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降り立ったその街は、あたかも時間が止まったかのような雰囲気を醸し出していた。
一つは、まるで曲げ姿の侍が闊歩しているような古い町並み。
そしてもう一つは、あたかも「昭和」がそのまま続いているかのような、街と人だ。
古い町並みもまた魅力があったが、何よりもそこに乗り込んだバスの中での事だ。
駅から、観光スポットでもある、藩政時代からの街までは、徒歩だとやや億劫な距離のうえ、小雨も降ってくる始末だ。
「あ、あのバス乗らない?」
彼女が指さす方向に、ちょうどどこにでもある乗り合いバスが、まさに停車しようとしていた。
そのバスの運転手に、行き先を訊く。地元訛りそのもので応える
目的までは少し前が終点だというが、贅沢は言うまい。
私たちの他に、一番前の席に一人の乗客がいた。どうやら、地元の常連客らしい。
客と運転手がなにやら世間話をしてるようだった。完全な土地訛りで、方言もそのままなのでさっぱりわからない。
「なんだか、フランス語みたいね。」
「たしかに。」
バスの自動放送だけは「標準語」なので、支障は無いが、運転手も含め、土地の人たちは、昔からの鼻音や濁音を使いこなす、この方言で過ごしているのが日常なのだ。
伝統的保存町並地区とやらの入り口に、ほど近いところで、降車した。
そこも「昭和」が残っているかのような町並みだった。なにやら時空をたどるような気分になった。
その先にある「観光化」された地域であっても、その建物は藩政時代のものであるが、実際に人が住む住宅に使われている「文化財建築」がままあった。
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古くからの伝統ではあるが、ちゃんと今に生きているのだ。
時の缶詰・・。
ふとそんなフレーズが頭をよぎった。