の従業員も活発に話し合っており、協力的でオープンな雰囲気が漂っています。モダンなオフィスは、居心地の良い座席や植物、大きな窓からの自然光で温かく迎え入れる環境が整えられています。

このようなシーンは、良好な人間関係と円滑なコミュニケーションが職場の生産性や従業員満足度を高めることを示しています。


いいなと思ったら応援しよう!