「小世界大戦」の【記録】 Season1-18
新学期は、様々、小さなトラブルはあったが、
表面上はつつがなく始まっていた。
マスコミでは学校で何か事があると、ことさら大きく取り上げ、
誇張して報道する。
だが、実情はその「荒れ」がすべてではないという事だ。
また、「荒れる生徒」も荒れたくて荒れているのではないという事だった。
「荒れるしか手立てが考えられないの、
そういう子は、身近でよく見てきたよ・・ずっと。
あたしもそうだったけど、ちょっとした「めあて」を見つけたの。
それで吹っ切れた。」
涼美の言葉にはさすがに重みがあった。
それを胸の内にすると、不思議と反抗的な子どもたちに対しても、
なんとなく冷静な気持ちになれた。
ときにはその行為に思わず「むっとする」事はあったが、
「涼美の言葉」があるいみ自分の精神安定剤のような、
そんなものになりつつあった。
そのせいか、徐々に反抗的だった生徒も、心を解かして来る者もいた。
しかしその中で、1つの大きな課題がこの学校にはあった。
それは、職員室の「派閥」だった。
よくよく観察すると、大きく3つに流れがあるようだった。
1つは「大川教頭」シンパの「体制派」。
もう一つは「鶴澤教頭」シンパの「組合派」
そして三つ目は、野心家の「改革派」
そして、もう一つは「ノンポリ」だった。
この学校は職員定員最高数のマンモス校だった。
専任教員だけでも70人はいる。
これだけの教員がいれば、どうしても
「セクト」が生じるのは仕方がない事だった。
吾郎たち同期の教員の中にも、これらの
何らかの「セクト」にハマっていくものも、
何人かすでに現れ始めていた。
「オレの授業を見に来いよ、参考になるよ。」
いつも口癖のように、後輩教員に対して息巻いていたのが、
同じ社会科の「館山」というでっぷりと太った汗臭い男だった。
吾郎とはさほど歳は離れていない筈だが、
見かけの印象は「おっさん」そのものだった。
だが、この男はひどく声が大きく、ムダに威圧的だった。
生徒に対しても、常に大きな声で怒鳴るなど、高圧的に接していた。
「オレが生徒たちを抑えてるんだ。」
という事を常に言ってはばからなかった。
現に彼の前で生徒はきわめて従順な態度を見せた。
永山先生とはちがう、「騒々しい威圧感」だった。
聞けばバスケットボール部の顧問だという。
吾郎は自分の経験にあわせ、「うんうんなるほど」と妙な納得をした。
そして、この男をシンパとしている教員が何人か、
「T研修会」と称して、つるんで飲みに行っているようだった。
しかし一方では「柔道部顧問」になる自分も、
ある意味そんな「武闘系バイアス」が掛けられているのかも知れない
と考える事にした。
財前先生などは、館山の一派を「オレ民族」などと称して
影で揶揄していたが、彼もまた、よくのみに行く自分や満仲もふくめて、
「シニカル民族」と言われているのかも知れないとふと思った。
だが、どう人に思われようと
このように盛んにアピールして、派閥に取り組もうとしてくる者には、
一定の心理的な距離を置いた方が良いというのは
吾郎が自分の生育から学んできた「処世術」だった。
この話を涼美にしたところ、
「吾郎ちゃんの考えは良いとおもう。」
とちょっと素っ気なかったけれど、
彼女はひょっとしたら「軍師」なんじゃないかと思う一瞬だった。
しかも、必ず彼女はいうのだ。
「決断するのは吾郎ちゃん、そして結果に責任を持つのも吾郎ちゃんだからね。だから、独断というわけには行かない。
その『オレ』を出すような人は、最後には仲間を売って逃げる人だよ。」
「へぇ、親分肌だって思う人もいるんじゃないかな。」
「『オレ』とか一人称を前面に出す人って、
自分が一番大事で、とことん守る。
だから、平気で仲間裏切るよ。
そんなやつは端から信じないな。」
涼美の言葉にはある意味迫力があった。吾郎が感心すると
涼美はいつものように、ぺちんと吾郎のおでこを叩いた。
「あたしがどこで育ったと思ってるの?
そんな状況はイヤというほど見てきたよ。」
そう言って笑った。
「要するは、群れる事もなく、
かといって、ムダに孤立して、ターゲットにされることもなく、
マイペースでいる事だよ。吾郎ちゃんなら得意なんじゃないかな。」
「あは、そうかも・・。」
確かに彼女のいうとおりだった
To be CONTINUE
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