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心の筋肉を鍛える: 共感力と集中力のマネジメント:いまのたかの組織ラジオ#206

 今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。

 今回は、第206回目「心の筋肉のトレーニング」でした。「心の筋肉」という概念は、日常生活や仕事において、私たちが無意識に感じている「めんどくさい」という感情との向き合い方に直結しているもので、この感情をどのように克服していくかという課題について、多くの気づきがありました。また、組織開発にも多く応用ができる内容ですので、その面でも考察をしてみたいと思います。

 今野氏、自身がSNSでの発信を増やしている理由を説明しながら、介護の経験が自身の意識や感覚を研ぎ澄ますきっかけになったと語ります。FacebookやInstagramでの投稿が増えた背景には、今野氏が、自身の義父の介護を通じて、自分自身と向き合う時間が増え、その中で得た気づきを他者と共有することの重要性を感じているからだと述べています。北見に移住してからの数年間で、父親と向き合い、言葉で表現されない感情や思いをどう読み取るかという難題に直面した経験が、過去に部下と向き合っていた管理職時代の経験と重なり、そこから多くを学び取っているということでした。

 ここで今野氏が強調しているのが「共感力」です。今野氏は、共感力を「情動的共感」という言葉で説明し、これは単なる感情移入や思いやりとは異なり、相手の行動や言葉の背後にある真の意図や感情を読み取る力であると述べています。
 例えば、介護施設で父親が介護士と会話している場面では、なぜ父親がそのような行動を取ったのか、またその行動の背後にある理由を理解しようと努めることが、相手を理解するためには不可欠であると語られています。このような共感力は、管理職として部下に向き合う際にも極めて重要な要素であり、部下の行動や言葉の背後にある動機や感情を理解することが、効果的なマネジメントに繋がるとされています。

 「感情を理解する」ということでは、アクティブ・リスニングも思い出したところです。

 さらに今野氏は、人と向き合う際に最も大切なものとして「集中力」を挙げています。自分自身にストレスや疲れがあると、他者に対する集中力が散漫になり、相手の感情やニーズを十分に読み取ることが難しくなると述べています。
 特に、介護の現場では、言葉が通じない状況や身体の制約がある中で、相手の感情や要求を汲み取るためには、通常よりも一層の集中力が必要であり、それを欠くと全てが上手くいかないといいます。
 この点は、リーダーが部下と向き合う際にも同様であり、パソコンやスマホを見ながら部下の話を聞くといった行動が、相手に対する集中力を欠いている典型的な例として挙げられていました。

 ここで注目してるのが、自身の「めんどくさい」という感情が集中力を妨げる大きな要因であるという点です。この「めんどくさい」という感情は、誰しもが抱えるものですが、それをいかに克服して他者に集中するかが、マネジメントや介護において成功するための鍵だと述べられています。特に年齢を重ねるにつれて、この「めんどくさい」という感情との戦いがより顕著になると話者は語り、心の筋肉、つまり相手に対する集中力や我慢力が衰えていく感覚があると述べています。この「心の筋肉」を鍛えるためには、日々の生活の中で意識的に「めんどくさい」と感じることに取り組むことが重要であり、それが長期的には他者との良好な関係を築くための基盤となるとされています。

 この考え方の根幹になるのが、渡辺和子氏(学校法人ノートルダム清心学園理事長)の「面倒だからしよう」というフレーズです。このフレーズは、見た目や印象を良くするために、小さな面倒なことを積極的に行うことの重要性を説いています。髪の毛を拾ったり、水滴を拭いたりといった、日常の些細な行動が、美しさや清潔感に繋がるという教えは、一見単純に思えるかもしれませんが、その背後には「めんどくさい」という感情を克服するための重要な心理的メカニズムが隠されています。つまり、「面倒だからしよう」という教えを実践することで、心の中にある「めんどくさい」という感情を徐々に弱め、それに打ち勝つ習慣を身につけることができるのです。

2024/9/28:渡辺和子氏『面倒だから、しよう』講読感想書きました。素晴らしい書籍です。

 今野氏はこの教えを自身の日常に取り入れ、SNSでの発信活動を通じて「めんどくさい」という感情に打ち勝つ努力を続けていると語っています。FacebookやInstagram、YouTubeでの情報発信が時には面倒に感じられることもあるものの、それを克服するためにあえて積極的に行動することで、自分自身を鍛えることができるとされています。このように「面倒だからしよう」という考え方は、単なる自己啓発的な教えに留まらず、日々の生活や仕事、さらには人間関係全般に応用できるものであるとしています。

 「心の筋肉を鍛える」というテーマは、単なる個人の成長にとどまらず、リーダーシップやマネジメントにおいても重要な要素であるとしています。話者が自身の介護経験を通じて得た学びは、部下や他者との関わり方にも応用できるものであり、リーダーとして他者に共感し、相手の視点を理解するためには、「めんどくさい」という感情との戦いが避けられないというメッセージが強調されています。この戦いを通じて、心の筋肉を鍛え、リーダーとしての能力を高めることが、効果的なマネジメントに繋がるとされています。 

 今回は、日常生活や仕事の中でどのように心の筋肉を鍛え、他者との関係をより良いものにしていくかについての貴重な教訓を示したものでした。特に、共感力、集中力、「めんどくさい」という感情との向き合い方に関する洞察は、リーダーシップやマネジメントにおいても役立つものであり、聞き手に多くの示唆を与える内容となっています。次に考察してみたいと思います。

人事の視点から考えること

 この話を人事視点でさらに考察すると、組織全体のパフォーマンス向上やリーダーシップ開発、さらに社員のエンゲージメントに関連する重要な要素が見えてきます。「共感力」「集中力」「めんどくさいという感情との戦い」について、これらをどう職場に取り入れ、育成するかが、人事にとって重要な課題であるといえるでしょう。

 組織の成長や効果的なリーダーシップには、これらの要素が欠かせず、これを推進するためには、具体的な施策やサポート体制が必要です。以下、いくつかの観点で考察してみます。

1. 共感力の育成: 社内コミュニケーションを円滑にするための土台

 職場での共感力は、単なる表面的な思いやりや優しさではなく、深いレベルで相手の立場や感情、さらには行動の背景を理解する能力として非常に重要です。ラジオでも「情動的共感」として触れられているこの力は、特にリーダー層やマネジメント層に求められる重要なスキルです。
 共感力の欠如は、チームのモチベーション低下やコミュニケーションの断絶を引き起こす可能性があり、組織全体の生産性にも悪影響を与えます。従って、共感力を職場全体で育成し、促進するためには、研修やワークショップの導入するのもよいでしょう。

 例えば、リーダーや管理職が部下の感情や動機を正確に理解するためには、1on1ミーティングの場で、単なる業績や数値の確認にとどまらず、部下の感情や意欲、さらにはプライベートな背景までを理解しようとする姿勢が求められます。
 人事部門としては、こうした共感的なリーダーシップを促進するためのトレーニングプログラムを提供し、管理職が日常的に部下に対して深い共感を示すためのスキルを習得できる環境を整えることが大切です。

 さらに、共感力を高めるためには、リーダー自身が自己認識を高めることも不可欠です。自己の感情やバイアスに気づき、それを適切に管理することができるリーダーは、より的確な共感を示すことができます。このため、人事部門はメンタルヘルスケアやエモーショナル・インテリジェンス(EQ)に関する研修を導入し、リーダーが自己認識を深める機会を提供することが求められます。

2. 集中力と時間管理: 生産性向上のためのマインドセットと実務的対策

 「集中力」の欠如がパフォーマンスに与える影響は、人事部門にとっても重要なテーマです。特に現代の職場では、業務の多忙さやマルチタスク、デジタルデバイスの存在が、社員の集中力を奪う要因となっています。集中力を維持できなければ、部下や同僚とのコミュニケーションが不十分になり、業務の成果も低下してしまうことは避けられません。

 人事部門としては、集中力を保つためのワークライフバランスの改善や、効率的な時間管理をサポートする施策を導入することが求められます。例えば、働き方改革の一環として、フレックスタイム制やリモートワークの導入を進めることで、社員が自分のペースで仕事に集中できる環境を整えることが重要です。また、社員が定期的に業務から離れ、リフレッシュする時間を確保するための施策も必要です。集中力が低下している時に無理に働き続けるのではなく、適切な休息を取ることが生産性向上につながるという認識を広めることが大切です。

 さらに、マルチタスクを避け、シングルタスクで集中して仕事を進めるための技術やツールの提供も検討すべきです。社員が一つのタスクに集中しやすくなるような業務フローの見直しや、優先順位付けを徹底するためのワークショップを実施することが効果的です。これにより、社員が効果的に集中力を発揮し、業務効率が向上する環境を作り上げることができます。

3. 「めんどくさい」という感情への対応: 持続可能なモチベーション管理と業務効率化のために

 「めんどくさい」という感情にどう対処するかは、働く人々にとって日常的な課題です。特に長時間労働や同じ業務の繰り返しが続くと、誰しもがこの感情に直面することが少なくありません。
 しかし、今回取り上げられているように、この「めんどくさい」という感情を無視するのではなく、積極的に向き合い、それを乗り越えることで、心の筋肉が鍛えられ、結果として業務の成果が向上するという考え方は、人事においても重要な視点です。

 「めんどくさい」という感情に対処するための具体的な方法として、人事部門が取り組むべきことは2つ考えられます。

 1つ目は、社員が感じる「めんどくさい」と感じるタスクや業務プロセスの見直しと改善です。社員が日常的に直面する手間のかかるプロセスや、非効率な業務フローを簡素化し、できる限り業務効率を向上させる取り組みを行うことが大切です。例えば、ITシステムの導入や業務プロセスの自動化によって、定型的な作業やルーチン業務を効率化し、社員がより価値のある業務に集中できる環境を作ることが求められます。

 2つ目は、「めんどくさい」と感じるチャレンジに取り組むことが評価される風土づくりです。社員が困難や挑戦的なタスクに対して、積極的に取り組む姿勢を評価し、奨励する文化を作り上げることで、社員のモチベーションを向上させることができます。
 例えば「挑戦賞」や「イノベーション賞」といった社内表彰制度を導入し、積極的に新しいことや面倒なことに取り組む社員を評価する仕組みが効果的です。また、失敗を恐れずにチャレンジする文化を育むためには、失敗を許容する組織文化を作り上げることが重要です。社員が新しいことに挑戦し、失敗したとしても、その努力やプロセスが評価される環境を整えることで、社員は「めんどくさい」と感じることに対しても前向きに取り組むことができるようになります。

4. 心の筋肉を鍛えるための継続的なリーダーシップ開発

 リーダーシップの向上には、技術的なスキルだけでなく、心の筋肉を鍛えることが重要です。リーダーが部下や同僚に対して共感し、集中し、適切に指導できるためには、自身の感情や「めんどくさい」という気持ちに打ち勝つ力が必要です。これを鍛えるためには、リーダーシップ研修だけでなく、定期的なフィードバックの機会を設けることが効果的です。人事部門はリーダーが自己の成長を実感し続けられるよう、継続的なサポート体制を構築する必要があります。

 具体的には、マインドフルネスやリフレクション(内省)を活用したトレーニングが有効です。リーダーが自己の感情や思考に対して意識を向け、それを客観的に見つめることで、心の筋肉を鍛えることができます。これにより、困難な状況やストレスに直面しても、冷静に対処し、部下やチームメンバーに対して適切なリーダーシップを発揮できるようになります。

5. 組織文化としての「めんどくさいことに取り組む姿勢」の醸成

 「面倒だからこそやる」という姿勢を組織全体に広めることで、チャレンジ精神やイノベーションの文化が醸成されます。社員が日常的に「めんどくさい」と感じる業務や課題に対して積極的に取り組むことで、組織全体の活力が向上します。人事部門としては、これを実現するために、組織全体でのチャレンジ文化を促進し、社員一人ひとりが自主的に課題に向き合える環境を整えることが重要です。

 例えば、定期的なイノベーションチャレンジやプロジェクトコンテストを開催し、社員が自分のアイデアを自由に提案し、それを実現するための支援を受けられる制度を設けることが効果的です。これにより、社員は「めんどくさい」と感じることに対しても前向きに取り組み、組織全体でのパフォーマンスが向上することが期待されます。

まとめ

 「共感力」「集中力」「めんどくさい心との戦い」は、すべて現代の職場におけるリーダーシップやマネジメント、さらには人材開発に不可欠な要素です。これらを効果的に職場に取り入れるためには、人事部門が積極的に関与し、組織全体での育成とサポート体制を確立することが求められます。共感力や集中力を高め、社員が「めんどくさい」という感情を克服できるような環境づくりを推進することで、組織はより健全で高いパフォーマンスを発揮できるようになるでしょう。

介護の現場で共感力を発揮しているシーンを描いています。父親との会話の中に、相手の感情を深く理解しようとする姿勢が表現されています。部屋全体は暖かく穏やかな雰囲気に包まれ、背景には父親の内面的な感情がほのかに描かれており、その背後にある思いを感じ取ることができます。これにより、管理職が部下と向き合う際にも共感力が重要であることが強調されています。


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